沈林子11 兄との合流  

劉裕りゅうゆう様が閿鄕ぶんきょうに到着なさると、

姚泓ようおう長安ちょうあんの民を疎開させ軍を編成、

堯柳ぎょうりゅうという地に駐屯いたしました。


このとき祖父の兄、沈田子しんでんし様が

武関ぶかんより藍田らんでんに進入。

姚泓にしてみれば、

このまま劉裕様との戦端を開けば、

沈田子様より後背を突かれてしまいます。

そのため、まずは沈田子様の迎撃に。


沈田子様の隊はあくまで陽動。

そう大した数ではありません。

そのため劉裕様は撃滅を恐れ、

祖父を援護として派遣いたしました。

それは、秦嶺しんれい山脈踏破の強行軍。

祖父の、兄上を思われるお気持ちなくば、

到達は叶いませんでしたことでしょう。


もっとも祖父が到着した段階で、

沈田子様は姚泓軍を打破しておりました。

そこで祖父は沈田子様ともども、

姚泓軍を追撃。

霸西はせいの地まで追い詰めました。


沈田子様はこのまま姚泓を追い詰め、

長安も取ってしまうべきだ、

とお考えでした。

しかし、祖父はこれを止めます。


「長安を攻め取るのは

 指で掌を指すくらいに容易いこと。


 しかし、我々のみで

 一国を攻め滅ぼすなどとは、

 功績としてはいびつです。


 劉裕様はともあれ、

 周囲のものから、どう讒言を

 浴びるとも知れますまい」


祖父のこの言葉があったため、

沈田子様は追撃を中止なされました。


この後、祖父は改めて

劉裕様直属の幹部となりましたが、

様々な職務はもとのままでした。



祖父の威名は関中に鳴り響き、

周辺地域の豪族らは、

祖父の到来を聞くや降伏を申し出ます。


たとえば、西のかたのもの、

李焉りえんなどは我先に功を挙げようと

しきりに出兵を訴え出ました。


また孫妲羌そんたんきょう、大小様々な蛮族たちの部族、

果てには姚泓の親類までもが、

祖父に帰順したい、と申し出てくる有様。


劉裕様は祖父のその広き智謀に感じ入り、

しきりに書にて戦功を讃えられました。


やがて長安が平定されると、

後秦の残党、およそ十万人ほどが

西に逃亡。


祖父は寡婦水かふすいに出撃すると、

そこから連戦、そして槐里かいりにまで到達。

残党らを散々に打ち破り、得た捕虜は

一万を数えたそうでございます。




高祖至閿鄕,姚泓掃境內之民,屯兵堯柳。時田子自武關北入,屯軍藍田,泓自率大衆攻之。高祖慮衆寡不敵,遣林子步自秦嶺,以相接援。比至,泓已摧破,兄弟復共追討,泓乃舉衆奔霸西。田子欲窮追,進取長安,林子止之,曰:「往取長安,如指掌爾。復克賊城,便爲獨平一國,不賞之功也。」田子乃止。復參相國事,總任如前。林子威聲遠聞,三輔震動,關中豪右,望風請附。西州人李焉等竝求立功,孫妲羌雜夷及姚泓親屬,盡相率歸林子。高祖以林子綏略有方,頻賜書褒美,竝令深慰納之。長安既平,殘羌十餘萬口,西奔隴上,林子追討至寡婦水,轉鬥達於槐里,克之,俘獲萬計。


高祖の閿鄕に至れるに、姚泓は境內の民を掃じ、兵を堯柳に屯ず。時にして田子は武關より北に入り、軍を藍田に屯ざば、泓は自ら大衆を率い之を攻む。高祖は衆寡の敵せざるを慮り、林子を遣りて秦嶺より步ましめ、以て相い接援せしむ。比に至らば、泓は已にして摧破され、兄弟は復た共に追討し、泓は乃ち衆を舉げ霸西に奔る。田子は窮追し、進みて長安を取らんと欲せど、林子は之を止め、曰く:「往きて長安を取りは掌を指したるが如きのみ。復た賊城を克し、便ち獨りにて一國を平ぐるを爲すは、不賞の功なり」と。田子は乃ち止む。復た相國事に參じ、總任は前の如し。林子が威聲は遠きに聞こえ、三輔は震動し、關中の豪右は、風を望みて附さるを請ず。西州人の李焉らは竝べて立功を求め、孫妲羌や雜夷、及び姚泓の親屬なるも、盡く相い率い林子に歸す。高祖は林子の綏略有方なるを以て、頻りに書を賜り褒美し、竝べて深慰納之を令す。長安の既に平ぐるに、殘羌の十餘萬口は隴上に西奔し、林子は追討して寡婦水に至り、轉じて鬥い槐里に達さば、之を克し、俘を獲ること萬を計う。(宋書100-18_暁壮)




「長安落すのなんかチョロいですよ、けど後々の王鎮悪みたいになりますよ、そう後々の王鎮悪みたいに!」


エスパーかお前は。

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