第24話 竜の血統

 ショウは、サンズと王宮の竜舎へ向かった。


「サンズにとっては、お見合いみたいなものかなぁ? それより、お見合い前の写真を見る時点かな? そう言えば、写真があると便利だよね。カメラぐらいなら作れるかな? そんなに戦争に使ったりしないから、良いかも」


 ショウは火薬や石油の無い世界に、前世の知識を導入するのを自分に規制を掛けていた。戦争で大量虐殺を起こしそうな発明品を、この世界に持ち込みたくなかったのだ。


「ショウ王太子、此方ですよ~」


 王宮の竜舎の前で、ウィリアムが大きく手を振っている。男にしておくのは惜しい程の美貌なのに、何時もはムスッとした顔をしているが、今日は大好きな竜について説明できると張り切っている。


「ウィリアム王子、おはようございます。お待たせしたのでは無いでしょうか?」


 ウィリアムは王子なんて、良いですよと、顔に似合わず気さくに話しかける。


「では、ウィリアム様、私もショウと呼んで下さい」


 お互いにエリカを通して、兄弟になるのだと笑いあう。


『サンズは、十四歳なのですよね。とても若いのに、バランス良く成長してます。メリルとルースの子竜は、優れてますね。やはり、新しい血統と混ぜた方が竜の為にも良いと思います。ショウ様はどうお考えですか?』


 サンズは褒められて、少し照れくさいようだが、ウィリアムのことが好きになった。


『サンズ、イルバニア王国は竜がいっぱいいるんだ。その国のウィリアム様に褒められて、良かったね。東南諸島は竜が少ないので、積極的に交流して増やしていきたいです』


 ウィリアムは、竜馬鹿の同志を見つけた! と喜んだ。


 折角、絆の竜騎士を見つけて騎竜になっても、ほとんどの竜が一頭しか子竜を持たない。交尾飛行の時に絆の竜騎士も欲情してしまうから、嫌がったり、性的に成熟している期間しか交尾飛行ができないからだ。


『サンズはルースの血統以外とは、どの竜とも交尾飛行できますね。私のエリスは、キャシィディ竜騎士隊長のパリスの血統なのです。まだ、成熟期ではありませんが、いずれはサンズの子竜を授けて欲しいですね』


 サンズもエリスはまだ交尾飛行の準備はできていないが、優れた騎竜だと満足そうに見る。イルバニア王国の王宮の竜舎には、選り取り見取りの騎竜がいた。


「ウィリアム様、この中で避けた方が良い血統はありますか?」


 サンズが惚れ込む前に、駄目な竜は教えておきたい。


「ここの騎竜で駄目な血統はいませんよ。あっ、でも女性の絆の竜騎士の騎竜は基本的には、結婚相手と交尾飛行させるみたいです。ほら、男同士なら、ちょっと気まずいだけですけど……まぁ、拙いでしょ」


 いずれエリカがヴェスタと絆を結んだら、結婚相手のウィリアムのエリスと交尾飛行させるのかなと、ショウは狼狽えて頬を染める竜馬鹿王子を微笑ましく思う。


 ショウは、ミミの騎竜ラルフとはサンズがと思い少し気恥ずかしくて、頬を染めた。


 二人の竜騎士が、自分の相手との妄想で口ごもっている間に、サンズは竜舎から顔を乗り出した騎竜達から熱烈なアピールを受けていた。


『子竜を持ちたいんだ』


 サンズの言葉で、自分も子竜を持ちたい騎竜達は、少し残念に思ったが、それでも魅力的なのは間違いない。


『あっ! 大変なことに!』


 ちょっと油断した間に、騎竜達がサンズを取り囲んでいた。ウィリアムは騎竜にも、サンズが優れているのがわかるんだと頷く。


『この子は、アンドリュー卿のアリーナ』


 恋の都ユングフラウで、プレイボーイの名前を欲しいままにしている華やかなアンドリューの騎竜に相応しい、美しいアリーナだ。


『サンズは若いから、これから何頭も子竜を持てるよ。私は、もう若くないから……』


 しかし、アリーナは年下のサンズが子竜を持つ前に自分が持ちたいと、逆誘惑してきた。


『アリーナ、今はサンズが子竜を持ちたがっているんだよ』


 サンズも悪い気はしないが、誘惑されている場合ではないと、アリーナから目をそらす。


「竜は、基本的には年上から子竜を持つからね。でも、東南諸島には騎竜が少ないから、そんなこと言ってられないよ。アスラン王は何歳でスローンを産ませたの? 竜騎士が現役で無くなると、騎竜は交尾飛行できなくなるから、なるべく多く産ませたいね」


 ショウは父上の閨房話は無視する事にして、サンズの事だけに集中する。


 イズマル島や、ウォンビン島には、竜騎士の素質のある子供が増える筈だ。今のままでは、竜不足になってしまう。サンズには二頭は産ませてやりたい。


 シリンやラルフやルカと、サンズは交尾飛行する約束をしているし、ウィリアムのエリスも名乗り出ている。


「子竜を産む間隔は、どれぐらい開けた方が良いのですか? 子竜がいても、交尾飛行はできるのですか?」


 アリーナは一度は撃退されたが、他の騎竜とサンズが話し合っている側で考え込んでいる。その間に、ショウは竜の繁殖計画をウィリアムと話し合う。


「子竜を産んだら、半年は子育てしたがるからね。でも、交尾飛行は一年もしなくてもできるかも……父上のアラミスは子竜を産んだ後に、母上のイリスと交尾飛行したもの」


 ウィリアムも、自分の両親の閨房話には頬を染めて、気まずそうにした。ショウは二年ずつ年が離れて産まれているイルバニア王国の王子や王女達が、ユーリ王妃の緑の魔力で作ったキャベツ畑の呪いの成果だと察していた。


 アリエナだけ年子なのは、もしかしてイリスとアラミスが交尾飛行したからか? そういえばアリエナが懐妊した時に、アレクセイの騎竜ベルが子竜を産んだんだと思い付く。


 竜騎士や魔力持ちは子供ができにくいとパシャム大使から警告されたが、レティシィアがすんなりと妊娠したので忘れていた。


 そういえばララとは、半年以上経ってもまだ子どもができていない。


 探索航海や、ローラン王国を訪問したり、ロジーナと新婚旅行で、留守がちだからだと、ショウは不安を振り切るように首を横に振った。


 子竜を持ちたがっている騎竜は、サンズの意志が固いのを知って諦めると、根藁の上に戻って眠りだした。しかし、アリーナや数頭は残って、今回協力したら、次回は子竜を授けてくれるかと、交渉している。


『残っている騎竜は……あれっ? 兄上のレオナが、何故ここに? 何時もは皇太子の離宮にいるんだけど……』


 ショウはフィリップのレオナとは気まずくなりそうなのでと、止めようとした。


「レオナは、マキシウス曾祖父の騎竜ラモスの子竜なのです。とても優れた騎竜ですよ……それに、リリアナ妃の為にも選んで欲しいな」


 そういえば、フィリップ夫妻に子供ができていない。リリアナにはプレッシャーが掛かっているのだろうと、ショウは気の毒に思う。


「でも、ユーリ王妃のキャベツ畑を作って貰えば……」


 ウィリアムは、少し目を伏せて、首を横に振った。


 騎竜が絆の竜騎士が現役で無くなったら繁殖力が無くなるように、子作りの呪いも影響を受けるのだろうと察する。


『レオナ! こんな所にいたのか?』


 離宮の竜舎にいないレオナを探して、フィリップがやってきた。


『フィリップ、サンズは交尾飛行したがっている。リリアナは、子供を欲しがっている。私がサンズと交尾飛行すれば、リリアナにも赤ちゃんが授かるかもしれない』


 フィリップは、リリアナがキャベツ畑の呪いでも子供が授からなかった時から、プレッシャーに負けかけているのを感じていた。まだ若いし、結婚して一年も経ってないと説得すると微笑んで頷くが、結婚ラッシュで同じ時期に嫁いだ友達が次々と妊娠していくのを辛そうに見ている。


 フィリップは、王宮に用事も無いのに蔓延る貴族達や、貴婦人達の視線が、リリアナの華奢なウェストに向けられると、追い払いたくなるのだ。


 ショウもララが早く赤ちゃんを欲しがっているのに気づいていた。


「ええい! 男同士の気恥ずかしさなんか、どうでも良いさ!」


 サンズもレオナが気に入ったみたいで、竜の求愛行動の首を絡ませて、熱い視線で見つめあっている。


 フィリップと二人で、キャサリンの結婚式が終わった次の日にと約束する。


 ウィリアムは、これでリリアナが懐妊したら、自分達にも応用できるなと笑った。


 アリーナは、少し残念そうにサンズとレオナを眺めたが、まだ若いからチャンスはありそうだとほくそ笑む。

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