第5話 天網恢恢疎にして漏らさず

「ぶっ潰すって?」


 ミタカが問い直す。


「ああ、Web小説にはそれなりの戦い方があるんだよ。まず、正体を伏せてSNSにてファンを装って二人の垢に近づいた。そして完結予定時期を聞いたのさ」


 千夜は姿勢を直し、持ち込んだパソコンを開きながら、説明を始める。


「二人とも読者選考が終わる一週間前に完結予定と答えた。そこで、あたし達はその一週間前、つまり締切二週間前にぶつける。立川さんはストックがあるのなら、それよりちょっと早く、そうだな、三週間前でもいい」


「何故、その時期に?」


「皆、公募からのデビューだからWeb小説のコツは知らないだろ? あたし達の作品は言ってはなんだが、アマチュアとはレベルが違う。圧倒的な評価で大きく引き離すだろう。あいつらは完結間近だから、評価稼ぎの内容修正は間に合わない」


「しかし、それでは複垢を大量に作られるのでは?」


 安積が不安げに問いかけると下北沢が自信ありげに答えた。


「そこは私達に任せてください。ただいま、プログラムをある仕様に改正中です。改正内容を発表次第、一気に複垢を潰します」


「そう来なくっちゃ。じゃあ、立川さんは締切終了三週間前、他の皆は二週間前にアップで行く。ミタカもそれでいいな!」


「あ、ああ」


「よーしっ! 行っくぜぇ!!」


「「「「「「おう!」」」」」」


 まず、立川の新作が次々と短編部門に投入された。それは掲示板のカキヨミ板でも歓迎の空気に溢れた。


『やったー!立川さんの作品が一気に読める!』


『ランキング急上昇しても、本物なら納得だぜ』


『見ろよ、短編のWS組が大きく引き離されてるぜ』


『ざまぁwww』


 一方、WSは裏LI○Eで緊急会議を開いていた。


『まずい、どんどんわが軍の作品が引き離されている!』


『焦るな! 小説アップ作業の傍ら複垢のノルマをこなせ!』




『ホノカ先生……! 短編部門が大変です!』


 大地が焦ったように個人トークをホノカへ送った。


『む……あちらもなかなか強烈なジャブを放ってきたな。間もなく各部門にも作品が放たれる。それまで、一つでも多く複垢を人海戦術で仕掛けるしかない』


『大丈夫でしょうか……』


『サブリーダーのお前まで狼狽えてどうする。メンバー全員で複垢を作り、相互評価し合えば星百個なんかすぐだ』



 そして、残りの六人も締切二週間前に発表を始めた。参加資格を満たすためにWeb小説にはやや不利な数話ずつの公開だが、それでもうなぎ登りに評価は上昇していく。


『ほ、ホノカ先生! 現ファンにミタカ、異世界にも菊名千夜が来ました! どちらも公開して二時間なのに星が三桁を越えています! 仲間もコンテストから離脱する者が出始めました! いや、この裏LI○Eメンバーも減ってます!』


『む……やはり雷撃大賞は手強い。しかし、複垢がBANされてもランキングはまだ上位だ! やむを得ない、大賞は無理でも特別賞なら書籍化の芽はまだあ……』


『うわああ!!』


『どうした、大地。セイコマの塩わさび焼きそばでむせたか。いくらLI○Eでも食べながらは……』


『違います、今作っているのは焼きそば弁当……じゃなくて! こ、公式! 公式発表を見てください!』


 慌ててホノカがカキヨミ公式ページを開くと緊急のお知らせが告知されていた。


『コンテスト中ではございますが、プログラムを緊急修正しました。主な修正点は星が減るとランキングも下がるようにいたしました。参加者同士の評価を大幅下方修正しました。

 そして、新規入会の方は申し訳ないのですが、フォローと応援はできますが、入会して二十一日を経過するまで評価はできません。ご理解のほどお願いします』


 ホノカはパソコンの前でつんのめり、手にしていたブランデーをキーボードにぶちまけてしまった。


「なん……だと……?! 新規入会後三週間は評価不可だと……?!」


 パソコンが怪しいスパークを上げ始める中、ホノカは青ざめていた。



「あたしのアイデアを採用してくれて、ありがとう、下北沢さん。家族にきた選挙のお知らせからヒントを得たんだ」


 何故かカキヨミ編集部にて雷撃の書籍化修正作業をしながら、千夜はニヤリと笑う。


「確かに、こうすれば少なくともコンテスト中は星爆できませんね」


「まあね、まだまだ改良する部分もあるが、暫定的な手段としてはこれが一番だ。ほら、WS疑いのやつらは次々と退会して脱落してるぜ」


 スパークするパソコンを無理に動かしながら、ホノカは焦りと絶望に苛まれていく。


「バカな……バカな! 更新する毎に星が消えている!! おい! 大地! 貴様はどうだ!」


 すでに大地からの返信はない。彼はショックからパソコンごとテーブルからずり落ち、セイコマのワインを頭から被り、さらに飼い猫が胸にのっかって気絶していたのだが、ホノカにはそれを知る術もない。


「ふふ、ふふふ、ふはははは! 今回は負けだよ、カキヨミの諸君! だが、不正は無くならない。私が消えても新たな不正が出るだけさ、ハーハッハッハ!!」


 ホノカの高笑いとパソコンが爆発したのは同時であった。

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