第4話 テレーズ王女とエリカ王女のレイテ散策

「今日はレイテのバザールを案内すると聞いたわ! 私も連れて行って欲しいの」




 パメラは姉のエリカから予定を聞いて、ショウ兄上に直談判にやってきた。ミヤに言っても、駄目だ! と許可などしてくれないのがわかっているからだ。




「うう~ん? パメラはシーガルの許嫁だからねぇ。エリカの許婚のウィリアム様は身内になるから良いけど、アルフォンス様はちょっと問題だよ」




 父上の後宮にはパメラ一人ぼっちなので、姉上のエリカが帰って来たのは嬉しいが、自分だけイルバニア王国の人達と一緒に行動できないのが悔しい。それに、エリカは竜騎士としての修行をしているが、自分とスローンは王宮の中でしか飛べないのだ。




「じぁあ、シーガル様が一緒なら良いの? それと、竜騎士の修行もしたいわ! エリカ姉上はヴェスタと絆を結んだのよ。私もスローンと絆を結びたいの」




 ショウはレイテ大学の方は秋には開校できそうだが、竜騎士の養成学校は未だ準備ができていないのだと溜め息をつく。仕事が山積みなのに、何処かへ飛んで行ったままの父上に腹を立てる。




「エリカとミミに騎竜訓練をして貰うと良いよ。メリッサは今はちょっと無理だけど……いずれは、竜騎士の養成学校も作らなきゃ! あっ、レイテ大学には女子大学も併設するつもりなんだ! 父上の許しが出たら、パメラも通えるよ」




 パメラは、女子大学に通えるのは嬉しいと思うが、今はバザール見物に行きたいのだとごねる。




「ねぇ、シーガル様は王宮にいらっしゃるのでしょ? イルバニア王国の王族の接待も大切だと思うわ!」




 シーガルは文官として仕事中なのだと断ろうとしたが、接待も仕事だと押しきられる。それに、確かにイルバニア王国の王族の接待はショウだけでは大変なので、ピップスにも手伝って貰っているのだ。




「まぁ、シーガルに仕事の予定を聞いてみるよ。今は、何をしているのかな?」




 サリーム兄上と埋め立て埠頭の工事に関わっていたが、今は何をしているのかショウは知らなかった。




「酷いわ! シーガル様は兄上が法律をきちんと定めたいと言われたので、必死で法律家と話し合っておられるのに!」




 プンプン怒るパメラを宥めて、それなら一年や二年で済む仕事では無いので、1日や2日は接待を手伝って貰っても大丈夫だろうと呼び出す。




「えっ、パメラ様とバザール見物ですか?」




 イルバニア王国の王族の接待も兼ねていると言われたら、シーガルは断れない。久しぶりに法律書から解放されるのも良いかもしれないと快諾する。










「凄い活気ねぇ! あっ、可愛い更紗が売ってるわ」




 テレーズ王女は、色とりどりの更紗に夢中だ。エリカとパメラも一緒に更紗を選ぶ。




「ああなったら、動きそうにありませんね」




 テレーズ王女と双子のアルフォンス王子は、女の子の買い物は長くなると溜め息をつく。ショウはここは二手に別れて案内をした方が良いと考える。




「私とシーガルは女の子達を案内します。ピップス、ウィリアム様とアルフォンス様を予約してあるチャイ屋にお連れしてくれ。後で合流するから」




 ウィリアム王子とアルフォンス王子は、武術にも優れているので、ピップスと護衛がいれば大丈夫だ。テレーズ王女やエリカやパメラは、注意しなくてはいけないので、ショウ自ら案内する。




「シーガル様! どちらが似合いますか?」




 パメラは、バザール見学で、浮き浮きと許婚のシーガルと楽しそうにしている。ショウは、テレーズ王女とエリカが同じ更紗を取り合ってるのを仲裁したりと忙しい。




「エリカ、お前はいつでも更紗は買えるだろ。それに、他にも可愛い更紗はあるじゃないか」




 護衛を引き連れたお客が、ショウ王太子の連れだと気づいた周りの店主達は自分の店の更紗も買ってくれと騒ぎ出す。あまりの騒々しさにショウは、店ごと買ってしまいたくなるが、女の子達は全く動じもしないで選ぶ。




「エリカ、香料屋にも行きたいと言ってただろ?」




 このままだと更紗屋の前で足に根が生えそうだと、別の店に移らせる。ショウは子どもの頃に女官のお使いに通った店へと案内する。こちらはバザールでもキチンとした店を構えた高級店だ。人混みから解放されて、シーガルとお茶の接待を受けながらホッとする。




「エキゾチックな香りがいっぱいね! 母上や姉上達にもお土産を買わなくちゃ!」




 ここでも女の子達は買い物に熱中しているが、ショウ達は既にグロッキー気味だ。一通り香料を買って、チャイ屋に向かう。




「高級な更紗も買いたいわ!」




 イルバニア王国の王族をバザールのチャイ屋ではもてなせないので、少し高級なチャイ屋を貸し切っていた。そこまで歩いている途中には、高級な更紗店も並んでいる。女の子達はウィンドウを見ながら、騒ぎ出す。




「チャイを飲んでからにしようよ」




 ショウは許嫁達の買い物に何度か付き合ったことがあるので、扱いには慣れている。




「そうね! 少しのどもかわいたわ!」




「チャイ屋なんて初めてよ!」




「チャイって、どんなお茶なの?」




……女の子三人よると姦しい!……




 シーガルは既に王宮で法律書に埋もれたい気分になっている。ショウは羊飼いになった気分で、メィメィ騒ぐ女の子達をチャイ屋に案内する。




「やぁ、ショウ様! 大変そうですね」




 ウィリアム王子は護衛達が山ほど荷物を持たされているのを見て笑う。整った顔のウィリアムの笑顔に、エリカはポッと頬を染める。二人がいちゃいちゃとチャイを飲むのを見て、ショウは仲が良さそうだとホッとする。




「シーガル様、スパイスが入っているミルクティーなのね」




 パメラも許婚のシーガルと仲よくお茶タイムだ。ショウはピップスと共に、テレーズ王女とアルフォンス王子にチャイを勧める。




「アルフォンス様はバザールで何を買われたのですか?」




 女の子ほどは荷物は無いが、護衛が背の丈より長い紙包みを持っている。




「東南諸島の絨毯を買ったのだ! それと、半月刀も買いたいな」




 半月刀! と聞いて、エリカといちゃいちゃしていたウィリアム王子も目を輝かす。




「私も半月刀を買いたい。それと、半月刀の使い方も教えて欲しい」




 美貌の王子なのにウィリアムは竜と武術に目が無い。エリカは半月刀の訓練でデートが邪魔されるのかと溜め息をついた。




「それにしても、ミミは来なかったのね」




 エリカは、ミミならバザール見学も楽しむだろうにと首を傾げる。




「カジム伯父上が側からお離しにならないんだ。ずっとリューデンハイムに留学していたからね」




 花嫁になる娘との最後の時間を過ごしているカジム伯父上の心情は理解できたが、エリカはショウ兄上と一緒にいたいだろうと同情した。婚約期間に、監視の目を逃れていちゃつくほど楽しいことはないと、ウィリアム様にチャイをもう1杯注ぐエリカだった。


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