第3話 続々と集まる作家達

 ミタカの呼び掛けにより、次々と賛同する作家が集まってきた。


「さて、これで六人か」


 彼が会議室に入って見渡すとミタカ含めて六人の作家達がめいめい寛いでいた。


 カキヨミの母体である出版社「KARURA」の本社の会議室。ここを彼らプロ作家の詰所兼仕事場として解放していた。

 PCで連絡を取り合っても良いのだか、作家達は集まっては打ち合わせを度々行っていた。アナログかもしれないが、作家というのは日々仕事場に缶詰である。こうして会議室とはいえ、出かけてリフレッシュしたいのかもしれない。

 とはいえ、 予算はギリギリなこと、コンテストの公正さを保つため、この会議室はセルフサービスのお茶しかない。お菓子や食べ物は各自持ち寄りだ。不正にピリピリしているカキヨミからすると仕方ないところである。


「ええ、短編部門は立川さんに全て書いてもらうとして、あとは異世界ファンタジーの人のみ。まだ決まらないんだっけ?」


 自分で買ってきたポテトチップスの袋を開けながら「国分寺奏太こくぶんじかなた」は答えた。彼は恋愛小説『過激なロマンス~戦場で会った敵がどストライク! 愛の手榴弾を受け取って~』でヒットを飛ばした大御所でもある。

 ただ、ここのところは新作を書いてなく各出版社へ売り込み中であった。とどのつまり暇だったのだ。


「どうするかね。少し間口を広げてファンタジー作家全般をあたるかい」


 コンビニで買ってきたおやつの肉まんを頬張りながら、「長泉なめり」がのんびりした口調で提案する。彼は良く言えば恰幅の良い、ストレートに言えば肥満である。しかし、そののんびりそうな風体とは裏腹に『闇のWeb小説~その作者は実在するのか~』が代表作のホラーの鬼才だ。


「うーん、そうすると異世界ものというのに書き慣れない方だと不利ではありませんか?時間もありませんし」


 やや出がらし気味になったお茶をすすりながら「秋津あいり」が答える。彼は男性であるが、ラブコメを書くからという当時の担当者の提案でペンネームが女性名になった。そのまま変えるのも面倒なので今に至る。


「いっそ、書いてくれるなら大御所に限らず、新進気鋭の作家でも良くないすっか?

 あ、ところでコーヒー淹れましたが要ります?」


 現役大学生作家、キャラ文芸担当の「安積永盛あさかながもり」がコーヒーポットを掲げながら周りに問いかける。

 彼が書くキャラはバイオレンスながらもキレッキレの爽快さで定評がある。


「あ、安積さん、コーヒー貰えますか?

 それで異世界の作家なんですが、この人はどうでしょう? 」


 パソコンに向かって調べものをしていた立川がプロジェクターのスイッチを入れる。いつの間にかプレゼンの準備をしていたらしく、パソコンの画面がスクリーンに写し出される。


「弱冠十七歳の女子高生ラノベ作家、菊名千夜きくなちや。こないだ雷撃文庫新人賞を取ったのだけど、なかなか面白いわ」


「しかし、入賞したてなら書籍化作業で忙しくないか? ただでさえ、あと一ヶ月強で十万字執筆だ。我々もストックから手直しすることにしてギリギリなんとかなるくらいだ。それに新人ではネームバリューが弱くないか」


だぁれが弱いって?」


 入り口から生きのいい声が響いて全員が振り替えるとお嬢様学校「ファリス女学館」の制服を着た女子高生が立っていた。

 ただ、茶髪のショートカット、耳にはいくつものピアス、ギリギリまで短いスカート、お嬢様学校らしからぬ格好である。


「コーヒーのいい匂いにつられて来れば、あたしの作品が写ってるわ、『ネームバリュー弱い』とか好き勝手言ってくれちゃって。あ、コーヒーもらうわ」


 ずかずかと安積の元へ寄り、コーヒーポットを奪い取って紙コップへ注ぐ。


「あの、もしかしたら「菊名千夜」さん?」


 ミタカが控えめに尋ねる前に立川が代わりに答える。


「そ、次に顔写真入りの映像を写すつもりだったけど、この子が菊名千夜よ」


「なんであたしがここに写ってる訳? それにカキヨミコンテスト?」


 コーヒーを飲みながら千夜が疑問を次々と口にする。




「ふうん、それでプロ作家を集めていると」


「ただ、異世界は皆忙しいらしくて、まだ決まっていない。それで候補の一人として君を取り上げた訳さ」


 ミタカが代表して経緯を説明する。


「面白そうね」


「え? 受けてくれるの」


「どうせ今は冬休みだもの。部活もバイトもやってないから暇よ」



「ああっ!こんな所に居たぁっ!」


 入り口から駆けつけてきた中年男性が入ってくる。名札からして雷撃文庫の編集者だ。恐らく千夜の担当者に違いない。


「菊名君、困るよお、打ち合わせ中に抜けてさあ。ここはカキヨミさん達の控え室だから戻ろう」


「やだ」


「ええっ?!」


「こっちが面白そうだから参加する」


「そ、そんな改稿作業も大詰めなのに」


「うっせえな、そっちもやるよ。これで文句ないだろ」


「マジかよ、書籍化作業と並行して十万字の新作を一ヶ月強でできんのかよ……」


 長泉が驚愕の表情でつぶやくと立川が補足するように説明した。


「この子、すごく速筆なのよ。インタビュー読んだけど、雷撃の受賞作は五日で十万字を書き、二日で清書して応募したそうよ」


「ま、マジかよ」


「とにかく、その不正している『Wild SAMURAI』って奴を叩き潰すのだろ? そいつらに心当たりあるからな」


「ほう、知り合いとか?」


「ちょっと前にSNSで『カキヨミ仲間募集』というメッセージを受けたことある。さらに噂だが、そいつらは表向きはカキヨミ作家交流と言いつつ、相互評価や複垢を作って互いの作品を押し上げているらしい。チンケな連中さ」


「詳しいな」


「あたしもカキヨミのアカウント取ってるからね。SNSやカキヨミの名前には菊名千夜は使ってないし、どっちも更新してないけどね」


「とにかく、我々は歓迎するよ。これで七人揃ったな」


 かくして、七人の作家がカキヨミに集い、狼煙をあげた。




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