第15話 ショウ様!

 ショウは体調が良くなったのはサンズに感謝したが、スチュワート皇太子に立会人になって貰ったお礼を言いに王宮へ行ったのは少し後悔した。




……こうなるのが嫌だから、メリッサを連れて来たのに……




 ロザリモンド妃にもメリッサが帰国の挨拶をすると言うのに付き添っていたのに、マゼラン外務大臣に呼びに来られてトホホな気持ちになる。呼びに来たのが下っ端の外交官なら、ロザリモンド妃の所で可愛いヘンリー王子と遊んでいられたが、外務大臣が自ら来られては無視できない。




……こんな展開になるなら、パシャム大使を連れて来たら良かったかな? いや、彼はこの件では味方じゃないから……




 顔は普通にしているが、足どりが重い。ショウ王太子が嫌がっているのは、マゼラン外務大臣にもわかっている。しかし、王命には従うしかないのだ。パシャム大使にも縁談を持ちかけたが、あまり良い感触は得なかったとエドアルド国王に報告したら、直に話してみると言い出した。










「ショウ王太子、怪我はもう良さそうですな」




 豪華だけど小さなサロンへ通された時から、ショウは逃げ出したくなる。親密に話し合おうとする気が満々だ。




「スチュワート様にも立会人になって頂き、感謝しております」




 ここまでは、礼儀正しくお互いの腹を探る。横で聞いているマゼラン外務大臣は、古狐なので素知らぬ顔で侍従が運んで来たお茶を啜っているが、ごり押しは止めて下さいと止めたくて苛々している。




「スチュワートには、母親違いの妹がいるのだが……知っての通りジェーンは、認めてはいない。だから、シェリーにはカザリア王国は住みにくい所なのだ」




 やっぱり! 嫌な予感は的中したと、ショウは逃げ出したくなる。しかし、エドアルド国王に無礼な真似はできない。




「あのう、シェリー姫はおいくつなのでしょう?」




 マゼラン外務大臣は、まさか貰ってくれるのか? と驚いて、お茶を噎せてしまった。




「ごほん! 失礼致しました!」




 エドアルド国王は、マゼラン外務大臣を無視してショウに熱心に売り込む。




「シェリーは16歳になったのだ! 金髪に青い瞳で、とても可愛い娘だ」




 ショウはそんなに可愛い娘なら、ジェーン王妃とスチュワート皇太子を口説き落として、社交界デビューをさせ、持参金をたっぷり付けて貴族に嫁がせるべきだと思う。




「ローラン王国のナルシス王子は独身ですよ。彼はカザリア王国で育ちましたから、きっとエドアルド国王には恩を感じているでしょう」




 エドアルド国王もナルシス王子に嫁がす事は既に考えて、大使から伝えてあった。




「アレクセイ皇太子、ナルシス王子、お二人とも幼少の頃から我が国で成長したので、ローラン王国には知り合いの貴族がいない。アレクセイ皇太子はイルバニア王国のアリエナ王女を娶られた。だから、ナルシス王子は、ローラン王国の貴族の娘を嫁に貰うそうだ」




 自国の庶子がローラン王国に断られたという恥を、プライドの高いエドアルド国王が話しているのに、マゼラン外務大臣は驚いてしまう。




「そうか、ナルシス王子なら良いと思ったのですがねぇ。彼は明るくて優しいから! でも、イルバニア王国にはレオポルド王子やアルフォンス王子もいますよ。ユーリ王妃なら、庶子だからと意地悪はされないでしょう」




 ユーリ王妃! エドアルド国王にとっては忘れ難い初恋の人だ。確かに、優しいユーリ王妃なら受け入れてくれるだろうと想像する。




「ああ、だけどグレゴリウス国王は、きっと反対する」




 イルバニア王国はロザリモンド王女を嫁がせているのだ。カザリア王国が庶子を第三王子になんて申込んだら、無礼な! と怒らせてしまうだろうと、マゼラン外務大臣も首を横に振る。




「どちらにせよ、ジェーン王妃にシェリー姫を認めて貰わないと話になりませんよ。ロザリモンド妃の側近にできれば、イルバニア王国の王子にでも、国内の貴族にでも嫁がせることも可能になります」




 東南諸島に嫁がせるにしても、日陰のままでは断られるのはあきらかなのだ。ショウ王太子にきっぱりと言われて、エドアルド国王はジェーン王妃と話し合うことにする。




 どうやら、話は終わったな! とホッとしたが、エドアルド国王は、よりショウ王太子にシェリーを娶って欲しいと願うようになった。










 スチュワート皇太子は、父上のサロンからショウ王太子が這々の体でロザリモンド妃の部屋へと戻って来たのを見て、失礼な話だが笑ってしまった。




「酷いですよ~」と膨れるショウ王太子に、スチュワート皇太子は謝る。




「悪い! 私や母上が頑なにシェリーを無視したトバッチリがそちらに飛んだみたいだ。それで、上手く逃げて来られたのかな?」




 ロザリモンド妃は、夫が禁句のシェリーを口にしたので驚く。




「スチュワート様?」愛しい妻が、シェリー姫の件で心を痛めているのを承知していたが、無視することを強要していたのを謝る。




「ごめんね、ロザリモンドが私のことを考えてくれて忠告してくれたのに、口に出す事も禁じてしまっていた。妹はヘンリエッタだけではないのだ。母上には辛いだろうが、シェリーを認めてやらないと、父上はお困りなんだよ」




 ショウは、スチュワート様がシェリー姫を認めるなら、外国に嫁がせなくても良いだろうと、肩の荷が降りた気持ちになった。ロザリモンド妃の側近となれば、シェリー姫の道も開ける。










「ショウ様! もてもて過ぎですわ!」




 スチュワート皇太子とロザリモンド妃がラブラブモードになったので、邪魔しては悪いと王宮を辞す。その馬車の中で、メリッサにシェリー姫を娶るのですか? と詰め寄られる。察しの良いメリッサは、マゼラン外務大臣が呼びに着た時から、縁談だとわかっていたのだ。 




「まさか! それに、これからメリッサと新婚旅行に行くんだからね!」




 レイテに帰国する途中で、1週間ほど寄り道をする計画をメリッサの耳元で囁く。パシャム大使にバレたら大変だと、二人でくすくすと笑った。

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