第22話 キャベツは売り切れ?

 サンズの子竜フルールとルカの子竜ピピンが日向で羽根をパタパタしているのを寄り添って眺めながら、ショウとエスメラルダは幸福感に満たされていた。




『ピピン! こうするんだよ』




 お兄さんぶってフルールが羽根の動かし方を教えているのを、サンズとルカは無理をさせないように監督している。




「何時までも可愛い雛竜を見ていたいけど、そうもしていられないね」




 大使館の裏庭には立派なキャベツができ、レイテからも何人かの子供を欲しがっている夫婦がユングフラウを訪れていた。




「そのキャベツの件ですが……今回は私は……」




 ショウも大使館のキャベツを取って来てスープを作ったりするのは少し恥ずかしく感じるが、二度の交尾飛行で妊娠しなかったので、てっきりキャベツ畑の呪いで子供を作るのだと思っていた。




「まさか、キャベツは売り切れたの?」




 イルバニア王国に半分譲渡した上に、カミラ夫人が親しくしている貴婦人からも強引な申込みがあったと聞いていたショウは、エスメラルダが一番に貰っても良いはずだと腹を立てる。




「いえ、国が違えばキャベツ畑の呪いは有効だとキャサリン様が仰ったのを試してみたいのです。今回のはあまりレイテの方にはまわらないから……」




 ショウは、エスメラルダがレイテでキャベツ畑の呪いをするつもりだと驚き焦った。




「私はショウ様の妻ですわ。それに、他の方がいらしているのは承知で結婚したのです」




 それは知ってはいるだろうが、何も新婚旅行でわざわざライバル達が住む場所に行かなくてもと、ショウは理解不能だと首を横に振る。




「私はレイテを見てみたいのです。そして、ショウ様と一緒に住む場所も……東南諸島の結婚制度は父から聞いていますが、理解できているようで、わからないところもあります。


 特に、第一夫人という制度が、わかるようでわからないの」




 ショウは、自分も子どもの頃に、第一夫人の制度が理解できなかったと笑う。




「エスメが覚悟を決めたのなら、レイテに行くのも良いかもしれないね。私の第一夫人のリリィにも会わせたいし」




 他の妻達には出来たら会わせたく無いけど、何時かは会わなくてはいけないのだとショウも覚悟を決める。




「レイテなら島伝いに航海できるから、チビ竜達にも楽かもしれないね」




 羽根が伸びるまでは航海には連れていけないのは勿論だが、雛竜は一日に何回も餌を食べるので、島伝いの航海の方が新鮮な餌を手に入れやすいとショウは逃げ出す算段をする。




「まぁ、そんなにラバーン男爵夫人のパーティに行きたく無いのですか?」




「いやぁ、それだけじゃ無いけど……まぁ、それもあるかな」




 そろそろミミの見習い竜騎士の試験も終るので、ダブルブッキングは避けたいなと思ったショウだが、レイテには三人の妻が待ち構えているのだと身震いする。




「ショウ様……そんなに奥様方が恐ろしいのですか?」




 くすくす笑うエスメラルダを、ショウはキツく抱きしめキスで生意気な口を塞いだ。




「私は、第一夫人のタイプなのかも……結婚しても、巫女姫としてメッシーナ村の発展を見守りたいと思っているの。でも、ショウ様から離れたくも無いし、離婚もしたくないのです」




 ショウは、だからレイテに行って、東南諸島の結婚制度や第一夫人について知りたいのだと納得する。




「エスメはイズマル島の遣り方を貫いても良いんだよ。だって、そちらは一夫一婦制だものね。ただ、子どもの件は……」




「わかってますわ。ショウ様は子どもは一緒に育てたいと考えておられるのでしょ。私も子育てはショウ様と一緒にしたいと思いますもの。東南諸島の第一夫人の制度では、ある程度子どもが大きくなってから、離婚して第一夫人になるのが一般的なのですか?」




 ショウは、レティシィア、メリッサに続いて、エスメラルダまで第一夫人を目指すのかと驚く。




「エスメは第一夫人になりたいの?」




 エスメラルダは首を傾げて考える。




「よくわからないの。誰かの第一夫人になりたいのではなく、メッシーナ村の発展を手伝いたいの。それに、本当にショウ様と離婚はしたくないのよ」




 ショウは、自分もエスメラルダと別れたくないと抱き締める。




「私は妻が働いても気にならないし、エスメが子どもが大きくなったらメッシーナ村の発展を手伝いたいと思うなら、好きにしても良いと思うよ。でも、その為には勉強も必要だね」




 エスメラルダは、自分の悩みにショウが気づいたのに驚く。




「ユングフラウに来てから、イズマル島は未開の地だとつくづく身に染みたの。これから発展していくけど、旧帝国の悪い慣習は持ち込ませたくないわ。働きもしない貴族が贅沢三昧しているなんて、ゾッとするわ! でも、王族の方々はちゃんとしておられるし、優しくして頂いたから混乱しているの」




 ショウは村の長も選挙で決めるメッシーナ村から来たエスメラルダには、腐った貴族は堪えられないだろうと苦笑する。




「イルバニア王国の弱点は馬鹿な貴族どもさ。イズマル島に旧帝国三国の植民地を作らせたりはしない。


 東南諸島連合王国には働きもしないで贅沢三昧の奴はいないけど、商売熱心過ぎて困った問題も多い。いずれ、イズマル島にも禿鷹のような商人が押し掛けて行く。エスメがメッシーナ村を護りたいなら、彼奴らの上をいかなきゃ駄目だよ。私の第一夫人のリリィは若いけど凄腕だよ!」




 第一夫人はそんな禿鷹どもの上をいっていると聞いて、エスメラルダは武者震いする。




「是非、リリィ様に会いたいわ!」




 ショウは、ラシンドの第一夫人ハーミヤやカリン兄上の第一夫人ラビータにも会わせてやりたいと思ったが、ミヤには絶対会わせてやらなくてはと考えた。


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