第2話、頼もしい仲間との出会い!

「こんにちは!俺、ヨルムっていいます!」

「ぎゃああああああああああああ!!」


俺の挨拶は無数の悲鳴で応じられた。

そりゃあ地面から出てきたらいきなり出たら驚くだろうな。

でも、俺はそういう生き物だから許してくれよ。てか、挨拶には挨拶で返すのが礼儀だろ。


「魔物の出現だーー!!」

「憲兵隊を呼べ!」

「ワームだ!超大型ワーム出現!!」

「……おーい、言葉通じてないのか?こっちに敵意はないぞ」


俺は不思議に思った。

苦労して覚えた人間の言葉が通じてないのだろうか。

山の中で発声練習したし、人間を騙せるのも実験済みなんだが。


「出でよ!火神の眷属たち!」


なにやら一人の老人が呪文を唱え、下位の火精霊が現れた。

どうやら俺を攻撃するらしい。なにをやってんだ、コイツ。


「こらあああああ!話を聞いてねえのかーー!」

「ひいいいいいいっ!ゴボボ……」


俺は一括して精霊を退場させるつもりだったが老人が泡を吹いて倒れた。

いかん。これじゃあ俺が悪いやつみたいだ。


「俺の話がわからないのか?冒険者組合ってここだろ?違うのか?さっさと答えないと他の街へ行くぞ」


そう言ってしばらく待つと人だかりの中で一人の女が震えながら言った。


「は、はい……ここが組合事務所ですが……なにか御用ですか?」

「おお、ちゃんと言葉が通じてるじゃないか!俺も登録したいんだ」

「……は?」

「登録したいんだよ」


いくつもの顔がお互いを見てひそひそと会話した。

俺の一族は小さな震動も感知するからすべて筒抜けだ。「何を企んでるんだ」「ワームのくせに知能がやたら高いぞ」「魔王の部下か」などと言ってる


予想したことだが、俺はこいつらにとって魔物側に見えるらしい。

俺から見れば人間も魔族も似たような二足歩行動物だし、仕方ないっちゃ仕方ないか。


「俺は魔王とは関係ないぞ。地下の世界に魔王の領土や支配権なんてないからな」

「そ、そうなんですか……?」


人間の女、あとで聞いたところでは組合の受付嬢が俺を見上げて聞いてきた。

その辺を少し説明すると腰の曲がった老人が出てきていくつか質問をした。


「私は組合長のジーンと申します。あなたは私たちの知る魔物のワーム類にそっくりなのですが、別の種族なのですか?」

「ワーム類ってどんなやつ?」

「こう……体が長くて地面から襲い掛かる……」

「あいつらか。冗談きついぜ!お前たち人間は吸血鬼や魔族と似てるが同じ種族なのか?」

「まさか!」

「それと同じだ。俺たちは俺たちって種族なんだよ」


まったく失礼な話だ。


「俺たち……ということは仲間がいるのですか?」

「ああ。他の連中は寝てばかりだけどな。何百年かに一度しか起きないんだ」

「で、では……あなたはなぜ組合に登録したいのですか?」

「勇者になりたいから」


伝説の勇者は冒険者から生まれたと俺は聞いた。

だから最初に冒険者になるのが通過儀礼だと思ったんだ。

俺がそう言うとしばらく沈黙が続いた。

そして組合長が言った。


「入った場合、その……組合の規則に従っていただきますが、よろしいですか?」

「規則?まあ、面倒じゃないならいいよ。俺は勇者ってやつになりたいんだ。仲間を連れて魔王を倒してやるぜ」


その言葉で人間たちの顔色が変わった。

ヒソヒソと話してるが「こいつ、何を考えてるんだ」「罠じゃないのか」「これが罠なら魔王も頭がボケたんだ」とか色々聞こえてくるぜ。


「わ、わかりました……。あなたを新人冒険者として登録致しましょう。お名前は?」

「ヨルムだ」

「職業は何でしょう?」

「もちろん勇者!」


俺がそう言うと場の空気が変になった。

何かを言おうとした人を組合長が止めた。んー、俺はおかしな事を言ったか?


「わかりました。勇者で登録します」

「ありがとよ!」


この時、俺は勇者が職業じゃないと知らなかったんだ。

でも細かいことは気にしなくていいだろ。組合長がいいって言ったんだし。


「で、勇者は仲間を引き連れて旅をするんだろ?どうやって仲間を作るんだ?」

「仲間……パーティの結成ですか?確かに必要ですな。だ、誰か、立候補するものはいないか?」


しーーーーーーん。

誰も何も言わなかった。

おいおいおい、俺は人気ないのか?


「戦いは自信あるぞ。たいていの生物は下からパクッと食べて終わりだからな。硬い岩盤も砕けるし、穴掘りも得意だぞ」


俺はそう言ったけど誰も立候補しない。

こりゃしばらくはソロ活動かなと思ってると群衆の中で小さな手が挙がった。


「わ、私、立候補します!」

「おお!組んでくれるか!どいつだ?」


人だかりの中から前に出てきたのは大きな帽子とローブをかぶった小柄な魔法使いだった。金髪で耳が少しとがっている。人間たちが亜人と呼んでる種族だろう。


「リーゼだ……」

「イカレてる……」

「あのガキ、本気かよ……」

「パーティ組む奴がいないからって……」


なにやら人間たちの目に冷ややかなものがあった。

よくわからんが俺は来る者拒まずだから問題ない。


「リーゼっていうのか。俺はヨルムだ。よろしくな」

「よ、よろしくおねがし……お、おねがいします!」


噛んだ。

まあ、いいか。


「よし!冒険のたびに出発だ!お前は空飛んだり、地下に潜れるか?」

「ど、どっちも無理です……」

「じゃあ、しゃーないか。俺の頭に乗りな!」

「え!?の、乗るんですか?それに、今から出発するんですか!?」

「のんびりしてたら他の奴が魔王を倒しちゃうかもしれないだろ。ほれほれ」


俺が首を下げて催促するとリーゼは恐る恐る俺の顔をよじ登った。


「よし。魔王討伐の旅の始まりだ!」


さらば。始まりの街。

俺は蛇みたく体をうねらせて道を進み、都市壁をひょいっと乗り越えて次の街を目指すことにした。仲間ができたから地下を掘り進むわけに行かなくなったが、地上の旅も一興だ。


「リーゼ、これからよろしく頼むぜ」

「ひゃ、ひゃいぃ!」


リーゼがぶるぶると震えながら変な返事をした。

後になってリーゼとあれこれ話してるうちに知ったことだが、こいつは俺の頭から落下死しないか不安で仕方なかったらしい。

まったく。早く言ってくれれば頭を低くして動いたのに。

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