第23話 キャサリン王女の結婚前パーティ

 ショウがロジーナとの新婚旅行から帰ってきて、一番喜びを現したのは……鷹匠かもしれない。ララやレティシィアも喜んだし、アスラン王もフラナガン宰相から解放されると喜んだ。


 しかし、鷹匠は純粋に喜びを身体で現した。


「ショウ王太子様~! よくぞ……」


 真白だけでなく、マルゴとメルローを連れて帰ってくれたショウに、泣きながら抱きついて感謝した。


 ショウは、お爺さんに抱きつかれても、嬉しくないと困惑する。


「まぁ、酷いわ~! 私は我慢しているのに!」


 バッカス外務大臣が、鷹匠を引き離してくれた。


「あっ! バッカス外務大臣、マリオンの卵は孵ったの?」


 くっすんと泣き真似をして、私のことよりマリオンの子竜が気になるのねと拗ねる。


「当たり前だ! 気持ち悪い真似をしてると、サラム王国の大使に左遷するぞ! ショウ、雛達はどうなったのだ?」


 ショウは、父上に雛達は白雪が育ててますが、巣立ちしたら自分で住む所を選択できると報告する。


「私をニューパロマに行かせて下さい! クレセント~、白花~、お祖父ちゃんが迎えに行くからなぁ~」


 すぐにでもニューパロマに行きそうな鷹匠を、アスランは諌める。


「おい、真白やマルゴやメルローに見合いをさせるのだろ? 寒いカザリア王国から帰ったから、発情期になるかも知れないぞ。どうせ雛達は春までは巣籠もりだ」


 鷹匠はそうだった! と、いそいそと立派な若鷹を鷹舎から両肩と腕に乗せてくる。


 ショウは鷹のことは鷹匠に任せて、竜舎へと急いだ。王宮の竜舎では、マリオンがチビ竜の世話をするスローンやサンズを楽しそうに眺めている。


『ほら、羽根をばたばたさせるんだ!』


 お兄さんぶって指導するスローンだが、サンズに羽根の運動は竜舎の外でさせた方が良いと忠告される。


『やぁ、マリオン! とても可愛い竜だね』


 マリオンは満足そうに、ルディと言うんだと告げる。


『今度はサンズの番だね~』と、無邪気なスローンの言葉に、ショウは少し困惑する。


 勿論、サンズに子竜を持たせて遣りたいが、東南諸島には騎竜が少ない。


「バッカスの騎竜マリオンは拙い。メリルはスローンの親だし、他の騎竜はラルフだけだけど、ラルフはまだ成熟してないよなぁ……」


 ラルフの絆の竜騎士であるミミを思い出して、結婚までは拙いだろうと考える。


『イルバニア王国で、交尾相手を見つけるよ』


 スローンの言葉に、ショウは誰の騎竜と交尾飛行するのだろうと驚いた。


『ちょっと、スローン!』


 慌てて止めようとするショウを、アスランは東南諸島の竜は少ないからなぁと笑って眺める。 


「丁度、キャサリン王女の結婚式で、ユングフラウに行くのだ。彼方では騎竜が多いから、選り取り見取りだぞ」


 気楽なコメントをする父上に、溜め息しかでないショウだった。


 ミミとキャサリン王女の結婚式に出席する為に、イルバニア王国へ出航したショウは、サンズがどの騎竜を相手に選ぶのかと不安に思っていた。


「若手の絆の竜騎士かぁ。誰がいるのかな? 既婚者? そんなの関係無いのかな? マリオンと交尾飛行したリースのベンジャミン卿は独身だった。皇太子の騎竜とかは避けて欲しいなぁ、その後で外交交渉がしにくくなると困る……」


 サンズは絆の竜騎士であるショウの戸惑いを感じ、一応はお伺いをたててから相手の竜を選ぶことにしようと考えた。


『ショウ、子竜を持つ時は、相談するからね』


 サンズに寄りかかっていたショウは、気をつかわせて御免ねと謝った。


『良いよ、まだ選んでないから』


 サンズはもてもてで、ピップスのシリンや、ルルブのレダにも絆を結んだらと、アローチを掛けられている。ウィリアムも自分が結婚したら、サンズと騎竜を交尾飛行させたいと言っていたなと、ショウはその度に欲情しちゃうのかなと考えただけで困惑する。


 メーリングまでの航路は、ブレイブス号にはお茶の子さいさいで、無事にユングフラウの大使館に着いた。



「ショウ様、間に合って良かったわ!」


 大使館の階段を駆け降りたミミは、ドスンとショウの胸に飛び込んだ。


「結婚式は、五日も先だろ?」


 航海には何が起こるかわからないので、余裕を持って出航したショウは、ミミが慌てて手を引っ張るのに困惑する。


「ショウ王太子、ようこそユングフラウへ。ミミ姫、ちゃんと説明して差し上げないと、ショウ王太子がお困りですよ」


 大使館のサロンでお茶を飲みながら、ミミから結婚前の独身お別れパーティーがリューデンハイムであるのと誘われた。


「エリカ様は、勿論ウィリアム王子と出席されるの。私は一人だからパスしようと思ってたけど、キャサリン様がどうしてもと仰るから困っていたのよ。リューデンハイムの慣れない寮の生活で、色々とキャサリン様にお世話になったから、断るのも悪いし」


 説明を聞くと、リューデンハイムの寮で若い見習い竜騎士や、竜騎士達の気楽なパーティーのようなので、ショウはそれなら参加しても良いと、ザッとお風呂に浸かって着替えた。


 リューデンハイムの竜舎で、サンズは選り取り見取りの騎竜達を眺めて、どの竜にしようかと身体のバランスなどをチェックしながら、パーティーが終わるまで楽しむ。


 キャサリン王女と婚約者のラリックは、幸せそうに笑いながら、寮の食堂での手作りのダンスパーティーを楽しんでいた。竜騎士の黒の制服と、見習い竜騎士の紺の制服を見て、エリカとミミは自分達の灰色の制服が子供っぽいと嘆く。


「やはり、ドレスにすれば良かったわ」


 文句を言っているエリカを、ウィリアム王子はリューデンハイムのお別れ会だから、制服の方が相応しいと褒める。


 リューデンハイムにはテレーズ王女が入学したが、女の子は四人だけだ。見習い竜騎士や竜騎士は令嬢方を招待していたが、着飾ったドレス姿より、制服姿の方が魅力的に竜騎士達には見える。


 彼等は程度の差はあれウィリアムと同類の竜馬鹿で、自分の子供にも竜騎士になって欲しいと願っている。どれほど美しいドレス姿の令嬢より、制服姿のキャサリンやエリカやミミやテレーズの方が魅力的なのだ。


 半年エリカより下なだけなのにと、テレーズが寮の部屋にぶつぶつ言いながら上がるのを、レオポルドは両親から頼まれていたので見送る。


 竜馬鹿のウィリアムは、エリカやミミが他の見習い竜騎士と踊っている間に、ショウに話し掛けてきた。


「サンズは、交尾飛行の準備ができているみたいですね。血統から相手を選ぶのですか?」


 血統も何も、東南諸島では親子じゃなければ良いぐらいしか選ぶ基準はない。


「ウィリアム王子は、交尾飛行について詳しいのですか? 私はさっぱりなのです、教えて頂けますか?」


 ウィリアムは竜の血統についてなら一日中でも話せるのだ。目を輝かして、張り切って説明をしようとした時、エリカがダンスを終えて側に来た。


「ウィリアム様、折角のパーティーなのに、私を他の相手とばかり踊らせて……私はウィリアム様と踊れると、楽しみにしていたのに……」


 綺麗な顔を泣きそうに眉を下げているエリカに、慌ててウィリアムは竜の血統の話などしている場合ではないと手を取る。


「まさか、私もエリカと踊りたいよ! ショウ王太子、明日、王宮の竜舎に来て下さい」


 まだ正式に社交界デビューできない年齢のエリカに強請られて、ウィリアムはお別れパーティーのダンスの輪の中に帰った。


 ウィリアムとは明日ゆっくりと話し合う約束をしたので、ショウはその時にサンズに相応しい相手を調べようと考える。


 エリカの尻に結婚前から敷かれているウィリアムに同情したが、二人で仲良くダンスしている姿は幸せそうで、ショウは竜馬鹿にはあれくらいはっきりと要求した方がわかりやすいのかもと笑った。 


「ショウ様、私もダンスをしたいわ」


 ミミにも頼みたいことがあるショウは、ご機嫌を取っておこうとダンスの輪に入る。パートナーを次々と変えて踊るリースは、先日カザリア王国でスチュワートやエドアルド国王に教えて貰っていた。若い皇太子が結婚して社交界が若返ると、こうした賑やかなリースやパドトワレが流行るのだ。


 どんちゃん騒ぎのリースの輪から笑いながら庭へ消えて行くカップルを、ショウとミミは見習うことにした。兄として見張ってなくても、真面目で竜馬鹿のウィリアムがエリカに不埒な真似をしないと、信頼している。


 ただし、ショウの目的は、庭でキスをする事ではない。エリカがいない所で、ミミの本音をききたかったのだ。ラルフの側なら、ミミは嘘をつかないだろうと、竜舎に向かった。


「ショウ様……会いたかったわ」


 ミミは恋愛の都ユングフラウで、キャサリンから恋愛ゲームの話を聞いていた。元々、東南諸島の王家の女は肉食系なのに、恋愛至上主義者が多いユングフラウで生活しているミミは、十四歳で結婚しても良いじゃないと、ショウに熱烈なアプローチを掛ける。


「ミミ、ちょっと真面目な話をしたいんだ」


 ミミは真面目な話を自分とするだなんて、大人として認められたのだと喜ぶ。


「リューデンハイムでの竜騎士修行は順調かい?」


 チッと舌打ちしたい気持ちになったが、可愛らしく首を傾げて、まぁまぁと答える。


「十五歳になる前には、見習い竜騎士の試験に合格するつもりよ。できれば来年の冬の試験で見習い竜騎士になって、ショウ様のお嫁さんになりたいの」


 やっぱりエリカはテレーズ王女と二人になってしまうなぁと、ショウは溜め息をつく。エリカも頑張っているが、まだ十二歳なので見習い竜騎士の試験には無理がある。


「ショウ様はエリカ様のことを心配しているのね……テレーズ王女がリューデンハイムに入学されたけど、あまり仲が良いとはいえないから。エリカ様が外泊が許される見習い竜騎士になるまで、私に側にいて欲しいのね! でも、3年も待てないわ!」


 ショウにとっては再来年が一年伸びるだけに思えるのだが、十三歳のミミには永遠の日延べに感じる。ミミが十六歳でリューデンハイムを去る時、エリカは十四歳になり、社交界にデビューもできるし、ウィリアム王子との婚約も公式になる。


 エリカとテレーズ王女がお互いによく知り合って、仲良くなるまで、クッション役になって欲しいと、ミミに頼みたかったのだ。ミミはショウ様の成人式の時に、レティシィアからこの話を聞いていた。


「リューデンハイムに、エリカ様をテレーズ様と二人っきりにしたくないのね……」


 自分の要望を受け入れてくれたのかと、ショウは喜んだ。


「見習い竜騎士でも、リューデンハイムの寮には住めるのよね。キャサリン様も見習い竜騎士なのに、寮で暮らしていたわ。それに、見習い竜騎士は外泊も自由なの……」


 話が何処に向かっているのか、ショウは察した。


「結婚の延期は嫌よ! でも、ショウ様の妹のエリカ様を、我が儘なテレーズ王女と二人っきりにするのは可哀想だわ……」


 ショウはミミの聞き分けが良すぎるのを不審に感じたが、エリカを孤立させずに済みそうだとホッとする。ミミにご褒美を頂戴と強請られて、軽いキスで済ませようとしたが、結構甘い展開になった。 

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