第19話 銀行のあり様②
『さて、お腹は落ち着きましたか?それでは、また話を続けましょう。そもそもあなたは、こんなことをする人ではなかったはずです。ここに、あなたを信じ、ぜひ本来のあなたに戻って欲しいと願っている人がいます』
警部補の冷静な口調に続き、悲痛な呼びかけが、拡声器から響いた。
『あんたーっ!』『とうちゃーん!』
マニュアル通りではあったが、対策本部長のここまでの交渉テクニックは、効果があった。
福島は、家族の声を聞いて『もうだめだ』の先の答えを漠然と感じた。手に持つ拳銃の銃口をこめかみにあてると、静かに引き金に指をかけた。
しかし、彼が指に力を入れようとしたその瞬間、銀行を取り囲む幾台かのパトカーを蹴散らせて、目の前に教習車が飛び込んできた。教習車は銀行の前で急制動をかけられたが、スピンしながら銀行の入口を突き破って止まった。車のフロントは外に向けられ、車体の後ろ半分ほどが銀行のロビーにめり込んでいる。あたりに、ウィンドウガラスの破片が飛び散り、ゴムの焼ける匂いが充満した。
福島は、車のテールに接触し、後ろへ吹き飛ばされた。銀行を取り巻く警官は、この想定外の乱入車に、しばしあっけにとられた。やがて、我に返って職業意識を取り戻すと、中心に向かって一斉に動いた。特に早く動いた人間がふたりいる。銀行内で人質になっていた支店長と、銀行の外で母に抱かれていた太一である。
支店長は外に逃れ、太一は父のいる行内へ走りこんだ。しかしそれ以外の人間は、空に向かって乱射された津山のマシンガンによって、また凍りつくことになる。
「なんぴとたりとも、動くんじゃねぇ!」
津山は大声で叫んだ。
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