第3話 ロジーナの出産!

「あそこが王宮よ!」




 エリカとテレーズ王女は、付き添い役のミミと一緒に、ショウの旗艦であるブレイブス号でメーリングからレイテの航海を終えた。許婚のウィリアム王子とアルフォンス王子は、別のイルバニア王国の軍艦に乗っている。何故なら、未婚の男女と言うだけでなく、それぞれが騎竜を連れているので、ブレイブス号に竜を5頭も乗せられないからだ。




 ワンダー艦長は、無事に高貴な姫君達をレイテに送り届けてホッとしている。甲板でエリカ王女がテレーズ王女に丘の上の王宮の説明をしているのを、ミミは微笑みながら見ていると、サンズがショウと舞い降りた。




「ようこそ、東南諸島連合王国へ! テレーズ様は船旅でお疲れになりませんでしたか?」




 テレーズ達は、ショウ王太子の旗艦なので、他の艦とは違い個室を用意して貰ったから楽に過ごせたとお礼を言う。




「一旦は、イルバニア王国の大使館で休憩をとられる方が良いでしょう。ミミはカジム伯父上が待っておられるし、エリカはミヤが待っているよ」




 王子達にも挨拶に向かい、それぞれが騎竜に乗って大使館や王宮や屋敷に向かう。ショウは、許嫁のミミと共にカジム伯父上の屋敷に向かった。




「おお! ミミ! 顔を見せておくれ」




 末っ子のミミを抱き締めているカジム伯父上に、挨拶をすませると、ショウは急いで王宮へと戻る。ロジーナが産気づいたのだ。




 昨日は、サンズとシリンの交尾飛行で妊娠したピップスの妻ユンナが無事に元気な男の子を出産したと、朝一番に王宮に出仕してきた途端、嬉しそうに報告した。




「祖父の名前を貰ってジャニムと名づけました」




 ゴルチェ大陸のゴルザ村の村長だった祖父の名前を自分の息子につけたと、誇らしそうに言うピップスをショウは祝福する。




「ユンナに養生するようにと伝えてくれ」




 ショウの第一夫人のリリィが、既にユンナに信頼できる子守りなどを手配してくれたのを、ピップスは改めてお礼を言った。そんな話をしているうちに、ロジーナが産気づいたのだ。








「未だ産まれないのか?」




 テレーズ王女達を出迎えに行ったり、ミミをカジム伯父上の屋敷に送って行ったショウは、急いで後宮へ帰ったが、リリィに落ち着いて下さいと笑われる。




「赤ちゃんは満ち潮に産まれると言いますよ。夕方には生まれるでしょう」




 レティシィア、ララの出産の時も、ショウは何も出来ない自分が腹立たしくて、うろうろと歩き回ったが、今回も無事に産まれるか心配で仕事も手につかない。




「それより、イルバニア王国の方々を接待しなくてはいけませんよ」




 リリィは、ロジーナの世話は任せて下さいと、部屋の前からショウを追い払う。うろうろされても邪魔なだけだ。




「今は大使館で休憩を取っておられるよ。ねぇ、ロジーナは大丈夫なの? 昨夜から苦しんでいるのに……」




 初産なら普通だと、リリィは騒ぐショウを宥めるのに苦労する。




「ショウ! こんな所にいても、貴方は何もできませんよ。赤ちゃんの名前でも考えなさい!」




 ミヤは、ショウがリリィの手を煩わせているのを止め、名前を考えてないのを見抜いて叱る。




「名前と言われても……周りの雑音が気になって考えられないよ!」




 何故か、今回は女の子の名前が思い浮かばない。王子誕生を待ちわびている王宮の雰囲気のせいかもしれないと、ショウは八つ当たりする。




「まぁ! それは……」




 ミヤも迂闊な事は口に出来ないが、悪阻のキツかったロジーナが、男の子を懐妊しているのではと期待していた。それに、ショウは魔力が強い。アイーシャとレイラの時は、女の子の名前しか思い浮かばなかったのだ。




 こほん! と、咳払いして、兎も角ロジーナの部屋の前から追い払う。ロジーナもショウがうろうろしていたら、落ち着いて出産できないだろう。出産には苦痛が伴うが、ショウには叫び声など聴かせられないと、口にクッションを押し当てているのだ。




「この世界では、立ち合い出産とかは無いのかな?」




 シッシッと追い払われたショウは、男の子の名前を考えるのは、凄く王子誕生を期待しているような気がして避けていたが、ここまで来たらそうも言ってられない。部屋で思いつく名前を書いてみる。




「愛紗、麗羅は綺麗な漢字を当て字にしたんだよなぁ。男の子は意味を持たせたい。優人、ユウトと読んでもいいし、ユージーンはマウリッツ外務大臣の名前だよね。でも優秀だし、良いのかも? 竜の文字も良いな! リュウ一文字でも良いし……海も良いかもね! 海翔! カイトと読めるし、私の翔の文字も入る!」




 そんな事を考えていると、リリィが顔を輝かせて部屋に来た。




「ショウ様! おめでとうございます! 王子様の誕生ですよ!」




 王太子の第一夫人として、王子誕生を待ち望んでいたリリィはホッとしたのだ。










 ショウはロジーナの部屋に急ぐ。




「ロジーナ、よく頑張ったね」




 ロジーナは王子を産んだ誇りに耀いていた。




「ショウ様、名前は考えて下さったの?」




 ショウは赤ちゃんを腕に抱く。アイーシャやレイラより、ずっしりと重く感じる。




「カイトと名づけたいな。海と風という意味なんだよ」




 ロジーナは、カイトと口にして、良い名前だと微笑む。




 ショウも無事に赤ちゃんが産まれたのは嬉しいが、王子誕生を重く受け止める。父上が自分達に厳しく接したのが理解できた。アイーシャやレイラとは違う感情がわき上がる。




「リリィ、カイトの教育を任せたよ」




 リリィは、手渡された腕の中の小さな赤ん坊を見つめる。この子を立派に育てなくてはいけないのだ。




「ショウ様、お任せ下さい」




 ロジーナは、王子は5歳になったら自分から引き離されて養育されるのだと覚悟を決める。ずっと手元に置ける王女を産んだレティシィアやララが羨ましいと少し思ったが、王子出産を誇らしくも感じる。




「さぁ、ロジーナ様を休ませてあげなくては……」




 ショウは、心配しているだろうラズロ伯父上に、無事に赤ちゃんが産まれたと報せに行った。


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