第23話 サンズ島でのんびり
サンズ島で温泉に浸かり、暫し航海の疲れをショウは癒した。
海が見えるように設計されているデッキで、気持ちの良い風を受けながら、サンズ島の実質的な管理を任されているナッシュと防衛を強化する件を話し合う。
「私はメルト伯父上の代理に過ぎないからなぁ……だが、軍部とも相談して心掛けておく」
ショウはメルトにサンズ島の管理を任せてはいたが、この発達は代理のナッシュのお蔭だと笑う。
「本当はナッシュ兄上にはイズマル島のジェープレス基地かケーレブ基地の開発を任せたいのですが……サンズ島とウォンビン島の防衛ラインの強化は大切ですからお願いします」
イズマル島の西玄関ジェープレス基地、東玄関のケーレブ基地の周辺には、少しずつ植民した農家や商店が増えてきていた。
「ラジックはモリソンで上手くやってるみたいだな」
ナッシュはカリンとも親しいので、軍部とも繋がりがあるが、本当は東南諸島の男らしく、商売の方が興味がある。
「サンズ島の開発は順調ですから、後は軍部でも運営できるでしょう。本来は開発が進んでいる西海岸のジェープレス基地の監督をナッシュ兄にはして頂きたいのですが……」
ナッシュは敢えて未開の東海岸のケーレブ基地の監督を頼むショウに理由を尋ねた。
「サラム王国がイズマル島を狙うのでは無いかと心配しているのです」
ナッシュもサラム王国が海賊を援護しているのには腹を立てていたが、イズマル島までは無理では無いかと笑う。
「サンズ島で補給しなければ、サラム王国をねぐらとしている海賊もイズマル島には到達できないだろう! ここが東南諸島の領土だと知ってるのに、海賊船で襲撃などする馬鹿はいないさ」
サラム王国のヘルツ国王にそんな根性は無いと笑い飛ばしたナッシュだが、ハッと何かショウが心配する要因があるのだと察した。
「東南諸島に恨みを持つ人物が、サラム王国のみならず、マルタ公国や、スーラ王国で暗躍しているのです。ザイクロフト卿と名乗るヘルツ国王の庶子だそうですが、どうやら東南諸島の血を引いているみたいで……」
察しの良いナッシュは、バルバロッサの遺児か、そう教えられて育ったザイクロフトが東南諸島を恨んでいるのだと溜め息をつく。
「サンズ島の防衛は任せてくれ! まぁ、実際はメルト伯父上が張り切って防衛拠点にしそうだがな」
ショウは軍事に関しては、ナッシュよりメルトの方が専門家だと頷く。
「ウォンビン島とジェープレス基地の防衛ラインはパトリックとカリン兄上に任せるつもりです。パトリックとはエスメラルダの結婚式で会うので、事情を説明しておきます」
パトリックの名前を出した途端、おさかんな竜達の交尾計画を思い出し、少し頬を染めたショウに、ナッシュは怪訝な顔をする。
『ねぇ、海水浴しようよ』
難しい話が終わるまで待っていたサンズが、ショウに一緒に泳ぎたいとおねだりする。
『ああ、そうだね!』
ゴルチェ大陸では倒れて心配を掛けたので、ショウはサンズの言うことをきくと約束したんだと、ナッシュに弁解しながら席を立った。
「お前は子どもの頃から海水浴が好きだったな」
折角、お風呂に入ったのにと、ナッシュは呆れたが、ショウはサンズと海水浴をしに海岸へ向かった。
サンズの背中につかまって、ぷかぷか海に浮かび、沖からサンズ島を眺める。
『メルトはいなかったね』
メルトはイズマル島との防衛ラインのパトロールが忙がしいのだろうとショウは肩を竦める。
『でも、これからはパトロールも重要だけど、サンズ島の防備を固めなくてはいけないんだ』
綺麗な白い砂浜と緑の島には、宿泊施設が整備され、イズマル島への航路の補給島として発展している。
「この平和なサンズ島を襲撃させない為には、砲台を整備すれば効果的なのは明らかなのだけど、火薬をこの世界に持ち込みたくは無い! 戦争の死傷者の数が増えるのが目に見えている」
折角の海水浴なのに、難しいことを考え出したショウを背中から振り落とす。
『ショウ! 人をいっぱい殺す物なんか開発しなくていい! きっと後悔して、落ち込むよ! サンズ島は、竜騎士に護って貰えば良いんだ!』
海の塩っ辛い水を飲んだショウは、サンズが自分の心を読んだのだと苦笑する。
『確かに竜騎士がいれば、サンズ島に近づく海賊船を空から攻撃できるけど……イズマル島の測量やパトロールにも竜騎士が必要なんだ。数が少ないから、考えて配置しなくちゃいけないんだ』
サンズは数が少ないと言うショウに、大きく頷く。
『そうだよね~! 竜の数を増やさなきゃいけないよ!』
メールとヴェルヌが大きくなったので、次の子竜が欲しいとサンズはショウを説得しだした。
『エスメラルダのルカに私が子竜を与えて、パトリックの騎竜ペリーに子竜を貰おうかなぁ』
子竜の夢を見ながら、砂浜で昼寝をするサンズを眺めながら、軍艦の増産と同時に竜も増やさなきゃいけないと溜め息をつく。
「騎竜の交尾が竜騎士に影響を与えなければ、何度でも平気なんだけどなぁ……」
気恥ずかしい交尾の後の雰囲気を思い出したが、東南諸島には竜が必要だし、サンズに子竜をもっと持たせてやりたいとショウは決心する。
ピィ~! と真白が、人間の考える事は理解できないと揶揄するように、海の上に浮かんでるサンズとショウの上をクルリと回り綺麗な真水で水浴びをしにいった。
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