第13話 ショウとレティシィアの帰国

 レティシィアは、ユングフラウの滞在中の間、ユーリ王妃やリリアナ皇太子妃と何回も会う機会を持ち、有意義な時間を持った。


「お土産も沢山買ったし、後は帰国の挨拶ぐらいね……」


 ショウは、レティシィアが初めての外国を楽しんだのは確かだが、気持ちはレイテに残したアイーシャの元へ飛んでいるのに気づいた。


「アイーシャなら、リリィやララがちゃんと面倒をみているよ」


 本当なら今夜はオペラ観賞でもと計画していたが、挨拶を済ませ次第にメーリングから出航することにする。国王夫妻だけでなく、フィリップ皇太子やリリアナ皇太子妃と別れの挨拶をしていると、離宮からユナが走ってきた。


『マキシウスが、レティシィアに会いたがっている』


 レティシィアに伝えたいが、声が聞こえないのでショウの前に座ってマキシウスにも会いに来てくれと頼む。


『こら! ユナ、子供にまでいちいち挨拶などする必要は無いのだよ』


 フィリップは失礼しましたと、ショウに詫びる。朝から帰国されるのが辛いと愚図っているマキシウスに手をやいていたリリアナは、ユナの無礼な言葉に困惑した。


「申し訳ありません、一人っ子のせいで甘やかしてしまったみたいですわ」


 子沢山のユーリ王妃に比べて、マキシウスしか授かっていないリリアナは少し神経質な母親になっていた。


「マキシウス王子に、挨拶するぐらい大丈夫ですよ。レティシィアを気に入って下さったのでしょう」


 レティシィアも幼い王子が自分に会いたいと愚図っているのを見かねて、子守の狼が王宮まで走ってきたのだと苦笑する。


「私で良ければ、マキシウス王子様に挨拶しますわ」


 子供の我が儘に突き合わせてしまうのを、グレゴリウスとフィリップは気の毒だと謝ったが、ショウが気にしないで下さいと笑うので、女官にマキシウスを連れてこさせる。 


「レティシィア様、帰らないで」


 女官の手を振り切って、レティシィアに抱きつくマキシウスに、全員が笑ってしまう。レティシィアはマキシウスを抱き上げて、優しい声で諭した。


「私もマキシウス王子様とお別れするのは寂しいですわ。でも、レイテには私の帰りを待つ娘がいますもの……きっと、いつ帰って来るのかと女官達を質問責めにして困らせていることでしょう」


 マキシウスは、良い香りのするレティシィアから頬にキスされて、そっと母上に返された。


「なら、その娘さんも一緒にユングフラウに連れて来たら、もっと長くいられるのにね」


 無邪気なマキシウスの言葉に、ショウは長旅なので無理ですよとキッパリ拒否する。


 グレゴリウス国王は良い縁組みだと考えていたが、ショウは、どうやらユーリと同じく政略結婚に消極的なのだと気づいた。フィリップも、リリアナからレティシィアの娘のアイーシャが子竜と遊んでいると聞いていたので、理想的な縁組みだと微笑む。


「もう! 貴方達は、幼い子供の縁組みを考えているの? まだ早くてよ」 


 政略結婚が嫌いなユーリに水をさされて、この件は今回は保留になったが、いずれは避けて通れない話だろうとショウは考える。

 


 馬車の中で考え込んでいるショウに、レティシィアは先の話ですよと慰める。


「アイーシャもレイナも、好きな相手と結婚させたい。こんな考えは王太子としては間違っているのかも知れないけど、娘達を政略の犠牲にしたくないんだ」


 レティシィアは東南諸島では娘の嫁ぎ先は父親が決めるのが慣例なので、ショウの考え方に驚いたが、悪いことでは無いと思う。


 自分は、ショウと結婚できて幸せだけど、親が決めた相手と上手くいくとは限らない。アイーシャは王女として政略結婚の手駒にされるかもしれないけど、ショウならきっと本人の気持ちも考えてくれるだろうと、レティシィアは安心する。


 レティシィアはアイーシャが何処に嫁ぐことになっても、恥をかかないように厳しく教育しなくてはいけないと前から考えていたが、こうしてイルバニア王国の王家の人々と直接会って、それだけでなく自分の考えを持たさなければと実感した。



 二人を乗せたブレイブス号は、ショウの風の魔力もあり、順調にレイテに帰港した。


「子供達へのお土産は、持って帰らなきゃいけないだろうね」


 サンズに大きな荷物をくくりつけて、ショウとレティシィアは離宮に舞い降りた。


「お母様~」サンズを見つけたアイーシャが駆け寄る。


 ショウがレティシィアをサンズから抱き下ろすやいなや、アイーシャはガバッと抱きついた。


「アイーシャ、お留守番偉かったですね。ただいま帰りましたよ」


 今日だけは甘やかしてやろうと、レティシィアは抱き上げてキスをする。その間に、ショウはサンズからお土産の箱を下ろしていた。


「お父様、お帰りなさい」


 レイラを抱き上げて、やっと肩にかかるほど伸びた真っ直ぐな黒髪を撫でてやる。


「レイラは、アイーシャと遊んでくれたのかい?」


 レティシィアに抱っこされていたアイーシャも、父上がサンズから下ろした箱が気になって駆け寄る。


「レティシィア、娘達にお土産を配っておくれ。私は帰国の報告を、父上にしなくてはいけないからね」


 リリィも駆けつけたので、後は任せて王宮へと向かう。


「さぁさぁ、レティシィア様はお疲れでしょう。湯浴みでもなさって下さいね。その間に、アイーシャとレイナはお昼を食べましょう」


 お土産が早く見たいと騒ぐ王女達も、父上の第一夫人に逆らっても無駄だと諦めて、女官達に昼食を食べさせて貰う。


 レティシィアは旅の汚れをサッと湯浴みで洗い流しながら、お土産を見たら興奮して、昼食どころではなくなるので、リリィが先に食べさせたのだと考えた。


「それと、ララ様やロジーナ様にもお土産を渡すのに、私に身仕度をさせる時間を配慮して下さったのね。第一夫人って、まだまだ学ぶことが多そうだわ」


 王太子の後宮にしては夫人が少ないが、春にはエスメラルダと結婚、夏にはミミと結婚するし、ロジーナも出産予定だ。リリィはそれだけでなく、フラナガン相談役などから孫娘や、娘をショウ王太子の夫人にと推されていた。


「ショウ様は外国に滞在する夫人が多くなるので、断るのが難しいわ。ミヤ様もショウ様はこの点は頑固で困ると言われていたけど、一度話し合わなくては……」


 ミヤもアスランに有力者に娘を夫人にと頼まれて困ったのだが、留守にしている間に後宮に増やすという荒技まで駆使して遣り繰りしたのだ。でも、気儘で傲慢なアスラン王より、一見優しそうショウの方が夫人に関しては、これ以上は絶対に増やしたくない! と厳しく拒否しているので難しい。リリィは美しく整えられた眉を顰めて悩むのだった。

 

 後宮でアイーシャ達がレティシィアから貰ったお土産に歓声をあげている頃、ショウは父上と海賊の補給基地を提供しているマルタ公国とサラム王国について話し合っていた。

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