第18話 銀行のあり様①

 三友銀行港北支店を中心に、パトカー、警官、狙撃手、救急車、報道陣、野次馬が幾重にも取り囲み、ヘリから見た光景は凱旋門を取り囲むパリの街路さながらであった。


 服部と石川が人を掻き分け、やっとのことで最前線にたどり着くと、それまで現場に付いていた警部が服部に状況報告をした。

 銀行内に立てこもる犯人はひとり。銃を保持。事件発生時に、たまたま行内に居合わせていた一般市民は幸い解放されたが、未だ支店長と銀行職員二名が人質として捕らわれている。その二名の名を聞いて服部は気を失いそうになった。よりによって麻里と修であった。


 行内に立てこもっているのは、読者もお察しの通り福島である。彼は、何でこうなってしまったのか、思い出そうとしても思い出せないでいた。気がついたら、銃を手にここに立っている。彼の後方には、怯えて固まっている3人の職員。そして、前方には、夥しい数の人と車が、息をひそめてこちらを伺っている。


『もうだめだ…』


 その言葉だけが彼の頭をめぐっていた。


『もうだめだ。もうだめだ…』


 しかしその先の、だからどうしたらいいのかまで、頭が回っていない。人質を道ずれに自滅するのか。それとも投降するのか。外からの刺激によって、彼の行動がどちらに振れるかわからない、とても危険な状態に陥っている。


『銀行にいるあなたと、話がしたい』


 拡声器を手に、港北署の対策本部長が銀行内の福島に語りかけた。


『また、キャリヤ組が陣頭指揮か…お前のせいで麻里にもしものことがあったら、その場で頭打ち抜いてやる』


 服部は、そう独り言ちながら、交渉人のすぐ後ろで殺気立って様子をうかがっていた。


『あなたは、もうお解かりだと思うが、この銀行はもうアリの隙間もないほど警察官で包囲されている。しかし、あなたは三人の人質を確保している。その三人が無事でいる限り、あなたの方が優位であることは、ここに集まっている全警察官が認めている事実だ。だから、まず冷静になって欲しい』


 対策本部長は、一息ついて続ける。


『お腹がすいては、これから大切な話もできないだろう。今から、ピザの宅配便をそちらに送る』


 その言葉に押されるように、ピザの宅配便のにいちゃんが、おどおどしながら、前へ出てきた。そのまま銀行へ入り、福島の前まで来ると、大きなプレートを差し出して、「お熱いですからご注意ください」と言い残して慌てて戻っていった。


 もちろん、このにいちゃんは警察官である。その体のあちこちに隠しカメラが仕込んであり、福島の容姿はもちろん、行内の隅々の様子に至るまで、鮮明な映像が対策本部に送られていたことは言うまでもない。映像は、即座に分析された。行内における人質の位置が確認され、突入チームがプランを練る。


 そして犯人である福島の身元が確認され、ピザが冷め切る前には、もう福島の妻と息子である太一が現場の対策本部に連れてこられていた。


 暫くして、警部補の説得が再開された。

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