第6話 レイテ大学開校!

 九月になると、レイテ大学が開校した。ショウは学長のサリーム兄上に任せると言ったが、来賓としての挨拶を断り切れずに引き受けた。




 変人の教授達もサリーム学長がきちんとした格好をさせていたし、レイテ大学で学ぼうと目を輝かせている新入生達も席に付いて、来賓のショウ王太子の祝辞を聞いている。




「このレイテ大学の創立理念に、魔法と科学の融合を掲げたい。魔法と科学のどちらが優れているとかの議論だけに留まるのではなく、お互いの優れた点を認め合い協力して研究を進めて欲しい。


 ここでは、古きを知り、新しきを学んで欲しい。文学、歴史を学び、自由な発想で、活発な議論をして下さい。教授達と学生達が自由に発言し、新たな文化を作り上げて欲しい。


 そして、東南諸島連合王国だけの利益ではなく、世界を発展させ、平和を維持する為の発明をするという意欲を持って学んで下さい」




 若き理想主義の王太子の祝辞に、いならぶ教授達は自由に授業ができると喜んだし、入学した学生達も頑張ろうと隣の席の学生達と肩を叩き合う。




 二階席で祝辞を聞いていた女子学生達は、新しい世の中になるのだと期待する者もいたが、数名はショウ王太子の凛々しい姿にうっとりとしていた。




 パメラ王女は、ショウ兄上は素敵だわ! と、許婚のシーガルの妹のファンナと囁き合う。アランナとシルビアも、少しでも早く後宮へ嫁ぐ為に勉強を頑張ろうと闘志を燃やした。








「ショウ兄上! 素晴らしい祝辞でした」




 入学式が終わったら、弟のマルシェが声をかけてきた。




「マルシェ、しっかりと勉強しなさい」




 自分の側近になりたいと言っていたマルシェが、焦らずに大学で学んでくれるのを喜ぶ。




「はい! 兄上のお役に立てるように頑張ります!」




 張り切るのは良いが、学生時代を楽しんで欲しいと願う。




「また、屋敷に訪ねて行くよ」




 ショウ王太子とマルシェが親しく話しているのを、良いなぁと羨望の目で見ていた学生達は、別れた途端に取り囲む。サリーム学長は「道を開けなさい!」と押し退ける。




「サリーム兄上、すみません」お手数をお掛けしますと苦笑するショウを、学長室に案内してお茶でもてなす。




「竜騎士の養成所の件だが、教養部門はレイテ大学のプレスクールで一緒に学ばしてはどうだろう? そこで、武術は王宮の武官に教えて貰えば良いと思うのだが……」




 ショウは忙しくて竜騎士の成所が後回しになっているのを気にしていたので、サリーム兄上の提案に喜ぶ。




「そうですね! 竜の飛行訓練は、リューデンハイムやウェスティンで訓練を受けた竜騎士が帰国してから正式に始めれば良いし。それまでは、竜に乗って飛んだり、一緒に游がせたりして、親しませたら良いと思う」




 ウォンビン島やイズマル島の子ども達には竜騎士の素質を持っている子が多い。養成所で学ばせたいと考えていたのだ。








 るんるんと鼻歌を歌いながら王宮に帰ったショウ王太子を、側近のピップスとバルディシュは微笑んで出迎える。




「レイテ大学の入学式で、何か良いことがありましたか?」




「まあね!」と上機嫌のショウだが、ミヤの部屋に呼ばれた。




「何だろう? パメラの入学式の様子でも知りたいのかな? あっ、シーガルの妹と一緒に屋敷に行かせたのを叱られるのかも?」




 首を捻りながらミヤの部屋に行くと、父上がクッションに寄り掛かってお茶を飲んでいた。




……何だか嫌な予感がする。……




「父上? ミヤに呼ばれたと思ったのですが……」




 怪訝な顔をするショウを座らせる。




「ショウ、レイテ大学の開校、おめでとうございます。サリームなら学長に相応しいですね」




 ミヤに祝辞も大層立派だったと聞いてますと褒められたが、部屋にいる父上が気になる。アスランは、ミヤがショウを労ったりする間、黙ってお茶を飲んでいた。




「父上? 何かご用ですか?」




 いちいち此方から指示しなくてはいけないのかと、アスランはうんざりする。




「サラム王国の後始末はどうなっているのだ?」




 ショウは、バッカス外務大臣とドーソン軍務大臣から、サラム王国の海賊は撲滅されたと聞いていた。そのくらい、父上も知っている筈だと、質問の意味がわからない。




「このヘッポコ! あのヘルツは喉元すぎれば熱さ忘れるだろう! また、海賊を引き入れてしまうぞ。それに、ピョートルは愚かすぎる」




 確かにその通りだと、ショウも頷く。




「サラム王国の貧しい農民をイズマル島で働かせたいと考えています。プランテーションで働いて、ある程度の資金を貯めさせたら、開拓農民にならせたら良いかと……あっ、ヘルツ国王とピョートル王太子の件ですね。バッカス外務大臣がグローブ大使に指示を出していますが……」




 そんな移民計画を聞きたいのではないと、父上の眉があがったので、慌てて答える。




「あのチビネズミは、少し遣り過ぎるかもしれない。東南諸島が裏で糸を引いたとバレては困るのだ。誰か、ストッパー役を一等書記官として送り込め。シーガルかアシェンドのどちらかを選べ」




 ミヤは自分の息子の名前があがったが、アスラン王の第一夫人としての立場を崩さないで、素知らぬ顔をする。ショウが王位に就いた時に支える文官を育てようとしているのだ。




「シーガルは法律の編纂作業の手伝いをしています。アシェンドは埋め立て埠頭の管理をしていると思いますが……」




 どちらも、二人でなくともできる仕事だけどと、ショウは悩む。陰謀が三度の食事より好きそうなハムスターを止めるには、若いシーガルでは荷が重そうに感じる。




「アシェンドが適任だと思います」




 アスランは、自分の学友を選ばず、適任のアシェンドの名前をあげたので、一応は合格だと頷く。




「シーガルにはミーシャとの結婚式の付添人を頼め。彼方の風習では花婿には付添人とやらが必要だそうだ。ケイロンにはフランツが大使として赴任している。面会する時にリリック大使を連れていったら彼方も警戒するだろうから、彼奴にフランツを紹介してやれ」




 ショウも帝国の結婚式の風習は知っていたので、ワンダー艦長に付添人をして貰おうかと考えていた。しかし、シーガルに優れた外交官のフランツ卿を紹介する良い機会だと頷く。




「帰りに、シーガルはユングフラウに置いてこい。エリカの結婚の手伝いをさせろ。ヌートン大使について、王家の結婚に付随するあれこれを学ばせるのだ。お前には王女がいるから、将来必要になるだろう」




「娘達を政略結婚させたくない!」ショウが抗議の声をあげるのを、クッションを投げつけて制する。




「まだそんな甘っちょろいことを言っているのか! ローラン王国にフランツを派遣して、イルバニア王国は三国同盟を締結するつもりなのだぞ。お前は東南諸島連合王国を孤立させるつもりか!」




 ミヤは、ショウは妙に頑固なところもあると、溜め息を押し殺して、お茶を差し出す。




「将来必要になった時の為にも、シーガルには王家の婚礼について学ばせておいても良いでしょう」




 アスランは、ミヤはショウに甘いと、お茶を飲み干してお代わりを要求する。




「あっ、そうだ! ミヤには頼みごとがあったのです。ミーシャとの結婚式にリリィを連れて行きたいんだ。ミーシャに後宮の暮らし方を説明したりして貰うのと、外国を見せてあげたいから。留守の間、妊娠中の妻達の世話をお願いできないかなぁ」




 アスランは、ガバッと座り直して、ミヤを口説き始める。




「ショウはぼんやりだが、一つだけ良いことを言うぞ。第一夫人も外国を見ないといけない。ミヤ、一緒に外国へ行こう!」




 パメラが嫁ぐまではと戸惑うミヤに、ショウもリリィが留守中は面倒を見ると口添えする。




「そうですねぇ。少し考えてみます」




 頑固な昔気質のミヤには、苦労をかけた恩返しするのも大変だとアスランは溜め息をつく。


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