アースワームは勇者になりたい!

M.M.M

第1話、おら地上さ行くだ!

ある世界の単位でおよそ1万5千メートル。

地表からそれくらい真下に進んだ場所に一家の寝床があった。


「父ちゃーーーん!聞いてくれよーーー!」

「ん…………どうした、ヨルム?」


ヨルムの父は眠たげな声で言った。

彼らは地下で生まれ、生涯のほとんどを寝て過ごすのんびり屋の一族である。たまに地中や地上の生き物を食べて腹を満たすが、それも数百年に一度のことだ。

彼の父は400年ほど眠っており、たった今起こされたばかりだった。


「地上の生き物が勇者物語ってやつを話してたんだ。すげー格好良いんだぜ?世界を滅ぼそうとする魔王を倒すために立ち上がる。俺も勇者ってやつになりたい!」

「ほお……まあ、なってみたらいいんじゃないか……ふああぁぁぁ……」


父はそう言って大きなあくびをした。

彼らの一族は食べて寝ることしか興味がない。ヨルムという個体は極めて変わり者、いや、変わり虫といえた。


「ふあぁぁぁ……あら、ヨルムは地上にお出かけするの?」


ヨルムの母が二人の会話で目覚め、こちらも眠たげに言った。


「うん、人間って連中と一緒に強い魔王を倒してくるよ!」

「魔王?そんな生き物がいるの?私が上に行った時は強い生き物なんていなかったけど……」

「母ちゃんが行ったのは500年くらい前の話だろう?地上は変化が早いんだ」

「まあ……よくわからないけど危ない真似をしちゃ駄目よ。いいわね?」

「わかってる!」


父と母の許可をもらい、ヨルムはうきうきして地上の冒険へ出かけようとした。

その体をがぶりと噛んで引き止める家族がいた。


「兄ちゃ~~ん、私も行く~~~」


ヨルムの妹だった。

起きてしまったらしい。


「お前はまだ小さいから駄目だ。魔王は強いらしいからな」

「やだ~~。私も行く~~~」


妹は体を巻きつけて抵抗した。

こうなると厄介なのをヨルムは経験から知っている。


「駄目だ!お土産を持って帰ってやるからここで待ってろ」

「お土産って?」


彼は少し考えた。


「お前が食べたことない美味しいものだ!」


食べ物にしか興味がない一族にはこれが一番効く。

しかし、何を持って帰るかをヨルムは全く考えていなかった。


「珍しいもの……。わかった!私、待ってる!」

「じゃあ、私にも頼む」

「私にもお願いね」


父と母も便乗した。

妹は体を離し、ヨルムは土中を前進し始めた。


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

ギャリギャリギャリギャリギャリ。


暗く冷たい地下世界に巨大生物の皮膚や歯が唸り、土と岩盤を砕いてゆく。


「ヨルム~、気をつけるんだぞ~」

「危なくなったら地下に逃げなさいよ~」

「お兄ちゃん、お土産よろしくね~」

「おー!任しとけー!」


家族の声を聞きながら彼は地上へ向かった。

その途中で人間たちがアースドラゴンと呼ぶ生物にぶつかり、ヨルムは謝ったがやたら高圧的だし話も聞かないのでペロリと食べてしまった。

ちなみにアースドラゴンの体長は20メートル。

ヨルムの体長は300メートルである。

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