劉穆之2 おれ以外の誰が 

劉裕りゅうゆう京口けいこう桓脩かんしゅうから奪還したところで、

何無忌かむきに聞く。


「こっから先、凄腕の事務方が要る。

 どうすりゃそいつに

 巡り会えるもんかね?」


すると何無忌、答えた。


劉穆之りゅうぼくし以外には考えられんな」


「ま、そうなるよな」


なので劉裕、

劉穆之のもとに使者を飛ばした。


このとき劉穆之は、

ざわつく京口の気配に叩き起こされ、

街頭に顔を出していた。


そこで、劉裕からの使者と会う。


使者は劉裕からの手紙を劉穆之に渡す。

しばらくの間、なんのコメントもせず、

劉穆之は手紙を眺めていた。


やがて、一旦自室に戻ると、

いくつかの普段着を潰して

礼服のように仕立て上げた。

それを身にまとい、劉裕のもとに向かう。


劉穆之と向かい合った劉裕、問う。


「今、俺は大義をぶち上げ、

 桓玄かんげんをぶっ倒そうって局面にいる。


 この先、凄腕の事務方に

 いてもらえなきゃ、

 事態を収集できる気もしねえ。


 なぁ、穆之。その辺を、たちどころに

 解決できるようなやつを知らねえか?」


劉穆之は答える。


「劉裕様が大業を成し遂げるにあたって、

 事務方には激烈な手腕が問われます。


 その辺りを踏まえれば、

 スピードが問われるこのタイミングに、

 今、あなた様の目の前にいる者以上の

 適任者はおらぬかと存じます」


このコメントに、劉裕、爆笑。


「待て待て、お前さん、早すぎだ。

 もうちょい俺に口説かせろ!」


そうして、即座に部下として

迎えられるのだった。




及高祖克京城,問何無忌曰:「急須一府主簿,何由得之?」無忌曰:「無過劉道民。」高祖曰:「吾亦識之。」即馳信召焉。時穆之聞京城有叫譟之聲,晨起出陌頭,屬與信會。穆之直視不言者久之。既而反室,壞布裳為絝,往見高祖。高祖謂之曰:「我始舉大義,方造艱難,須一軍吏甚急,卿謂誰堪其選?」穆之曰:「貴府始建,軍吏實須其才,倉卒之際,當略無見踰者。」高祖笑曰:「卿能自屈,吾事濟矣。」即於坐受署。


高祖の京城を克せるに及び、何無忌に問うて曰く:「急ぎ一なる府主簿を須めん、何ぞの由にてか之を得んか?」と。無忌は曰く:「劉道民に過ぎたる無し」と。高祖は曰く:「吾れ、亦た之を識りたり」と。即ち信を馳せ召したり。時に穆之は京城に叫譟の聲有りたるを聞き、晨に起きて陌頭に出でたれば、屬して信と會す。穆之は直だ視て言わざること之れ久し。既にして室に反り、布裳を壞し絝と為し、往きて高祖に見ゆ。高祖は之に謂いて曰:「我れ始めて大義を舉げ、方に艱難に造らんとせるに、一なる軍吏を須むこと甚だ急なり。卿にては誰ぞ其の選に堪えんと謂いたらんか?」と。穆之は曰く:「貴府の始めて建つるに、軍吏にては實に其の才を須められん。倉卒の際、當に略ぼ見ゆるを踰えたる者無かるべし」と。高祖は笑いて曰く:「卿に自ら屈したる能わば、吾が事は濟みたらん」と。即ち坐にて署せるを受く。


(宋書42-2_言語)




やり取りのニュアンスは「お前に来てくれりゃ百人力だ」的ノリだけど、あえてこっちで解釈しました。楽しいは正義。

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