第4話 衝撃が走るカキヨミユーザーと???

 その日、カキヨミユーザー達に衝撃が走った。


 コンテストも中盤のこの時期に、カキヨミ運営が「コンテストの各ジャンルにプロの作家を迎える。彼らも一参加者として大賞を争うことになる」と発表されたからだ。


『マジかよ?! ミタカが参戦じゃ俺の作品無理、歯が立たない』


『あ、でも国分寺先生の新作読みたい』


『反則だよ。プロじゃ敵わないじゃないか!』


『すげえな、立川は短編全ジャンルに発表するのか』


『これ、やっぱWild SAMURAI対策だろ』


『運営が急に複垢をBANせずに、動きが止まったのはこの準備だったのだな』


『外部に頼らないといけないカキヨミ運営乙』


『Wild SAMURAIさーん、息してるー?』



 SNSや掲示板で騒いでいるのと同様、彼らも例外では無かった。


『Wild SAMURAI』……長いので以下WSと書くことにする……専用のLI○E画面。そのメンバー達も動揺していた。


『俺達の努力が無駄になりそうだな』


『バレないように相互しあったり、複垢作ってたのに!』


『どうする、コンテスト撤退するか。今ならプロには敵わないからと言う言い訳が立つ』


『今から対抗する新作書けねーよ』


『皆、狼狽えるな』


 リーダー格の「タカナワ・ゲートウェイ・ホノカ」がLI○Eに参加して、皆、一様に黙る。彼はありとあらゆるジャンルに参戦し、複垢と相互評価によりどの作品もランキング一桁に上がっている。まあ、そういう細工をするだけあって、中身はお察しなのだが。


『だ、だけど皆プロだぜ、ホノカ先生』


『これまで通りの方法でアカウントをたくさん作れ。そうすれば足がつきにくい』


『しかし、先生……』


 メンバーの一人が異議を唱えようとしたが、ホノカは冷徹に諭す。


『いいか、ここにいる皆は今年こそ書籍化したいのだろう。今年は運営がザルだ! 星を消されてもランキングは下がらんっ! しかも諦めたのか複垢が消されなくなった! 今年こそチャンスではないか!』


『う……確かに俺達が間違っていた。俺はホノカ先生を支持するぜ!』


 賛同した彼は二番手の「室蘭大地」。普段から互いの作品をリスペクトする仲であり、その付き合いは長い。


『ならば、このまま邁進するしかない。プロ作家? 上等じゃないか。私だって本業はシナリオライターだ。物書きの意地とプライドをぶつけてやる』


『『『おおー!!』』』


 臨時会議が終わった後、ホノカは自室で大地と個人トークをしていた。


『うまく行ったな。扇動に感謝するぞ、大地』


『いえ、あいつらは単純ですから』


『クックック、愚かな奴らよ。中間選考こそは多数でも大賞の椅子は各部門に一つ、特別賞でもせいぜい二つくらいだ。この人数ではメンバー全員が書籍化なぞ不可能。そんな単純なことにも気づかないとはな』


『まあ、だからこそ扱いやすいのです。このまま私は現代ファンタジー、先生は異世界ファンタジーを制す。あとのメンツはおこぼれに預かれればいいのじゃないですかね』


『フフフ、プロ作家など恐るるに足らず』


『ええ、次こそは大賞は我らの手に』


『うむ、では執筆もあるからこの辺で切るぞ』


『御意』


 ホノカはLI○Eを止め、手にしていたブランデーをあおりながら地球儀を回した。


「フフフ、カキヨミ界を制覇する。

 跪け、駄作者どもよ! カキヨミ読者大賞は我の手中にあり! ハッハッハ」


 一方、大地も駆け寄ってきた猫を膝に抱き、なでながらほくそ笑んでいた。


「クックック……幽霊筆者ゴーストライターとサブリミナル効果を使えば、読者への刷り込みなど、赤子の手を捻るよりも簡単なことよ……。クックック……うわっはっはっは」




「さて、カキコンに上げる作品は皆、目処は立ったのか?」


 プロ作家の詰所と化したKARURA本社の会議室。ミタカはそれぞれに確認を取る。


「OKだぜ。まあ、落ちたら落ちたでその時さ」


 国分寺が持ち込んだパソコンを打ちながら自信ありげに答える。


「またそんな事を言って。少し下書き見せてもらいましたけど、本気度が違いますよ」

 立川は持ち込んだコンビニ限定の牛乳ラスクを皆に配りながら、呆れたように突っ込む。


「立川さんこそ、全ジャンルを書いたのだろ?」


「ええ、下限が無いからショートショートにしておいた。でも、これなら二作目や三作目も上げられそう」


「余裕だねえ。あ、このラスク美味しいからもう一枚ちょうだい」


「長泉さん、食べすぎですよ」


 長泉と立川のやり取りを尻目に千夜はかったるそうに答える。


「あたしはいつでもOKだよ。アカウントも菊名千夜に変えたし」


「菊名さん、スカートなのに机に脚を上げるのは、ちょっと。それに前より髪の毛赤くない? その、校則大丈夫?」


 確かに千夜の髪は以前会った時よりも赤い、いや深紅の髪になっていた。ピアスもさらに増えている。まるで、戦闘モードに入ったかのようなオーラを醸し出していた。


「秋津センセ、真面目だね。今は冬休みだから期間限定でしょ。あ、僕も大丈夫です。大学も今は暇だから」


「安積センセ、よっゆー。って女子高生の生足、じろじろ見てんじゃねーよ」


 一通りの回答を確認し、ミタカは切り出した。


「さて、全員集まったな。ネットでも連絡は取れるが、やはり顔が見える状態で打ち合わせをしたいという俺のわがままを聞いてくれて感謝する」


 ミタカが深々と礼をする。


「さて、それぞれ作品の推敲を重ねていると思う。コンテストの読者選考期間は一か月を切った。アップする時期については評価を稼ぐためになるべく早い時期にあげるのが定石だが、何か意見があったら聞かせてもらいたい」


「ちなみWSの動向は?」


 千夜が相変わらず足を机に乗せたまま問いかける。


「不自然に上がっているのは『トラックにはねられたら美少女に転生したので、同じくTSした魔王と異世界アイドルの頂点目指しますっ!』のタカナワ・ゲートウェイ・ホノカと『ぼっちなのにクラス一の美少女から言い寄られたと思ったら、女スパイと宇宙人と魔王だったでござる』の室蘭大地だな。あとはレジュメを見てくれ」


「やっぱりね。よーし、短期決戦と行くか。一気にぶっ潰す!」


 足を乗せたまま、千夜はにやりと宣言した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る