劉裕72 南:帝誕生の瑞祥

王宮お抱えの瑞祥管理官、駱達らくたつ

帝位を辞退し続ける劉裕りゅうゆうに対し、

受理されている瑞祥を列挙した。



義熙ぎき年間、つまり劉裕が桓玄かんげんを倒し

 名実ともに国の第一人者として

 のし上がるまでの期間で、

 金星が昼間に輝いていたこと、7回。


 これは人々を統べる主の

 名字が変わる予兆である。



 義熙七年、つまり盧循ろじゅんが鎮圧された年。

 東の空に、同時に5本の虹が現れた。

 これまでの天子が廃され、

 新たな聖人が天子となる予兆である。



 義熙九年には土木金火星が集合。

 これは大乱の後に覇者が生まれる証。



 十三年には土星が太微垣たいびえんに入り込んだ。

 これは新たな王が王宮に移り住む証。



 元熙げんき元年の冬には、四体の黑龍が

 天に向かい、登っていった。


 易経えききょうでは言っている。

 冬に黒龍が出現するのは、

 これまでの天子が神を祀る廟を

 守りきれなかったために、

 新たな偉人に任務が譲られるのだ、と。



 冀州に住まう高僧、釋法稱しゃくほうしょう

 講話にて語っている。


 仏が、江東の劉将軍について語った。

 漢帝の血を受けた劉氏の末裔が、

 いま、新たな天命を授かろうとしている。

 園証として、32個の璧を鋳つぶし、

 ひとかたまりの金塊となした、と。

 32は高帝劉邦より劉裕殿までの

 世代の数である。



 光武帝即位から滅亡までが196年。

 魏文帝即位から滅亡までが46年。

 晋武帝即位から今年までが156年。

 いずれも、下一ケタが6となる期間で

 天命が移り変わる定めにある。



 また、光武が南陽なんように植えた木は、

 漢滅亡に際し、枯れた。

 そのため劉備は蜀にて

 政権を立ち上げようとしたが、

 結果はご存知のとおりだ。


 しかし報告によれば、いま、

 その朽ち果てたはずの木の根から、

 新たな芽が萌え出した、という。


 これは、新たなる劉氏の天下が

 盛んとなる証であろう」



このような内容の瑞祥が、

数十件並べ立てられていた。


ここに合わせて臣下たちも

改めて即位を求めてきたため、

ついに、劉裕は即位を決意した。




太史令駱達陳天文符應曰:「案晉義熙元年至元熙元年,太白晝見經天凡七,占曰:'太白經天,人更主,異姓興。'義熙七年,五虹見於東方,占曰:'五虹見,天子黜,聖人出。'九年,鎮星、歲星、太白、熒惑聚于東井。十三年,鎮星入太微。占曰:'鎮星守太微,有立王,有徙王。'元熙元年冬,黑龍四登于天,易傳曰:'冬,龍見,天子亡社稷,大人受命。'冀州道人釋法稱告其弟子曰:'嵩神言,江東有劉將軍,漢家苗裔,當受天命,吾以璧三十二、鎮金一餅與之,劉氏卜世之數也。'漢建武至建安末一百九十六年而禪魏,魏自黃初至咸熙末四十六年而禪晉,晉自泰始至今百五十六年,三代揖讓,咸窮於六。又漢光武社於南陽,漢末而其樹死,劉備有蜀,乃應之而興;及晉季年,舊根始萌,至是而盛矣。」若此者有數十條。群臣又固請,乃從之。


太史令の駱達は天文符に應じ陳べて曰く:「案ずるに、晉の義熙元年より元熙元年に至り、太白の晝に見え經天せること凡そ七、占いに曰く:太白の經天は人の主を更え、異なる姓は興こる、と。義熙七年、五虹の東方に見ゆるに、占いに曰く:五虹の見ゆるに、天子は黜され、聖人は出でる、と。九年、鎮星、歲星、太白、熒惑は東井に聚まる。十三年、鎮星は太微に入る。占に曰く:鎮星の太微を守りたるは、王の立つる有り、王の徙りたる有り、と。元熙元年の冬、黑龍の四は天に登る。易に傳りたるに曰く:冬に龍の見えたるは、天子、社稷を亡び、大人が命を受く、と。冀州の道人の釋法稱は其の弟子に告げて曰く:嵩神は言えらく、江東に劉將軍有り、漢家の苗裔、當に天命を受けんとし、吾れ璧の三十二を以て金一餅を鎮し之に與う、劉氏の卜世が數なり、と。漢の建武より建安の末に至るまで一百九十六年にして魏に禪り、魏の黃初より咸熙の末に自るまで四十六年にして晉に禪り、晉の泰始より今に至るまで百五十六年にして、三代は揖讓せられ、咸な六にて窮む。又た漢の光武は南陽に社し、漢の末にして其の樹は死す。劉備の蜀に有りて、乃ち之に應じて興したるに、晉の季年に及び、舊根は始めて萌え、是れに至りて盛んたらんかな」と。此の若き者、數十條有り。群臣は又た固く請い、乃ち之に從う。

(南史1-3_術解)




実際に駱達が書いた内容は不明。ここにあるのは宋書符瑞志五行志天文志に載るやつばかり。つまり南史の帝紀、宋書に比べるとだいぶファンタジー色が強くなってる。


なんてんでしょうね、「新たな国誕生の兆し」の元ネタ枠ですよね、この辺。

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