第3話 15歳の父……

 レティシィアに子供を産むことを納得させ、これからのことを話し明かして離宮に帰る。


『ショウ! おめでとう!』


 純粋に喜んでくれるサンズの祝福の言葉は嬉しいが、離宮で待っているララにどう接したらいいのか悩む。


 ミヤに相談できたら良いのにとは思うが、立太子式をすませて離宮に独立したのに、いつまでも父上の第一夫人のミヤに頼るのは間違っていると首を横に振る。


 侍従達は帰国そうそう外泊したショウに、会議の為の服を用意して待っていた。宴会の途中で抜け出したので、略礼服を着替えて、ヘインズ村長代理とルルブの様子を見に行く。


 レイテの街を案内したり、ルルブの世話を任せる側仕えを同行して、二人に紹介する。


「私の用事をさせている側仕えの三人を、紹介しておきます。ラズリー、ケリガン、トマッシュです。ルルブの世話はトマッシュが責任を持ってしてくれるからね」


 ルルブは紹介されたトマッシュに、ぺこりと頭を下げた。ショウが二人の世話をしているだろうと、バッカス外務大臣が顔を見せる。


「レイテの街の見学に行きましょう」


 ヘインズ村長代理と話し合う前に、東南諸島連合王国とはどのような国家なのか教えておくようにと、フラナガン宰相から命じられたのだ。


 ショウとバッカス外務大臣に案内されて、レイテの街を見学する。ヘインズは街の活気と繁栄振りに、心底驚いた。


「お疲れでしょう、私の屋敷で少しお茶でも如何ですか?」


 ショウは一瞬バッカス外務大臣の屋敷に、父上の裸像が飾ってあるのでは? と躊躇ったが、客を招くのだから大丈夫なのだろうと信じることにする。


 ヘインズもルルブも、王宮の華麗さに目が疲れていたので、バッカス外務大臣のシンプルな屋敷にホッとした。


「前任地から帰国した途端に、探索航海に出たもので、何も無くて……」


 バッカス外務大臣はそう言ったが、趣味の良い高級な絨毯と、低いソファー、落ち着いた色のクッションが、置いてあり、十分生活はできそうだ。


 ただ、お茶を運んできた召使い達が、やたらと綺麗な男だったのに、ショウは苦笑する。風の通る部屋で中庭の噴水の音や、植物の良い香りを楽しみながら、ゆったりと寛いだ。



 昼からはルルブは、トマッシュに前にピップスがいた部屋に案内して貰ったり、公用語の簡単な話し方や、書き方を習う。


 そして、ヘインズ村長代理はアスラン王とメッシーナ村の自治区の範囲や、移民の受け入れについて話し合う会議に出席する。


「ヘインズ村長代理、東南諸島連合王国の印象はどうかな?」


 相変わらずの威圧感だと、ヘインズは背中にダラリと汗が流れるのを感じる。


「とても発展していると驚きました」


 通り一遍の返事に、ふんと頷き、ユングフラウやニューパロマも見学した方が良いぞと笑う。


「そうだ! そなたも竜騎士なのだから、さっさと決めてユングフラウへ行こう!」


 フラナガン宰相はにっこり笑って、駄目ですと厳しく言い切る。


「自治区の範囲は、これで良いだろう。メッシーナ村の開拓した土地と、その周辺は自治区として認める。ただし、税金は納めて貰うからな」


 ざっくりとした話しだが、元々のメッシーナ村の要求は全て認めてくれている。


「細かい免税期間などは、フラナガン宰相と話し合ってくれ」


 そう言って出て行こうとするアスラン王の長衣を、フラナガン宰相は笑いながら掴んで離さない。ヘインズ村長代理は、このアスラン王が、よくこの東南諸島連合王国を纏めていってるなと不思議に感じた。

 

「アスラン王、私もユングフラウやニューパロマを見てみたくなりました。少し出発を待って下さい」


 このアスラン王と旧帝国から分裂した三国を見てみたい! とヘインズ村長代理は細かい話が詰めるまで、出発を待って欲しいと頼む。


「父上! 自分達は竜で勝手に飛び歩くつもりなんですね」


 ショウの抗議など完全に無視して、フラナガン宰相にヘインズ村長代理が案内して欲しいと言ってるからなぁと笑いかけて、持っている長衣を離せ! と命じる。


 フラナガン宰相はこの王は! と怒りがこみ上げて、にっこりと笑って用事を言いつける。


「どうせ止めても行かれるのでしょうから、ユングフラウでエリカ王女とウィリアム王子に会って婚約のお祝いを言って下さい。それと、エドアルド国王陛下にターシュがまだレイテに滞在しているのをお詫びして下さいね。毎週のように手紙で尋ねてこられるので困ってます」


 ヘインズ村長代理の前で話しても支障の無い用事だけでも、アスランはうんざりしてきた。自分一人でメリルと飛び立ちたくなったが、ショウの舅になるヘインズにも興味がある。


 アスランは、あの広大なイズマル島の未来が掛かってるかもしれないと、ヘインズの能力と人柄を見極めたいと考える。


 今は小さな自治区の代表に過ぎないが、元々、東南諸島連合王国は海洋国家で農地の管理など得意ではない。移民の受け入れや、その管理をヘインズの能力次第で任せても良いと考える。


 長年の経験で何を考えてるのか推察したフラナガン宰相は、アスラン王が気紛れなのか、読みが深いのか、どちらなのか相変わらず理解できないと溜め息を押し殺す。


 ショウは、ヘインズが父上の傲慢さに堪えられるのだろうかと溜め息をついた。


 ヘインズ村長代理とフラナガン宰相とバッカス外務大臣の話し合いにショウは一応立ち合うが、逃げ出した父上を恨みに思う。


 遣り手のフラナガン宰相にも一歩も退かず交渉をするヘインズ村長代理に、ショウは驚く。確かにイズマル島に比べたら、メッシーナ村の自治区なんて些細な問題だけど、ぐぃぐぃと自分の村の利益を押してくる。


 隔絶された村で暮らしていたが、どうやら只の田舎者ではないと、フラナガン宰相はにっこりと笑う。


 ショウは、その笑顔を見て、うんざりする。フラナガン宰相が笑うと、話がややこしくなりそうだ。


 ショウは熟練のフラナガン宰相やバッカス外務大臣とヘインズ村長代理との話し合いに同席していたが、新米の王太子など口を出す必要もない。


 アスラン王が退屈な話し合いから逃げ出したから、座っているに過ぎないので、ついレティシィアのことを考えてしまう。


 ショウさ、そういえば父親になるんだ! と改めて驚く。


 えええっ! 15歳で父親?!


 昨夜はレティシィアの身の振り方を話し合い、今朝はララに伝えるべきかと悩んでいたショウは、今頃、父親になるんだと実感が湧いてきた。


 バッカス外務大臣は、心ここにあらずのショウに気づいて、やれやれと苦笑する。ショウには後宮を管理してくれる第一夫人が必要だと溜め息をつく。


 崇拝するアスラン王は飛んで行ってしまうので、残った可愛いショウには頑張って貰わなきゃいけないと、バッカス外務大臣は微笑む。

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