第16話 恵美子の昼食

 病院内の職員食堂での昼。


「恵美ちゃん。今日の定食は丸サンマと肉じゃがだけど、どっちにする」

「焼き魚でお願いします」


 まかないのおばさんに津山恵美子は笑顔で答えた。

 おばさんは、椀にご飯をよそいながらもおしゃべりを止めなかった。


「恵美ちゃんは偉いよね。一人暮らしで大変なのに、お仕事に手を抜かないから患者さんの評判はいいし。休みもろくにとっていないんだろ。この病院も人手が足りないもの。大変だね。あたしも、恵美ちゃんにもっと精のつくものを食べさせてあげたいんだけど、理事長から経費削減しろって命令で、なかなか思うようにいかなくて…」

「お金掛けなくても、おばさんの作った定食は、いつも美味しいですよ」

「あら、おせじも上手くなっちゃって…。ところで、お兄ちゃんから連絡はあったのかい」

「最近、全然…。なにしてんだか…。この前連絡があった時は、なんだか、でっかい仕事するから、終わったら何でも買ってやるなんて、ほら吹いてたけど。それっきりなんです」

「そう。連絡あったら、たまにはおばさんの定食を食べに来るように言っておくれ。あたしが少し説教してあげるから。こんな可愛い妹に苦労させて、自分は何処ふらふらしてんだか、本当に…」


 恵美子は、笑いながら膳を受け取った。

 席について、サンマに箸を付けようした時、食堂のテレビからニュースキャスターの緊迫した声が耳に飛び込んできた。


『ただいま入ったニュースによりますと、三友銀行港北支店に強盗事件が発生しました。犯人の男は銃を持ち、銀行職員を人質に銀行内に立てこもっている模様です』


 恵美子のからだが一瞬固まった。恵美子は、犯人と兄のイメージが重なったのだ。


『犯人は単独犯で、身元はまだ判明しておりませんが、年齢は40歳から50歳と推測されます。それでは、事件の現場から実況中継で…』


 よかった。お兄ちゃんじゃなかった。もっと、お兄ちゃんを信用しなければ。恵美子はそう思い直してサンマに箸を付けた。

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