悪魔が願いを叶えてくれるって言うから、先輩への恋を成就させてもらうことにしました。
無月弟(無月蒼)
願いを叶える代わりに、魂よこせって言われても
「私を呼び出したのはお前か、人間よ」
魔方陣の上に現れたそいつは、鋭い目で私を見据える。
ええと、まずは状況を確認しておこう。私の名前は
そんな私の目の前にいるのは黒いスーツに身を包んだ、一見二十代くらいのサラリーマンのように見える男性。しかしよくよく見るとその頭からは鋭い角が伸びていて、背中からはコウモリを彷彿させる黒い羽が生えていた。これは、もしかすると……
「あの、あなたはいったい?」
「悪魔だ」
ですよねー。これでコスプレでないのだとしたら、悪魔としか思えない姿だもの。しかも私ついさっき、悪魔を呼び出す儀式をやっていたし。
いや、何も本気で呼び出せるなんて思っていなかったよ。お母さんが週刊紙と間違えて買ってきた雑誌、『月刊黒魔術』についてた付録、誰でも簡単に悪魔が呼び出せる魔方陣を使って、洒落のつもりで悪魔召喚の儀式を行っただけだよ。本当に出てきたらウケるなーって思いながら。だけどまさか、ガチで本物の悪魔が出てくるだなんて。
全く予期していなかった事態に困惑する。何も考えずに悪魔なんて呼び出したゃったけど、これってマズイよね?
しかし悪魔は、そんな私の心情なんてお構い無しに話を進めていく。
「我は悪魔。これより、我を呼び出したお前の願いを叶えるとしよう。さあ願いを言え。どんな願いも七つだけ叶えてやろう」
「えっ、七つ?七つも願いを叶えてくれるの!?」
これはずいぶんと美味しい話。けどすぐに思い直す。上手い話には裏があるのが常、しかも相手は悪魔なのだ。と言うことは……
「ただし」
「ほら来たー!」
「願いを叶える代わりに、死後お前の魂をいただく」
やっぱりね、そんなことだろうと思った。分かってたよ、相手は悪魔だもの。
「あの、悪魔さん。魂をあげちゃったら、私はどうなっちゃうんでしょう?」
そう質問すると、悪魔は腕をくんで考える。
「そうだなあ。実は俺自身が人間の魂を欲しい訳じゃないんだよな。手に入れた魂を、魂収集家の悪魔に売りつけるのが俺の仕事なんだけど、まあ毎日ペットのように扱われるんじゃないのか?ケージに閉じ込められるとか」
「ペットって、やだよそんなの!願いなんて叶えて貰わなくていいから、さっさと帰って!」
「ふっ、そうはいかない。私を召喚した時点で、お前との契約は結ばれた。クーリングオフはきかないのだ。何が何でも、願いを叶えさせてもらうぞ」
「冗談じゃないよ!」
思わず頭を抱える。魂をとられるだなんて、そんなのやだよ……いや、待てよ。やり方によってはもしかすると、この状況を打破できるかも。
「ねえ悪魔さん。それじゃあ、叶える願いの数を百個にするって言う願いは……」
「ダメに決まってるだろ!そうやって願いを増やして、さらに願いを使いきってないから、魂はあげないとか言うつもりだな。その手に乗るか!」
「ケチー」
と文句は言ってみたものの、流石にこれは無理があるよね。けど実はこれも計算の内、本命の願いは別にあるのだ。
すると悪魔は疲れた様子で、私に言い聞かせるように話す。
「あのなあ、俺を呼び出してしまった以上、もう魂は諦めろ。その代わり願いを増やす以外なら、どんな願いでも叶えてやるからよ」
「本当に、願いを増やす以外なら何だって良いんだね?」
「ああ、悪魔に二言は無い。どんな願いでも叶えてみせる」
ようし、言ったね。だったら叶えてもらおうじゃないの。私の願い、それは……
「私が死んだ後も、魂をとらないで!」
「……は?」
悪魔はポカンとした顔で沈黙する。
「『は?』じゃないよ。アンタ、さっき言ったじゃない。願いを増やす以外なら、何だって叶えてくれるって。だったらこのお願いだって、叶えてくれるんでしょ。悪魔に二言は無いんだよね?」
我ながら無茶苦茶だとは思うけど、大丈夫かな?しかし悪魔は苦虫を噛み潰したような顔をして、ガックリと膝をついた。
「た、確かに言った。悪魔は一度口にした契約は、絶対に破ってはいけない決まりなんだ。分かった……お前の魂は取らない」
「えっ、本当?やったー!」
正直無理があるかなーって思っていたんたけど、言ってみるもんだね。
「くそー、あんなこと言うんじゃなかった。ああ、せっかく魂がとれると思ったのにこれじゃあ課長に怒られる」
悪魔の言う課長ってどういう人なのだろう?こいつ見た目はまるっきりどこかの会社員だし、もしかして悪魔にも会社ってあるのかな?今月はいくつ魂を集めろってノルマがあるとか。
まあいいか、魂が無事なら何でも。
「はっはっはっ、私の作戦勝ちだね。で、残り六つの願いも、ちゃんと叶えてくれるんだよね。そう言う契約だったもの」
「何ぃ⁉魂寄越さないくせに俺にタダ働きをさせる気か⁉ああ、でも確かにそう言う契約だったし……くそー、この悪魔め!」
「悪魔はそっちじゃん」
悔しそうな悪魔を見ながら、私は喜んで顔をほころばせる。一時はどうなるかと思ったけど、上手くいって良かった。私、頭良い!
残る願いの数は、あと六つ。
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