2章2
今日も奇跡と日常を過ごしていた。
ゲームをしたり、話をしたり。
あまりいつもと変わらず、けれど退屈ではなく、心安らぐ。
そんな、人としての日々。
けれど必然的に予定調和は訪れる。
不安などなく、ただ起こるのを待っていた出来事だ。
突然、日常の世界は崩壊した。
灰色の世界へと変貌する。
いや、変貌ではなく、戻る。
瓦礫だらけの滅びた世界。
異能力者の襲来だ。
青髪の眼鏡を掛けた男が立っていた。
「お前は」
「
奇跡と名字が僅かに似ているのが苛立ちを覚えさせた。
「一応訊きます、僕に永遠に変化を与え続けてくれますか?」
「どういうことだ。人にものを頼む時は分かりやすく説明しろ」
「まあ、無理でしょうね。いつか限界が来ます」
「話を聞け。決めつけるな」
「それに、やはり人間は殺したくてたまらない」
話が通じない。少しでも殺し合いを回避しようとした俺が愚かだったのだろうか。
「だから、たとえ刹那的でも、今の
「どういう意味だ」
「僕は今から君を殺し、その後奇跡ちゃんを犯します」
「……っ!」
「ぇ……?」
今、こいつは何て言った。
奇跡も目を見開いて驚愕している。
「奇跡ちゃんを犯します」
「……そうか」
「はい、そうです。本当は薄汚い人間の
俺は問答無用で飛び出していた。
刀は既に手にしている。
銃撃。
青白い光弾が飛来した。
刃を振るい弾く。
その一手によって足止めされ、奴の首元へと辿り着けなかった。
渦城はその手にメタリックブルーの光沢を
ハンドガンの口径が異常なほど広い、ともすれば玩具にも見えてしまう拳銃とも言えない銃だ。
あれが奴の異能力か。
「防ぎたくば僕を殺せばいいんです」
言われなくても。
「さあ、ご招待しましょうか、僕の世界に」
渦城が銀縁眼鏡のブリッジを中指で上げた。
と思った刹那、世界は変貌する。
渦城才賀の固有結界だ。
まず認識したのは、暗闇。
まったく見えない闇ではなく、薄暗い。
例え普通の人間が真っ暗と称する空間であったとしても、異能力者なら視界の確保は出来ていただろうが。
次に喧騒、
大量の人形が腕を振り上げ騒いでいる。
この場は大学の講義室の様に階段状であり、その数倍は広い。
そして最下部にはステージが鎮座し、スポットライトが当てられている。
当てられている先には、見覚えがあるような気がする人形がマイクを持ち歌い踊っている。
そう、この固有結界は。
「アイドルのライブステージ……」
「ご名答」
銃撃。銃撃音は在った。されど
いや、"分からないようにされている"。
更に、青白い光弾は光速で飛来する。
だが見えない訳ではない。
刀を振るい寸前のところで弾き飛ばす。
明後日の方向に飛んだ光弾は、騒ぐファンの人形と席を消し飛ばした。
奴の銃は玩具の様な形容をしているが、殺傷能力は異能力である以上どのような銃器も凌駕する異常な威力を保有しているのだと実感した。
渦城は暗闇に紛れている。気配は無数に在り察知不可。その上、音が何処から聞こえてくるか分からないのなら、ほぼ完全なる隠密だ。
俺も固有結界を発動しようとしたが、渦城の固有結界を上書きする事は出来なかった。
やはり俺が固有結界を覚える意味は薄いのか。
暗闇からの銃撃が続く。
攻撃する瞬間の僅かな殺気を苦心しながら感じ取り、刀を一閃し対処する。
位置は分からない。それに恐らく奴はリロードをしていない。
つまり渦城の銃はリロードを必要としない。
にも
歌声と喧騒の中、銃撃が、続く。
翻弄される。
防戦一方だ。
何とか攻勢に回らなければ、嬲り殺しにされる。
まず接近しなければ斬る事は出来ない。
刀を投擲してもすぐ手元に出現させる事は可能だが、そのタイムラグを狙い撃ちされるだろう。
光弾が飛来した方向を察知し、渦城の場所を特定する。
走り、跳び、近づこうとするが、上手くいかない。
薄暗く、階段状の動き辛い地形だからだ。騒ぐ障害物も多く存在する。
高速で戦闘しながらだと、思うように動けない。
銃撃。
飛来する青白い光弾は、俺の右腕を掠り、爆発、蒼い閃光、刀を手にした右腕は千切れ飛んでいった。血飛沫が舞う。
頑丈な異能力者の体は、例え砲弾を受けても無傷であろう。そんな体が容易に千切れた。
異能力者の戦いは、一騎当千な生体兵器のぶつかり合いだ。
爆発時の閃光に紛れて、光弾が連射される。
騒いでいるファンの人形を楯にしながら避けていく。
刀を左手に現出させ握った。
上腕の半分ほどになった右腕の痛み。痛み。痛い。気が狂いそうな痛み。
痛覚は無視した。異能力者の体なら、これくらい出来ない事はない。
簡単では、ないが。
地形が悪い、そして銃撃は断続的に続く。
だが、この程度。
この程度で死ぬような軽い思いで望んでなどいない。
踏み込む足場は悪い。ならば、その床を、躓かないように、どうにかすればいいだけだ。
どうにかするには、地形に適応して身軽な動きをすればいいだろう。だが今は慣れる時間はない。
だから。
寧ろ、力技で粉砕する。
光弾の来る方向からまた居所に当たりをつけ、攻勢に出る為踏み込んだ。
階段状の段差が、ファンの人形が邪魔だ。
だから蹴り潰し、踏み潰した。
異能力者を阻めるものなどありはしないのだ。
そうして接近。渦城は目の前に。
――薄暗かった視界が突然明るくなった。
ライトだ。ライブ会場にある上方の照明が俺と渦城の間に落ちる。
渦城は口元に弧を描き、眼鏡に光が反射していた。
俺の足が止まる。
メタリックブルーの銃口はこちらを向いて、その大口径に青白い光が集束していた。
渦城の罠だ。接近したところに照明を落として俺を足止めし、その隙に光弾を命中させる算段なのだろう。
されど俺も、既に刀を薙ぐ構えを取っている。
放たれる青白い光弾、振り薙がれる銀色の刃。
衝撃、爆音、爆発、爆砕。――爆煙。
視界が悪い。距離を取った。
爆煙が晴れた頃、奴も距離を取ったのか大分離れた位置にいた。
銃撃と剣戟が再開される。
お互いの攻撃を、ファンを楯にお互い防ぎ、避け、決定打は決まらない。
銃撃が放たれる。けれど今回は先までと違った。
意図的に着弾時爆発させず跳弾させ、渦城が移動しながら光弾を連射する。
奴は。無数の光弾を角度計算し操り始めたのだ。
弾同士が衝突し、爆発せず跳ね返り、壁にも爆発せず跳ね返り、縦横無尽にライブ会場を青白い光弾が飛び交う。
何処から襲われるか、どのタイミングで襲われるか。まるで分からない。
銃弾が飛び交い過ぎて、渦城の居場所も察知できない。
――――どうする。
打開策を叩き出そうとした時。
白ワンピースを着た少女、奇跡が目の前に走ってきた。
「一箇所にとどまっている今なら、手助けできるよ」
――――。
今は危険がどうこう言っている場合ではない、か。
自惚れではなく、俺が死んでしまっても、奇跡は絶望してしまうだろうから。
「……分かった。頼む」
「頼まれたよ」
奇跡の周囲、数十センチ離れて半透明の何かが現出した。
円状に、奇跡を守る為のバリアが、本人曰く絶対に死ねない理由が顕現したのだ。
「こっち方面は任せて」
飛来した光弾は奇跡のバリアに触れると消滅した。
バリアには傷一つ付いていない。
奇跡に背中を預ける事にした。
だから俺が警戒するのは前方上方左右だけだ。
見えてる弾丸だ。
後は、動ければいい。
左から光弾。
刀を振るう。
上から光弾。
刀を振るう。
右下方から光弾。
刀を振るう。
幾つもの光弾が連続的に、断続的に、時には一定の間隔で、時にはタイミングをずらし襲い来る。
その全てを斬り払った。
後ろに奇跡が居てくれるから。後ろは奇跡に任せられるから。
慣れてくると、斬り伏せながらの移動が可能になった。
そうして、ライブ会場のステージの奥、銃口をこちらに向けている渦城を見つける。
即座に地を蹴り、光弾を切り流しながら接近していく。
ここで、斬り伏せる。
俺がステージに足を踏み入れ、中心辺りまで来た刹那。
ステージの中心で歌い踊っているアイドルの人形が突如爆散した。
その人形の中から今までの光弾よりも二回り巨大な、
俺は渦城を見据えて、殺す為の予備動作をしている。
つまり、完全なる不意打ち。
蒼黒い光弾は狙い違わず俺を狙い高速で飛来する。
無防備、避けられない。
自然界においても、獲物を刈る時が最も無防備になる。
誘導された。
完全に。完膚なきまでに
渦城は銀縁眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、レンズを光らせながら言った。
「切り札は最後まで取って置くものですよ」
蒼黒い光弾は俺に命中した。
爆散。俺の身体が爆散する。
体がぐちゃぐちゃに四散し消し飛ばされる。
刀は放り出されチャリチャリとステージ上を滑り消えた。
「たろー!」
奇跡の悲鳴が聞こえた。
俺の頭が転がる。
死ぬ。
――――死なない。
視界が真っ白に染まり。
けれど意識は消えなかった。
また、だ。
俺の異能力が見せるビジョンだ。
ライブ会場に俺は居た。
先までの渦城が創り出した紛い物ではない、本物のライブ会場だ。
ファンは人間であり、先の人形の様に騒いでいない。サイリウムを振ってはいるがアイドルの歌声を遮るような大声を上げていない。
本物のファンは歌ってない時に声を上げる事はあるが、歌っている時はしっかりと聴き入るのだ。そのアイドルが好きなのだから当たり前だ。聴かなければ意味がない。
そんな簡単な事を渦城は解っていない。
ステージの中心で踊っているのは、見覚えのあるアイドル。今でもちゃんと覚えているアイドル。
金髪でキラキラな衣装とアクセサリーを纏った、明るくて可愛い声を響かせるアイドル。
女子小学生アイドルひかりちゃんだ。
俺が大ファンだったアイドルだ。
バイトして稼いで、グッズを揃え、ライブも欠かさず行った。
これが過去の光景なら、俺も居る筈だ。
しかし 俺の身体は
視点が宙に在るだけだ。
つまり過去でも俺は此処に居なかったのか?
それとも視点だけが別になっているのか。
いや、違う。
感覚的な判断だが、恐らく俺は此処に居なかった。
ビジョンが自身の体の視点になっていない時は、その場に俺は居ない。
アイドルのライブ会場、ファンに愛されたアイドルの空間、そんな一体感のある空間は突然の喧騒に壊された。
銃撃音。先まで現実世界で聞いていた特殊な銃撃音と悲鳴が木霊する。
渦城がファンやスタッフの人達を虐殺していた。
やめろ。
逃げ惑う人々、渦城は淡々と引き金を引き殺していく。
やめろ!
ひかりちゃんのライブを穢すな。
ひかりちゃんのライブは、元気が出て楽しくなれるライブなんだ。
人を幸せにする光なんだ。
それ、なのに。
「なにが起きてるの!? みんな! みんな! どうして。なにが……」
ひかりちゃんは怯え戸惑っていた。
「――みんな、逃げて!!」
けれどひかりちゃんはその一言を絞り出した。
状況が分かっていなくても、非常事態だという事は理解したのだろう。
ひかりちゃんはファン想いの優しい子だ。非常時に際して咄嗟に出る言葉がファンの心配だという事からもそれは真実だと確信出来る。
けれどその思いは届かず、人々は惨殺されていく。
いつしか、ひかりちゃん以外のすべての人間が死体となっていた。
煌びやかなライブ会場は、赤へと染まった。
ひかりちゃんはステージの中心でへたり込んで震えていた。
涙を流して、顔を液体塗れにして、極限まで怯えていた。
流れて止まらない涙はライトに照らされ煌いて、ひかりちゃんだけが輝く存在として残っていた。
絶望の光景。
――しかし、真の絶望は此処からだった。
渦城はひかりちゃんに近づいていく。
やめろ!
声に出しても発せない。
止める為に動く事も出来ない。
渦城は震えて動けないひかりちゃんを押し倒し、組み伏せた。
「大勢の人間に慕われる少女の体とは、どれほどのものなのでしょうね」
「ひっ……やめ……やめて……」
嫌がるひかりちゃんは、恐怖で動けない。
例え動けたとしても異能力者のフィジカルを上回ることは不可能だろうが。
おい。
ふざけるな。
やめろ!
叫んだところで意味はない。
これは既に終わった過去だ。
過ぎ去った時間を観ているに過ぎない。
「や……いや……いや……っ!」
ひかりちゃんの服が破られる。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。
ひかりちゃんの大切な部分を渦城の醜悪が蹂躙する。
蹂躙している。
ステージ上でスポットライトに照らされながら、異能力者という化け物は純粋な少女を犯す。
ひかりちゃんはこの世の地獄を感じて泣き叫んだ。
ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな。
何の意味もない。
見ている事しか出来ない。
乱暴に化け物が快楽を得る為だけに扱われ、ひかりちゃんの体は苦しみと共に壊れていく。
心も、壊れていく。
俺は呪詛を撒き散らし続ける。
涙さえ流して。
そう、涙が流れていた。
今此処には俺の身体は無い、けれど、心が、俺の全てが泣いていた。
犯された後に、ひかりちゃんは殺された。
まるで飽きた玩具をぞんざいに扱う幼子の様に、何の躊躇いも罪悪感もなく容赦なくゴミを捨てる様に、渦城はひかりちゃんの首を容易く折った。
汚いものに塗れて首をありえない方向に曲げ、痙攣し絶命している少女の死体が、ステージの中心でライトに照らされていた。
俺は
助けられなかった。
過去は変えられない。
過ぎ去ってしまって戻らない時間の事を、過去というのだから。
――これは、過去に実際にあった事。千年前の悲劇の一つ。
醜悪で、許し難い、
俺が絶対に許さない、出来事だ。
俺の異能力が見せる過去のビジョンは終わりを告げ、視界が白く包まれた後。
現代の、終わった後の世界に戻ってくる。
俺の身体はバラバラぐちゃぐちゃ滅茶苦茶になっていて、今にも意識が消えて死へと落ちる一ミリ手前だ。
されど、死なない。
カチリと、スイッチが入った様な感覚。
ガグルガスとの戦闘時にビジョンを見た時と同じものだ。
俺の異能力は、ビジョンを見た事による感情想起、増大により、奥深くに蓄積されていた力を解放する。
俺の四散した体は光に包まれ、瞬時にして元通りと為した。
この力は、伊達ではない。
何故なら――何故なら――なんだ。わからない。
それはいい。
命が一つ消えたぐらいで死ぬのは普通の生物、動物、人間だけだ。異能力者は、それらとは一線を画している。
それもどうでもいい。
今は。
震える憎悪と復讐心に支配されていた。
「渦城」
「貴方も相当な化け物ですね。あれで死なないとは」
「お前は千年前、アイドルの少女を犯し殺したな」
「……唐突になんですか。確かにそんな事もありましたね。あの記憶は鮮烈です。新鮮で刺激的な体験でした。あの時の様な感動をもう一度体感してみたいものです」
「あんな事して、貴様はいいと思っているのか」
拳が震える。唇を噛み切る。奥歯が欠ける。
「僕は神です。これぐらい許されますよ」
「俺が許さない」
貴様ら傲慢な神々を。
いや、異能力者というただの化け物を。
――――その理論なら異能力を扱う俺も奇跡も化け物なのか?
いや違う。
あいつらの様に化け物の思想は持っていない。
昔から変わらない人間の思想を保っている。
奇跡だって同じだ。
だから、奴らは俺の敵で、相容れない存在だ。
「だから」
「だから?」
渦城は銃口を俺へ向けている、蒼黒い光が大口径の銃口に収束し、充填されていく。
「お前を殺す」
銃の引き金が引かれ、蒼黒い光弾は光速で飛来する。
俺に到達するまで、1秒どころか0,01秒すら掛からない。
――歌が聞こえる。
刹那を越えて、身体が動いた。
――ひかりちゃんの歌声だ。
俺は光速で飛来する光弾を"避けた"。
刀で弾くでもなく、流すでもなく。何も武器も楯も用いず、避けた。
――とても可愛らしい、鈴音の様な歌声だ。
光弾は背後を爆砕していく、爆砕音だけが聞こえる。
俺は前しか見ていない。
今から殺す渦城しか見ていない。
刀は既に手にしていた。
刀身が淡く光っている。
渦城は二の弾を放とうとした。
されどそれは阻害される。
「なに……っ!?」
ひかりちゃんファンの人形が現出し、淡く光を放ちながら渦城に群がり、動きを止めていた。
渦城は異能力者だ、化け物だ、だからこれで止められるのは僅かな時間だけだろう。
それだけあれば十分だ。
――ひかりちゃんの歌が全てに浸透していく。
瞬時に渦城の前に踏み込み移動。
光る刃を袈裟掛けに振り下ろす。
「ぐあぁ゛っ!!」
渦城はまだ死なない。
まだ死なせない。
まだ殺さない。
痛みを、苦しみを、辛さを、絶望を。
お前に与える。
斬撃を無数に叩き込む。
刀身の光は、ひかりちゃんの放つ人間としての輝きの様な光に満ちている。
――ひかりちゃんの歌が聴こえる。
聴けば聴くほど、急速に斬撃の威力と速度が増していった。
それに比して、刀身の光も強くなっていく。眩しいほどに。
けれどその眩しさは俺に悪影響を及ぼさない。
ひかりちゃんの光だからだ。
自らの異能力だからだ。
異能力者の異能力は、全てその異能力者に対して都合の良い様に出来ている。
渦城はステージ上で、ひかりちゃんと同じように身動き出来ない様にされ、その命を蹂躙される。
俺が蹂躙している。
俺が処刑している。
俺が私刑している。
斬り刻まれていく苦しみを、懺悔としてひかりちゃんに捧げろ。
切り上げ。
袈裟掛け。
斬り上げ。
逆袈裟。
左薙ぎ。
返して右薙ぎ。
突き。
斬撃。
斬撃。
斬撃。
斬撃。
そうして。
ひかりちゃんの歌が聞こえなくなり、眩い光が消えた頃。
渦城は全身をズタズタにして倒れていた。
見るに堪えない肉塊と化していた。
俺がやった。
殺した。
渦城の固有結界が消える。
……自己満足。
自己満足だ。
これは醜い感情に任せた自己満足だ。
こんな事をしてもひかりちゃんが救われる事はない。彼女は救われなかった。
渦城を殺すのは変わらなかった。
けれど、醜い悪感情に支配されてしまった事が酷く罪悪感を覚えさせた。
自分の精神が腐敗していく様な、戻れないところに来てしまった様な、やってはいけない事をしてしまった感覚が苛む。
「たろーは悪くないよ」
後ろから奇跡が抱きしめてきた。
「たろーはたろーだから。何も変わってなんかいないから」
「だから、大丈夫」
「大丈夫だよ。わたしがいるから」
俺は、大丈夫みたいだ。
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