第2話 妊婦だらけ!

 ショウの後宮にはお腹がかなりぱんぱんになってきたロジーナ、そして第二子を妊娠中のレティシィア、ララ、その上どうやら新婚旅行で懐妊したようなメリッサとおめでた続きだ。




 リリィは妊娠中の夫人の世話、イルバニア王国からの客人をもてなす用意や、ミミとの結婚へ向けて部屋を用意したり、ローラン王国のミーシャ姫との結婚の準備に目が回りそうだ。




「リリィ、ミミとの結婚式にユングフラウに連れていく予定だったけど、ウィリアム王子やテレーズ王女やアルフォンス王子がレイテに遊びに来られるし、エリカとミミも帰国するんだ。カジム伯父上は、伝統を重んじる方だから自分でミミを後宮へ嫁がせたいと仰っている」




 外国を見せてあげられなくてごめんねと謝るショウに、リリィは妊娠中の夫人達を置いてはでかけられないと笑う。




「イルバニア王国の王子や王女の接待で、ショウ様も忙しいですね。それが終わったら、ミミ様をユングフラウに送って行かれるのですか?」




 ショウは、ふぅと溜め息をつく。ミミとエリカを送って行ったら、秋にはローラン王国でミーシャとの結婚式があるのだ。




「ミーシャは、この後宮に馴染めるだろうか?」




 リリィもそれを心配している。ミミとロジーナの確執は、ミヤ様に聞いていたので、二人を和解させるつもりだ。後は、イズマル島のエスメラルダが無事に赤ちゃんを産むことだが、治療師の母親がついているので、安心して任せることにしている。やはり、旧帝国三国の庶子とはいえ姫が後宮に馴染めるかが一番の気がかりだ。




「確かミーシャ姫は大人しい方なのですよね。他の夫人は……まぁ、大人しいとは言えませんから、私も気をつけてお世話しますが、ショウ様もお心をかけて下さい」




 ショウも自分の妻達は、一番大人しいララですら、王家の女なので情報をつかむのが早いし、何らかのアクションを起こしてくると溜め息をつく。




「ねぇ、ロジーナが無事に赤ちゃんを産んだら、リリィもローラン王国まで行かないか? 結婚式の前にミーシャに会わせておきたいし、アドバイスをして欲しいんだ」




 リリィは他の夫人も妊娠中なのにと迷う。レティシアやララは二度目だが、メリッサは初めてだ。




「でも……」と迷っているリリィを、ショウは口説き落とす。




「リリィ、そんなことを言っていたら、ずっと外国には行けないよ。それに、留守中はミヤにも世話を頼むつもりだし」




 アスラン王の後宮にはパメラ王女しかいないし、近頃は真面目に勉強しているので、ミヤも心配していない。兄上達の母親は、孫を見るのを楽しみに暮らしているし、若い夫人は極少数だ。リリィは落ちついた後宮を思い浮かべ、そこにたどり着くまで、どれほどミヤ様が苦労されたかを考える。




「でも、やっとミヤ様が落ちついた暮らしをされているのに……」




 ショウは、自分から頼んでみると言い切った。










「無理強いはなさらないで下さいね」とリリィは心配したが、ミヤはあっさりと引き受けた。




「リリィが留守の間は夫人達の面倒ぐらいは見ますわ。それに、ショウの第一夫人として外国を訪れるのは良い経験になるでしょう」




 そこまでは、ミヤは機嫌良く話していたが、留守をしたままのアスラン王に腹を立てる。




「それにしても、エリカの婚約者のウィリアム王子がレイテに来られるのに、アスラン様は何処にいらっしゃるのかしら? ちゃんと親として挨拶をして頂きたいのに……」




 ショウは未だウィリアム王子と顔も合わせてないのかと呆れ返る。




「まさか、父上はエリカの結婚式にも出席されないのでは? 帝国三国の結婚式では、花嫁を父親がエスコートしてバージンロードを歩くのですよ」




 ミヤはアスランがそんな殊勝な真似をするわけがないと諦めの境地だ。




「姉上達が結婚する時は……父上が付き添ったりしなかったのですね! 本当に酷い!」




 竜姫と恐れられている姉上達に少し同情したショウだったが、国内ならいざ知らず、イルバニア王国に嫁ぐエリカの立場を考えて欲しいと腹を立てる。




「ショウ、私もアスラン様に頼んでみますが、あの方は……エリカの世話をお願いしておきますね」




 当てにならないアスランより、真面目なショウに頼むことにする。ショウは、何度か帝国三国の結婚式に出たので、父上を引っ張り出さないとエリカが可哀想だと難しい顔をした。




「私は、父上を説得してみます。勿論、無理な時は私がエスコートしますが、最後まで諦めませんよ。エリカをイルバニア王国に嫁がせると決めたのは、父上なのですからね!」




 ミヤは無理だとは思ったが、エリカの立場を強くするには、アスラン王が出席した方が良いので、ショウに任せることにした。後は、ウィリアム王子やアルフォンス王子、そしてテレーズ王女の接待について話し合う。




「テレーズ王女とは自由に会わせても良いですが、ウィリアム王子やアルフォンス王子とはショウが付き添って下さいね」




 本来なら王女は後宮の奥深く大事に育てられるものなのだ。しかし、エリカはリューデンハイムへ留学しているし、男の子と席を並べて勉強している。




「あのう、パメラも一緒に……」




 ミヤに睨まれて口を閉ざす。パメラの許婚はシーガルなのだ。それに、アルフォンス王子には許嫁がいない。




「テレーズ王女とは会わせても良いですが、アルフォンス王子とは会わせない方が良いと思いますよ。パメラが竜姫になったら困ります!」




 パメラの反抗期に苦労したミヤに従うことにする。それに、友人であるシーガルとの婚約を破棄させたくない。




「それにしても、ショウの後宮は妊婦だらけですね。ミミが嫁いでくるまで、寂しいのでは? ファンナの後宮入りを急がせましょうか?」




 ミヤのいれてくれた香り高いお茶を飲んでいたショウは、プッと吹き出す。




「いや、それは! ミーシャが後宮に落ち着くまでは、駄目です。それに少し考えていることがあるので……」




 油断大敵! この件に関しては、ミヤとリリィは共同戦線を張って、ぼんやりしていたらぐぃぐぃ押し込まれてしまうのだ。ショウは慌ててミヤの部屋から出ていく。




「どうか、王子が産まれますように……」




 ミヤは、妊娠中のどの夫人でも良いから、王子を産んで欲しいと祈る。より良い後継者を選ばないといけないから、王太子には沢山の王子が必要なのだ。

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