先輩に、私ことを好きになってもらいたい!
「それじゃあ、何叶えりゃ良いんだよ。けっ!」
急に態度が悪くなった悪魔は、面倒臭そうに聞いてくる。無理もないんだけどね。理不尽にタダ働きさせられるってなったら、誰だって嫌だもの。
けど、それでも私は願いを口にする。その願いは……
「い、
頬を赤く染めながら、恥ずかしいのを我慢して言った。
池面先輩は私がマネージャーをしているバスケ部の先輩で、優しくてイケメンで紳士的と言う、非の打ち所の無い人なのだ。本当なら私じゃ見向きもされないだろうけど、悪魔の力を借りたら好きになってもらえるかも。
「どうなの、できるの?」
「まあ魔法をかければ出来るっちゃ出来るが、虚しくないか?そんなやり方で惚れられても。好きになるって言うのはもっとこう、純粋なものなんじゃないのか?」
悪魔のくせに正論を言ってくる。そりゃ本当なら私だってその方が嬉しいけど。
「い、良いんだよ。好きになってもらえるなら何だって。どのみち今のままじゃ、私に脈は無いんだし。良いから早く魔法を使ってよ」
「わかったわかった。それじゃあ……アブラカタブラ!」
呪文を唱えて悪魔は魔法を使ってくれた。一見するとなにも変化は見られなかったけど、確かにかけたらしい。これは先輩に会える明日が楽しみだ。
そして次の日、私はドキドキしながら学校へと向かった。すると校門を潜ったところで、池面先輩がいた。
ああ、池面先輩。今日も格好良いよ。流し目なんてされたら、ズキューンって効果音が聞こえてきそう。そんな事を考えていると、池面先輩はこっちに目を向ける。そして。
「紗香!」
私を見るなり駆けてくる。あわわ、先輩がこっち来る。それだけでもう心臓バクバクなのだけど、事はそれだけでは終わらなかった。
「紗香、愛してる」
「―——ッ!」
キャー、朝から公開告白だなんて、先輩ったら大胆!
わわわっ、皆ビックリしてこっちを見てるよ。はずかしいなあ、もう。ああ、でもすごく嬉しい。あの池面先輩が、私の事を愛してるだなんて。
「嬉しいです、池面先輩」
「紗香、愛してる」
「まさか先輩に、そんな風に言ってもらえるだなんて」
「紗香、愛してる」
「先輩。私も、先輩の事が……」
「紗香、愛してる。紗香、愛してる」
「え、ええと……先輩?」
何だろう、何かがおかしい気がする。愛してると言ってもらえるのはもちろん嬉しいのだけど、これは何だが……
「紗香、愛してる。紗香、愛してる。紗香、愛してる。愛してる愛してるアイシテルアイシテル……」
「キャー!?」
私の口から、黄色いとは違う悲鳴が上がった。
まるで他の言葉を忘れてしまったみたいに、ひたすら愛してると繰り返してくる池面先輩。そのうちだんだんと目が虚ろになってきて、見ていて怖い。
違う、こんなの池面先輩じゃない!先輩はもっと格好良くて爽やかな人なのに、これじゃあオバケみたいだよ!
「あ、悪魔!近くにいるんでしょ。出てきて!」
「呼んだか?」
どこからともなく現れる悪魔。相変わらず角だの羽だの生えていて怪しさ満点の姿だけど、どうやらコイツのことは私にしか見えないみたいで、何の騒ぎにもなっていない。って、今は悪魔の事はどうでも良いの。それより。
「先輩を元に戻して。今すぐ!」
「良いのか?元に戻すにも願いを使うことになるけど。それに、こんなにお前の事を愛してるって……」
「それがダメなんでしょうが!私が望んでいたのは、もっとまともな笑顔を向けてくれる先輩との、キャッキャウフフで、キュンキュンな展開なの!」
「表現がなんだかバカっぽいな」
「うるさーい!とにかく戻してよ!」
「なら戻すけど……アブラカタブラ」
悪魔が呪文を唱えた瞬間、先輩はハッとしたように正気に戻った。
「あ、あれ?俺は今まで何を?」
キョロキョロと周りを見る先輩。良かった、もうおかしくない。
「あ、日野。俺何してたんだっけ?記憶が飛んでるんだけど」
「先輩……ごめんなさい!訳は言えないですけど、とにかくごめんなさい!」
あまりに申し訳なくて、深々と頭を下げる。当然事情がわからない先輩は当然戸惑った様子だったけど、すぐにニコッと笑って、頭に手をのせてきた。
「何だかわからないけど、そんな気に病むなって。俺は平気だから」
あわわっ!?頭ポンをしてくれた!
ああ、私がバカだった。こんな素敵な先輩の心を操って無理矢理好きになってもらうだなんて、そんなの間違ってるよね。
ごめんなさい先輩。だけど私、諦めませんから。今度は別の方法で、先輩に振り向いてもらいます。
頭を撫でられながら、私はそう決意するのだった。
残る願いの数は、あと四つ。
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