私を絶世の美女にして!

 バカな事で願いを無駄遣いしてしまったけど、それでもまだ半分も残っている。自宅に帰った私は悪魔を呼んで、学校で考えた願いを叶えてもらうことにした。


「私を絶世の美女にして。すれ違う人が思わず振り返るような、人類史上最高の美女に!」

「はあ、美女ねえ。大方それであの池面先輩を振り向かせようって魂胆だろうけど、そう上手くいくかねえ?」


 悪魔は難しい顔をしているけど、やるったらやるの。


「大丈夫だよ。どうせ男の子なんて、綺麗でスタイルの良い子を見たらコロッといっちゃうんだから」

「お前はそんな先輩で本当に良いのか?まあ、願うと言うのなら叶えるけど……」


 悪魔はあまり気の進まない様子だったけど、それでも願いを叶えてくれて。私は絶世の美女になった……






 美人になって数日が経って、家に帰ってきた私は、部屋で寝転んで漫画を読んでいた悪魔に言った。


「今すぐ元に戻して!」

「またか?この前も言ったけど、元に戻すにも願いを消費する……」

「いいから戻してよ!」

「そんなに言うなら戻すけど、何かあったのか?」


 何かあった何てものじゃない。この超絶美女、最悪だよ!


「そりゃ確かに綺麗になったけどさ、弊害の方が多いよ。男子からは舐め回すような目で見られるし、女子からは彼氏が私に夢中になっちゃって、どうしてくれるんだって怒られるし。バスに乗ったら痴漢が順番待ちの列作るし、昨日なんてストーカー数人が家の前で鉢合わせして、喧嘩を始めたんだよ!」


 これは願いを叶えてもらったと言うより、呪われたに近くないかな?確かに願ったのは私だけどさ。


「それは……大変だったな。それで、肝心の先輩とはどうなったんだ?」

「先輩はね、こんな時でも紳士だったよ。強引な男子に壁ドンされて迫られた時、『止めろ、嫌がってるだろ』って言って助けてくれたの」


 あの時はドキドキしたなあ。その後先輩、綺麗になった私を直視できなかったみたいで恥ずかしそうに目をそらしてたけど、『ああいうのに絡まれた時は、俺を頼れよな』って言ってくれた。キャーッ!


 ああ、頬を染めて照れた先輩も、可愛くて素敵だったなあ。ちゃんと私の事を奇麗だって思ってくれてるみたいだったし、心配もしてくれてたし。

 そんな先輩には超絶萌えたから、それはとても良かったんだけど……


「もし今のまま先輩と付き合ったら、嫉妬にかられた男子が先輩を抹殺しかねないよ」

「あり得るな。昨日家の前で騒動を起こしていたストーカー達は、最終的に刃物を振り回して警察沙汰になってたしな。お前に彼氏ができたら、奴らが黙っているとは思えん」

「でしょう。だから戻して」

「勿体ないなあ。けどそういうことなら元に戻そう……ちちんぷいぷい!」


 その瞬間、私の姿は元に戻った。サヨナラ、綺麗な私。鏡を見ながら、さっきまでの自分との容姿の落差に落胆する。


「いいもんいいもん、魔法を使わなくたってまあまあ可愛いもん。スタイルだって、この先きっと良くなるもん」

「そうか、頑張れ……」


 こら悪魔、気の毒そうな目で私を見るんじゃない!絶対に自力で、常識の範囲内での美人になってやるんだから!




 残る願いの数は、あと二つ。

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