クロス×クロス

設彩

プロローグ はじめの嘘

「いいか、俺はお前達を騙す気はない」

 俺は目の前で刃物を向けられて尋問されている、そして今は生きる為に必至に命乞いをしている所だ。なぜそうなったかは話せば長くなるがどうせこいつらにも話さなければならないし今は置いておこう。

「お前見ない顔だな、どう見ても軍属では無いし何の目的で俺たちの後を付けてやがったんだ?」

「同じヒトとしてこんな事はしたくないけどお願いだから正直に言って貰えないかな?」

 二人の男は疑いの目を向けている、よく見ると奥には女の子もいるようだ。

「だから言ってるだろ、最近は物騒だから強そうなお前達に引っ付いていけば安全だなって思っただけだ、ほら野盗とかそのあれだ角付きってやつもいるって聞いたからな」

「じゃあなんでそう言わずに勝手についてきたんだ、お前こそ野盗なんじゃないか?」

 ぐうの音も出ない正論だ。これでは野ざらし一直線だろう。

「まあまあロウ、確かに彼の言ってる事も一理あるよ、それに僕らは同じヒトを見捨てる訳にはいかないでしょ」

「お前なあ、甘いんだよ。一応俺達は命令の元で町の外へ遠出しているんだぞ」

 まさかのあちらから助け舟があった、これを利用しない手はないだろう。

「わかった、ならここまでの俺の旅をお前達三人に話すよ、ほら周りも暗くなったきたしさ夜道こそ危険だろ?それに女の子だっているし時間つぶしで聞いて貰えればいい。というか頼むから聞いてください。」

 生きる為だ、片意地張っているわけにはいかない、どんな事をしてでも信用を勝ち取るべきだ。

「わーたよ、そんなに懇願するなやってるこっちが罪悪感沸いてきたよ、ユウしゃあないから離してやるぞ」

「それじゃあちょっと失礼するね、言っておくけど」

「どうせ逃げ出すなって言うんだろ?耳が腫れる位同じような事を言ったしもう言わなくてもいいぞ、それになんも武器とか持ってないし歯向かったらここで終わりだろうから安心しろ、俺は死にたくはない」

 ユウと呼ばれたやつは無視して黙々と縄を解いた、どうやら無駄に弁解してしまったがとにかくようやく忌々しい縄が解けた、正直両腕がもげそうな位に痛かったんだ。

「もう動けるだろ、さっさとこっちに来い」

 俺は二人にたき火の近くへ連れられた、こいつらはここで野宿でもする予定だったのだろう。そしてそこには先程からこちらをちらちらと見ている女の子もいた。

 頭巾をすっぽりとかぶっているから顔をしっかりと見られなかったが、ちらちらと俺を見ているのがをしているのが分かる、手元で何かを弄んでいる様だ。

「さて一応聞いてやるんだ、くだらないこと言ったらその辺になげておくからな」

「ロウもういいでしょ、所で君服やらなにやらが全身ボロボロだけど大丈夫?それになんというか・・・匂うよ?」

「悪かったな、色々あったんだよ色々とな」

 じろじろと三人は俺を見回す、まあ匂う原因は深すぎて話すと長い。こいつらには適当に話すとしよう。

 見られながら俺も三人を見た、さっきまでのやり取りから考えるとやたらと攻撃的な発言をするやつがロウで、割と助けてくれるのはユウというらしい。

 ロウはがたいが良く鍛えているのが分かる、まあ筋骨隆々というわけではないが。

 ユウはその逆で華奢な体形だ、何知らずに聞かれたら男か女か一瞬迷いそうだ。

 女の子は名前をまだ聞いてなかったが二人より頭一つ小さくまさに女の子って感じだ、まあその全体的に小さい、何とはあえて言わないでおこう。

 俺からも少しは探ってもいいだろう、これから話すのに名前を教えあう位はいいはずだ。

「さて、どこから話すべきか悩むがまずはお互いの名前位は知っていてもいいと思うんだ。ほら別に俺たちは同じヒトだ。敵って訳じゃないだろ?」

 正直こいつらの敵は知らないが、ここは同族だという事を理由にしよう。

「確かにそうだね、それじゃあ紹介するね。僕はユウ、この二人とは幼馴染で今回は‘角付き‘の拠点と思われる地域を偵察しに出ているんだ。」

 ユウ、こいつは想像以上にちょろいぞ、ぼろぼろと重要な事を言ってくれる、嘘が付けないやつだな。俺としては好都合だがな。

「さっきから文句を言っているのはロウ、僕とは歳が一つ上なんだ。」

 聞いてもいないのにぺらぺらと話すのをロウというやつが制止した、

「おいおい、お前そこまで言うか?!ユウ、お前この怪しいやつの話を聞く前だぞ、角付きが化けていたとかだったらどうするんだよ!」

「まあまあ、そう怒らないでこういう時はどっちかが譲らないとこういう時はだめだよ、それに・・・」

 ここで二人の口喧嘩が始まった、もう少しで女の子の名前も分かりそうだったんだが仕方ない。

 ただ仲が悪いようには見えなくどっちかというとじゃれ合っている感じだ。ユウは本気で話しているみたいだが、ロウはへらへらと話している様子だ、普段からからかわれているんだろう。

 それを見ていたら突然、隣に座ってた女の子に袖を軽く引っ張られて話かけられた。

「え、えっと私はエンっていうの、よ、よろしくね」

 ここで初めて隣の女の子の声を聞いた、声は小さいが可愛らしい印象を受けた、どうやら単純に人見知りなだけで敵意はなかったみたいだ、せっかくだし二人の話が終わるまでこの子とも話そう。

「あ、ああよろしくな、俺は。」名前を言う直前で気づいた、しまった、ちょいとまずい事になった。適当に言うしよう。

「?」エンは突然固まった俺を不思議そうに見ている。

「俺はシウっていうんだ、まだあの二人には話してないが、田舎から来たもんでこの辺の事は良く知らなくてな、たまたま知ってそうだったからついて来たのさ」

「そ、そうなの・・・よ、良かったらセントラル以外の町や場所についても話して貰える?すごく興味があ、あるの。」

 割と苦しい言い訳したがどうやら逆に興味を持って貰えたようだ、そっけない態度をされるよりも話しやすいだろう。ただ、嘘は把握が出来なくなるとやばい、把握が出来る範囲の内にさっさと信用してもらわないとな。

 めちゃめちゃ話が脱線しているしな!俺は早速仲良しコンビに声をかけた。

「おい、おい!二人共、そろそろその辺にしてもらえないか?」

 未だに言い合っていたユウとロウに声をかけたら二人共返事はしなかったがこちらへ向き直した。

「冗談ならそう言ってもらえればよかったのに・・・」

 ぶつぶつと文句を言うユウと対照的にロウはにやけ顔で嬉しそうに謝った。

「わりぃわりぃ、顔真っ赤にしてる所見たら余計おちょくりたくなっただけなんだよ」

 さっきの印象は合っていたようだ。様子からするとロウの方が一枚上手なのだろう。

「なんだよ、ロウさん。そんな顔できるんじゃないかよ」

「あ?」「なんでもないです。」

 俺は調子に乗ってロウに言ってみたが即行で睨まれた、まだ彼の警戒心は解けてなかったようだった。

 たき火を中心に囲み俺は三人に話始めた。

「よしようやく話せるようになったが、まずはこれから話す事で疑問があればその都度、言って貰えればいいし全部信じて貰えなくて構わない。だから途中で斬り捨てるのはやめてくれよな、というかお願いします。」

 俺は冗談半分で話した、ロウが苦笑を浮かべ二人は真剣に聞いている。

 そうして俺はここまでの出来事を話し始めた、全部は言わなかったけどな。

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