劉裕11 晋室微弱なり  

孫恩そんおんは敗走し南下するうち

付き従う者も徐々に散り散りとなり、

遂には見つかって捕まるのを恐れ、

臨海りんかいで海に身を投げた。


残された配下たちは

孫恩の嫁婿・盧循ろじゅんを主として推戴した。

桓玄かんげんは東の地も手中に収めんがため、

盧循を永嘉えいか太守たいしゅに任じた。


しかし盧循は拝命しながらも

反乱を収めようとはしなかった。

そこで桓玄は5月、劉裕りゅうゆうに鎮圧を命じた。


この時盧循は臨海から東陽とうように進出していた。

元興2(403)年1月、

桓玄は再び劉裕を派遣し、

東陽で盧循を破った。


盧循は永嘉えいかへと逃れたが

劉裕は追撃の手を緩めず、

軍団長の一人張士道ちょうしどうを斬った。

追撃の手は結局晋安しんあんにまで伸び、

盧循は船に乗って南へと逃れた。


6月、劉裕には

彭城ほうじょう内史ないしの地位が加えられた。



桓玄かんげんが楚王になった。

いよいよ簒奪待ったなし。


だが、従兄の桓謙かんけんには不安要素があった。

劉裕りゅうゆうだ。


実は桓玄、劉牢之りゅうろうしが死んだ後、

劉裕の上司や先輩たちも粛清していた。


彼らがいなくなったことにより

劉裕のポストは一気に高くなった。

だが、仇と思われているのではないか。

そう思うと、気が気ではない。


なので人払いをし、劉裕に聞く。


「楚王の威徳は絶頂の極み。

 世界中が王にかしづいている。


 宮中でも、もはや帝をも上回る

 徳を得ているのではないか、と

 囁き合っているようなのだ。


 この辺り、そなたはどう思う?」


桓謙の懸念通り、劉裕、

桓玄を倒す気満々でいた。

だが、今は時期ではない。

思いは押し殺し、首を垂れる。


「楚王は桓温かんおんさまのお子、

 父子共々その威徳を

 天下に知らしめております。


 皇室はもはや微弱。

 民衆も新たなる皇帝のみ世を

 望んでおりましょう。


 この機運に乗ることに、

 何の不都合がありましょうか」


この回答に、桓謙は大喜び。


「そなたがオッケーと思うのならば、

 これはもうマジでオッケーだな!」




孫恩自奔敗之後,徒旅漸散,懼生見獲,乃於臨海投水死。餘眾推恩妹夫盧循為主。桓玄欲且緝寧東土,以循為永嘉太守。循雖受命,而寇暴不已。五月,玄復遣高祖東征。時循自臨海入東陽。二年正月,玄復遣高祖破循於東陽。循奔永嘉,復追破之,斬其大帥張士道,追討至于晉安,循浮海南走。六月,加高祖彭城內史。桓玄為楚王,將謀篡盜。玄從兄衞將軍謙屏人問高祖曰:「楚王勳德隆重,四海歸懷。朝廷之情,咸謂宜有揖讓,卿意以為何如?」高祖既志欲圖玄,乃遜辭答曰:「楚王,宣武之子,勳德蓋世。晉室微弱,民望久移,乘運禪代,有何不可。」謙喜曰:「卿謂可爾,便當是真可爾。」


孫恩は奔敗して自りの後、徒旅にて漸散し、生きて獲らるを見るを懼れ、乃と臨海にて水に投げ死す。餘眾は恩が妹の夫の盧循を推して主と為す。桓玄は且つ東土を緝寧すべく欲し、循を以て永嘉太守と為す。循は命を受くると雖ど、而して寇暴已まず。五月、玄は復た高祖を遣りて東に征ぜしむ。時に循は臨海自り東陽に入る。二年正月、玄は復た高祖を遣りて東陽にて循を破らしむ。循は永嘉に奔るも、復た追いて之を破る。其の大帥の張士道を斬り、追討し晉安に至らば、循は海に浮きて南に走る。六月、高祖に彭城內史を加わる。桓玄は楚王と為り、將に篡盜せんと謀る。玄の從兄の衞將軍の謙は人を屏いて高祖に問うて曰く:「楚王が勳德は隆重、四海は歸懷す。朝廷の情、咸な宜しく揖讓有るべしと謂ゆ,卿が意を以て何如を為したりや?」と。高祖は既にして玄を圖るを欲せるを志せど、乃ち辭を遜して答えて曰く:「楚王、宣武の子、勳德は世を蓋う。晉室は微弱、民望は移ろいて久しく、運に乘りて禪代さるに、何の不可有らんや」と。謙は喜びて曰く:「卿の爾るべく謂わば,便ち當に是れ真に爾るべきなり」と。

(宋書1-11_仮譎)





劉裕さん割と本心だろこれ。


桓謙

桓玄のいとこ。それにしても桓謙伝見ると後秦を軸に蜀、五斗米道での東晋包囲網構築が目論まれてて最高にアガる。劉裕の危機の立役者って感じだ。

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