第十ニ章 新たな問題

第1話 新たな問題

「グレゴリウスに、かなり押し込まれたな」


 ユングフラウ訪問の報告を父上にしていたショウは、小言を貰って謝った。


「ええ、グレゴリウス国王に海軍での研修と、イルバニア王国寄りの海域ををパトロールするのを押し込まれてしまいました」


 アスランはショウが素直に謝るので、どうせエリカあたりがウィリアムがパトロールで疲れているとか泣きついたのだろうと肩を竦める。


「それより、マルタ公国、サラム王国が連携して海賊を擁護しているような感触が気になります」


 まだスーラ王国のジェナス王子が後ろにいるとまでは確証が掴めていないが、庶子のミーシャとシェリーを娶ってやっても良いとローラン王国とカザリア王国に提案して拒否されてからは、二国の大使館には行かなくなった。


 そして、マルタ公国、サラム王国の大使館へ頻繁に出入りしているとの報告があがっている。


「アルジェ女王の王子とは思えない馬鹿者だなぁ。ミーシャは兎も角、ジェーン王妃が認めていないシェリーぐらいは嫁に貰うのではと思ったが、エドアルドはプライドが高い。庶子を貰ってやると言わんばかりの態度で怒らせたのだろう」


 庶子の件はさておき、アルジエ海の海賊や、カザリア王国北西部の海賊の動きが活発になっているのは目に余る。


「今はイズマル島の東部は開発されていないが、小麦やゴムの樹脂などをカザリア王国に運搬するにはサラム王国の海賊が目障りだ。お前は春にはエスメラルダと結婚だが、その前に許嫁のゼリア王女と会いに行って来い。あっ、ついでに隣国のサバナ王国にも寄った方が良いな。したたかな豹王がアルジェ女王の馬鹿王子をそそのかしているかもしれないからな」

 

 ショウも海賊を擁護している両国の後ろにジェナス王子の影を見ていたが、それよりねぐらを提供しているのをどうにかするべきだと思っている。


「サバナ王国とスーラ王国を訪問するのは良いのですが、マルタ公国とサラム王国は……」


 ギロリと睨まれて、気の短い父上が怒ってない筈が無いのだと首を竦める。


「グレゴリウスとの交渉で押し込まれたお前に、偉そうに指図される覚えは無い! お前はスーラ王国とサバナ王国を訪問したら良いのだ!」


 ガツンと叱られて、ショウはバッカス外務大臣の部屋に最新の両国からの報告を聞きに行った。バッカス外務大臣は帰国早々にアスラン王に叱られて、次の命令を受けたショウに同情した。


「まぁまぁ、お茶でもどうぞ」


 香りの良いお茶を勧められて、ふぅ~と人心地つく。


「スーラ王国とサバナ王国を訪問するようにと父上から言われたのだけど、何か新しい動きは無いかな?」


 帰国したばかりなのにと、バッカス外務大臣さえも気の毒に感じる。 


「まぁ、スーラ王国のレーベン大使と、サバナ王国のメルヴィル大使から、色々と報告は届いてます」


 バサッと書類を机の上に出されて、ショウはウッと唸る。


「帰国されたばかりで、お疲れでしょう。ゆっくりされてからでも、宜しいですよ」


 ショウはそれなら妊娠中のロジーナや、留守番させたララと過ごせるかなと、一瞬喜びかけたが、にこやかなバッカス外務大臣を疑わしそうに眺める。


「まさか、サバナ王国の……」


 一夫多妻制のサバナ王国のアンガス王には、多くの王女がいるのを思い出した。


「ショウ王太子様、疑い深い性格になられましたね。グレイブス号も水や食糧の補給をしなくてはいけませんし、今夜ぐらいはゆっくりして頂こうと……」


 絶対に怪しい! と、ショウは報告書を読み出す。

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