第5話 ミミとの結婚!

 賑やかなイルバニア王国の一行が帰国すると、エリカはウィリアム王子と一緒に帰りたかったと少し拗ねた。




「エリカはリューデンハイムで色々と竜の乗り方を習っているだろ? パメラに教えてくれないか?」




 エリカは、後宮で一人ぼっちの妹パメラのことを忘れていたと反省して、王宮の裏手の海岸でスローンとの飛行訓練を指導してやる。




 ミヤは、浜辺に座って見物していたが、エリカをウィリアム王子に、パメラをシーガルに嫁がせたら、やっと子育てから卒業できると肩の荷を降ろした気分になる。




「おい、ミヤ! 空きの巣症候群になんかになるなよ! 子育てが終ったからと老け込んだら承知しないぞ」




 ミヤは、メリルと舞い降りたアスランに呆れて「どこに行っていたのですか?」と腹を立てる。




「エリカの婚約者のウィリアム王子がレイテにいらしてたのですよ。親として挨拶ぐらいしても罰は当たらないわ!」




 叱りながらも、それが嫌で逃げ出したのだろうと、ミヤは溜め息をつく。




「おお! なかなかエリカは騎竜が上手い! リューデンハイムで修行をしただけはあるな。パメラはスローンが若い竜だから苦戦しているが、見込みがある」




 娘には甘いアスランに、ミヤは苦笑していたら、ショウが飛行訓練をしている浜辺に駆けつける。




「父上! どこにいらしてたのですか?」




……チッ! こいつにはメリル経由で筒抜だ!……




「お前にそんな事を言う必要は無い! おお、そうだ! やっと王子が産まれたと聞いたぞ。ミヤの部屋に連れてこい」




「えっ? まさか?」と怪訝な顔をしながら、後宮へ向かうショウに、ふん! と鼻をならす。








 ミヤは部屋でお茶をいれてやりながら、素直ではないのだからと呆れる。




「孫の顔が見たいなら、そう仰ったら宜しいのに……」




 アスランは、違う! と否定しかけたが、ミヤにお茶を差し出されて、不機嫌そうに飲む。




「やはり、ミヤがいれてくれたお茶が一番美味しい」




 ふと、アスランが帰って来たのは、ミミとの結婚の為ではとミヤは考えた。ショウがミミとの新婚旅行に行く間、老いたフラナガンでは心配だと思ったのでは? と感謝する。








 しかし、その感謝の気持ちは長続きしなかった。




「カイトと名づけました」




 ショウから赤ん坊を受けとると、意外と上手く抱っこする。




「お前の赤ん坊の頃に似ているな! ぼんやりしている」




 酷い言い様だ! とミヤとショウは腹を立てるが、アスランは相手にしない。ソッとカイトの顔に弱い風を送る。




「何をされるのですか?」




 ショウは、怒ってカイトを抱き上げるが、ミヤは昔を思い出す。




「カイトは風の魔力持ちなのですか?」




 アスランも、ショウの赤ちゃんの頃を思い出していた。




「ああ、航海するには便利な能力を持っているな」




 ショウは腕の中にいる小さなカイトが、航海するのかと不安そうな顔をする。




「ヘッポコ! そんな顔をするな! カイトがお前に似ていたら、どれだけ苦労するか覚悟しておけ。8歳で新航路を発見したいと言ったのだぞ。それも小舟でな!」




 親になって知る、親の恩! ショウは決闘で死にかけたのを、父上がどれほど心配したか気づいた。




「父上にはご心配をおかけしました」




 頭を下げたショウに、ヘッポコ! ヘナチョコ! とアスランの罵声が飛んだが、ミヤが睨みつけているので口を閉じる。




「男の子は厳しく育てろ!」




 ショウも女の子のアイーシャ、レイラには甘い父親だが、腕の中にいるカイトは厳しく育てなくてはと感じていた。




「はい、厳しく育てます」




 どこか甘いショウだが、一人前の親の顔になってきたとアスランとミヤは頷いた。








 ショウがミヤの部屋でアスランと話していた頃、リリィは久しぶりに実家で息子達と会っていた。父上の軍艦に乗せて貰ったと嬉しそうに報告する息子達に、リリィは少し心配した。しかし、軍人であるカリンの息子なので仕方ないと溜め息をつく。




「リリィ、ショウ王太子の第一夫人は大変でしょう。重臣達が娘を後宮へ嫁がせたいと騒いでるとか……」




 息子達が賑やかに帰っていくと、ラシンドの第一夫人のハーミヤがお疲れ様と、お茶を持って話しに来た。ショウ王太子の後宮を仕切るのは大仕事だろうと労ったのだ。




「まぁ、ハーミヤ様が自らお茶など……ありがとうございます。ご心配をお掛けしましたが、どうにかショウ様を説得できました。フラナガン様の孫娘、ドーソン軍務大臣の娘、ルーダッシュ軍務次官の娘が後宮へ入ります」




 そう言いながら、リリィはふっと笑った。




「まぁ、何でしょう? そんなに笑う余裕があるとは?」




 三人はどうにか受け入れるのを承知したみたいだが、まだ後宮へ娘をと望む家臣は多いだろうとハーミヤは不思議に感じる。




「ショウ様はしぶといですわ。秋に開校されるレイテ女子大学で勉強してから、後宮へ入るようにと条件を出されたのです。パメラ王女も通われるそうですし、家臣達はこぞって娘を入学させようと必死になっていますわ」




 ハーミヤは、幼い頃から少し変わっていたと、ころころと笑う。レイテ大学に女子大学が併校されると聞いてはいたが、頭の固い東南諸島の父親が娘を通わせるかしら? と心配していたのだ。




「私も知り合いの第一夫人に声を掛けましょう。嫁がれた姉君達の姫達を通わせれば、王族達も続くでしょう。大商人達もあわよくばと通わせそうですし」




 リリィは、これ以上は増やしたくないと頭を抱える。その様子が可笑しいと、ハーミヤは大笑いする。




「では、これにて……」とリリィが席を立つのを、ハーミヤは変だと思う。後宮へ帰るには早いのでは? と引き留める。




「少し大事な用事を済ませなくてはいけないのです」




 ショウ王太子の第一夫人の顔になったリリィを、ハーミヤは丁重に見送った。何かしら? と好奇心を持ったが、詮索しないことにする。話して良いことなら後で教えてくれるし、駄目な話は母なる海まで持っていくのが第一夫人としての心意気なのだ。








 今回の宿下がりは、息子達と会うだけでなく、大事な用事を済ませる為だった。リリィは輿をカジム殿下の屋敷に向かわせる。ショウ王太子の後宮に嫁ぐミミに話があったのだ。




「まぁ、リリィ様、ようこそお越し下さいました」




 カジムの第一夫人ユーアンは何か御用かしら? と不思議に思いながらも、ショウ王太子の第一夫人を丁重に出迎える。




「いえ、息子に会いに宿下がりしたので、少しミミ様に挨拶をしようと立ち寄っただけです。ユングフラウに滞在されていたので、お目にかかっていませんでしたから」




 忙しいショウ王太子の第一夫人がわざわざ立ち寄る理由には弱いが、新しく後宮に入る妃に挨拶したいと言われては拒否などできない。何か問題でも? とドキドキしながら、ミミをサロンに呼ぶ。




「リリィ様、初めまして」何時もは元気いっぱいのミミも、何事だろうと淑やかな振りで、挨拶をする。




「せっかくの嫁ぐ前の貴重なお時間をお邪魔してすみません。少し話し合っておきたいと思いましたの」




 リリィは、ロジーナ妃との昔のいざこざを引きずったまま後宮に嫁いではいけないと忠告する。




「わかりましたわ……あれは私も悪かったのです。ショウ様が騙されるのではと焦ったから……王子誕生のお祝いを言いがてら、謝りに行きます」




 リリィは、後宮の平和が保てそうだと微笑む。今なら、ロジーナは寛大な気持ちになっているので、昔の事など許すだろうと安心して後宮へ帰った。










「ミミ……ミミ……元気で過ごすのだぞ……」




 ぐずぐずのカジム伯父上に、ショウもドン引きだが、リリィがミミの手を父親から受け取って渡してくれた。




「カジム伯父上、ミミを幸せにします」




 今度はショウを抱き締めて泣き出す。リリィが困り果てていたら、ミヤが援軍に来た。




「さぁさ、カジム様、アスラン様が一緒に飲もうと待っておられますよ」




 肩を落としてミヤと屋敷に引き上げていく父上には悪いが、ミミはショウ様しか見えてない。幼い頃からの夢が叶ったのだ。




 東南諸島の伝統的な赤の結婚衣装を着たミミは、栗色の髪も艶やかで美しく魅惑的に見える。




「ミミ……とても綺麗だよ」




 二人は手を繋いで、後宮の裏手の海岸へ向かった。女官が差し出す葉っぱの船にミミがお米や花を飾っていくのを、ショウは何度目でも、新鮮な気持ちで眺める。




「ショウ様が航海で食べ物に困らないように……私の元へ元気に帰って下さいますように……」




 海洋国家の東南諸島の花嫁として、ミミが自分の無事を真剣に祈っている。幼い妹のように感じていたミミが一人前の花嫁になったのだ。




 二人で結婚の誓いをたてると、こっそりと後宮を抜け出した。サンズは同じファミニーナ島にいるならと、フルールの側にいることにして、ラルフでレイテとは反対側の離宮で新婚の数日を過ごした。




「もう帰らないといけないのね……」




 できたらリューデンハイムには行きたくないと、ミミはショウに甘える。




「新学期が始まるからね。エリカと一緒に送っていくよ」




 送って貰うのは嬉しいが、エリカ様は邪魔だと溜め息を圧し殺す。




「遠距離結婚はつまんないわ!」




 膨れっ面をするミミに、キスをしてご機嫌をとるショウだった。


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