王鎮悪11 馮異に違う  

長安ちょうあん劉裕りゅうゆうの到着を待つ王鎮悪おうちんあく

灞上はじょうにまで向かい、出迎える。


劉裕は王鎮悪に言う。


「この霸業、まさにお前が成したものだ」


すると王鎮悪、へりくだって言う。


「劉裕様のご威光、

 諸将の尽力のたまものです。


 この鎮悪のどこに功がありましょう!」


これを聞き、劉裕は笑う。


「お前な、言葉だけじゃなく、

 その態度でも馮異ふういに学んどけよ」


この時長安は繁栄しており、

後秦こうしんの国庫には宝物が山積していた。


で、王鎮悪。

これら財物や宮廷に詰める

婦女を戦利品として獲得。


その実態がどの位であったのかは、

まるで掴めようがない。


後漢光武帝劉秀りゅうしゅうの配下将、馮異。

かれは際立った功績を上げたが、

戦功・褒賞の論議には加わらず、

栄達とは無縁の場所にあろうとしていた。


まるで馮異のようなことを

言っているが、その実態と言えば、

だいぶ浅ましさ爆発。

劉裕、その辺をあてこすっているのだ。


が、その功績が甚大なのは確か。

なので劉裕、王鎮悪の掠奪を黙認した。



ところでこの頃、

劉裕に密告するものがあった。


王鎮悪は長安を制圧したところで、

後秦の権威の象徴である「輦」、

皇帝のための車を

自らのもとに接収したのだ、という。


これは輦を自らのものとし、

独立を言い出そう、

という意図なのではないか、と。


まさかまさか、とは思うが、

念には念を、である。

劉裕、人をやって、輦を探させる。


すると、あった。

城壁側に、うち捨てられていた。


もともと輦は金銀で豪華に飾られていた。

が、それらを王鎮悪、

全てむしり取っていた。

あとに残るのは真っ裸の無残な姿。


あぁ、これ独立云々じゃねーわ。

ただのお宝目当てだわ。


その報告を聞き、劉裕、ほっとしたという。




高祖將至,鎮惡於灞上奉迎。高祖勞之曰:「成吾霸業者,真卿也。」鎮惡再拜謝曰:「此明公之威,諸將之力,鎮惡何功之有焉!」高祖笑曰:「卿欲學馮異也。」是時關中豐全,倉庫殷積,鎮惡極意收斂,子女玉帛,不可勝計。高祖以其功大,不問也。時有白高祖以鎮惡既克長安,藏姚泓偽輦,為有異志。高祖密遣人覘輦所在,泓輦飾以金銀,鎮惡悉剔取,而棄輦於垣側。高祖聞之,乃安。


高祖の將に至らんとせるに、鎮惡は灞上にて奉迎す。高祖は之を勞いて曰く:「吾が霸業を成したる者は、真に卿なり」と。鎮惡は再び拜謝して曰く:「此れ明公の威、諸將の力なれば、鎮惡に何ぞの功有りたらんや!」と。高祖は笑いて曰く:「卿にては馮異に學びたるを欲せるなり」と。是の時、關中は豐全にして、倉庫は殷積し、鎮惡は極めて子女玉帛の收斂を意したること、計うるに勝るべからず。高祖は其の功の大なるを以て、問わざるなり。征虜將軍に號は進む。時に高祖に鎮惡の既にして長安を克し、姚泓が偽輦を藏したるを以て、異志を有せるを為したりと白いたる有り。高祖は密かに人を遣りて輦が所在を覘かましかば、泓が輦の金銀を以て飾したるを、鎮惡は悉く剔ぎ取り、輦を垣側に棄つ。高祖は之を聞き、乃ち安んず。

(宋書45-11_寵礼)




こうして着々と「こんなやつだから殺されても仕方ないんです、けど殺されたのは哀しい事故なんです」感が積み重ねられていく。うーん、なんか王鎮悪伝のあと沈林子しんりんし沈田子しんでんし伝やっといた方がよさそうだなー。あいつらの伝、自序でやるとどうしてもこの辺の話と距離が開き過ぎる。

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