第4話 会議どころじゃ無いよ~

 アスラン王とヘインズ村長代理が竜で旅立ってしまい、ショウはフラナガン宰相とお留守番だ。


「ええ~、私の留守中に、父上はこんなに仕事を溜めていたのですか!」


 にこやかなフラナガン宰相を振り切って、ショウは逃げ出したくなったが、入り口にはベスメル内務大臣と、バッカス外務大臣も書類の山を持って執務室に来ている。


 それだけでもウンザリなのに、ドーソン軍務大臣まで書類を持って現れて、父上を恨むショウだった。


 特にドーソン軍務大臣からは、探索航海に参加した三艦の艦長以下、士官、士官候補生、下士官、乗組員達への昇格や、報奨金についての書類が提出されたので、ショウは早急に決断したいと考える。


 ベスメル内務大臣は、レイテの埋め立て埠頭の報告をしたが、本当はイズマル島の開発とかも話し合わなくてはいけないのだ。


 問題を山積みで逃げ出したアスラン王には、全員が文句を言いたいが、王太子に任せるということなのだろうと愚痴を飲み込む。


 フラナガン宰相などは、文句を言うのにも飽きたと、三人の大臣に汲々しているショウを眺めながら、お茶を啜っている。


 フラナガン宰相は、これが王太子の初仕事になると三人の大臣に押し込まれているのを眺める。


 探索航海も強運を発揮し、埋め立て埠頭、サンズ島の開発、チェンナイ開発、ゾルダス造船所と、王太子になる前から仕事をやり始めているが、きちんとやり遂げないと意味がない。フラナガンは、一歩引いた所から仕事振りを観察する。


 自分はアスラン王の宰相であり、若い王太子を育てるのは、三人の大臣に任せておけば良いと思ったのだ。


「イズマル島の開発については、先ずは測量を最優先にしたい。ドーソン軍務大臣、ベスメル内務大臣、バッカス外務大臣の三人で話し合ってくれ。ドーソン軍務大臣、探索航海に参加した者達の昇格と報奨金は、そなたが提出した通りで良い。速やかに実行するように」


 フラナガン宰相は、おや? と三人の大臣で先ず話し合えと追い返したショウのやり方に、やはりアスラン王の王子だと苦笑する。


「水と油の三人が、どのような結論をショウ王太子に持って来るか、楽しみですねぇ。それにしても、あの三人で話し合って、血が流れなければ良いのですが……」


 ショウは、ベスメル内務大臣以外は剣の達人だったと、少しララの祖父を心配したが、バッカス外務大臣が自分より弱い相手に剣を抜いたりしないだろうし、ドーソン軍務大臣も文官に暴力は振るわないだろうと、言い捨てて離宮に帰る。


 フラナガン宰相は父親になるとの情報を手に入れていたので、少し逞しくなられたかなとショウの背中を見送り、そろそろ孫娘の縁談を切り出さなくてはと微笑んだ。



 このメンバーで、話し合うのか! と、三人の大臣は顔を見合わせてうんざりする。


 ベスメル内務大臣とドーソン軍務大臣は同族嫌悪を持つからか、すごく仲が悪い。文官と武官なのに、二人とも書類がキチンとしてないと、苛立ちが隠せないのだ。


 その二人とバッカス外務大臣は、これまた相性が悪い。まぁ、バッカス外務大臣と相性の良い者など、そうそういないのだとベスメル内務大臣とドーソン軍務大臣は眉を顰める。


「この三人で話し合えだなんて、不毛だわ……可愛いショウ王太子も、酷いことを仰るわねぇ……」


 溜め息をつくバッカス外務大臣に、他の二人は額に青筋を立てて、その話し方が先ず気に入らない! と怒鳴りたくなる。


 ドーソン軍務大臣は関節が浮いて見える程、拳を握りしめて怒りをこらえて、測量を優先するとショウも認めたのだと、軍部優先を主張する。


「何を仰るやら、ショウ王太子は測量をしろと言われたが、それはイズマル島の開発の為の下準備に過ぎない。サッサと測量を済ませたら、アルジエ海の海賊討伐をして下さい」


 文官主体でイズマル島の開発を進めたいベスメル内務大臣に、海軍は海賊討伐してたら良いのだと決めつけられて、ドーソン軍務大臣はプチッと切れそうになる。


「まぁまぁ、お二方とも……熱くならないで。ショウ王太子にイズマル島の開発プランを提案しなくてはいけないのよ。仲間で喧嘩している場合じゃないわ」


 確かにバッカス外務大臣の言う通りなのだが、二人は『お前に言われたくない!』と内心で毒づく。しかし、喧嘩していても始まらないので、グッと堪えて話し合う。


 

 フラナガン宰相に、大臣達を上手くあしらったと感心されたショウだったが、実際はイズマル島の開発より難題を抱えていたので、公務どころでは無かったのだ。


 絶対に王家の女達を、諜報部員に採用すべきだと、ショウは溜め息をつく。ミヤにバレたのはいざ知らず、ララにもロジーナにも、レティシィアの懐妊が知れたのだ。


 ショウは半年先や、一年先のイズマル島の開発プランより、泣いているララや、拗ねているロジーナの機嫌を取るという重要で緊急な用事があった。


 それに父上が何もかも放り出して、竜と気儘な旅行をしているのに、仲の悪い三人の大臣の喧嘩を見ている気分になれない。離宮に帰りながら、彼等がどのような開発プランを纏めるだろうか? と心配になったが、気に入らなかったら却下してやり直させれば良いのだと腹を括った。


 ショウは情けない理由ではあったが、年上の大臣達の使い方を学んだ。



 離宮に帰ると、後宮にレティシィアを迎え入れる指示を女官に出して、ララの部屋にご機嫌を取りに行く。


 ララは、レティシィアの懐妊を知ってショックを受けたが、王太子として何人もの王子や王女を作るのも大事だと受け止めようとしていた。


「まぁ、ショウ様、会議では無かったのですか?」


 今朝、一緒に朝食を取りながら、一日中会議かもしれないと告げられていたのだ。


「先ずは、大臣達で話し合って貰っているんだ。ララ、久しぶりに泳ぎに行こう!」


 本来は後宮から外には出てはいけないのだが、ショウが一緒なら話は別だ。昼食も浜辺で食べようと、簡単な食べ物をバスケットに詰めてサンズと海岸へ向かう。


 新婚四ヶ月とはいえ、探索航海で三ヶ月も離れていた二人は、泳ぐより、木陰に敷いた茣蓙の上で、いちゃいちゃと果物を食べさせあったり、キスしたりして過ごす。


 ララは、忙しいショウが、自分のいたらなさの為に時間を取ってくれたのを感謝した。


 もっと、しっかりしなくては! とララは自分がショウの足手まといになってはいけないと覚悟を決める。それに、二ヶ月もすれば、ライバルのロジーナも後宮に入るのだ。ララは一々他の妻達のことを気にして、落ち込むのは止めようと決心した。


「何を考えているの?」


 顔を覗き込んだショウにキスを返して、ララは自分の決心を貫くのは難しいと考える。


「ショウ様、大好きよ!」


 その後の、他の人に渡したくない! という言葉を飲み込んで、ララはこの一緒に過ごせる瞬間を楽しむことにする。


 

 ショウは妊娠中のレティシィアが不安を感じないように訪ねて行ったり、拗ねているロジーナの機嫌を取ったりしながらも、イズマル島の件を考えていた。


 東南諸島の国民は、イズマル島の港で商売をしたりするのは上手いだろうが、あの広大な土地を開拓するのには向いてない。


 確かに、海洋国家だが、米、芋、野菜などを栽培している人達もいる。その上、輸出商品になるゴムの木などは、商人達がプランテーションを経営して栽培している。


 しかし、その農業従事者の中からイズマル島の開拓をする移民を募集しても、足りないのはあきらかなのだ。


 万年食糧不足で難民を出しているローラン王国や、貧しい北西部の農民に困っているカザリア王国、貧しさから海賊になる者が多いサラム王国、これらの国は移民は出せるだろう。しかし、植民地として、自国の領土を増やそうとされるのも困るのだ。


 ショウは三人の大臣達に話し合わせていたが、漠然と前世のアメリカ合衆国を思い出していた。メッシーナ村は竜騎士から選ぶという条件はあるが、村長を話し合いで選抜してきた。


 イズマル島は東南諸島連合王国に加盟したが、帝国の支配に反発して逃げ出した祖先の血が流れているのだ。独立戦争など、御免だと眉を顰める。


 それと、移民の募集方法や、土地の分配なども頭が痛かった。アメリカ政府が移民達にどのように土地を与えていたのか? ショウは思い出しながら、イズマル島で役に立つものは無かったかと考えている。


「自立農家を育成しなきゃいけないけど……」


 沿岸部の港の開発はチェンナイなどで経験済みだが、農耕国家では無いのでプランが思い浮かべ難い。


「アメリカ合衆国の失敗は……先住民との問題、独立戦争、小規模農家と大牧場主との問題、沿岸部の商業・工業地区との格差、奴隷問題、南北戦争……」


 ショウは朧気な記憶と、此方での外交や内政を学んだ事を参考にして、開発された後に起こる問題と、開発される前から考えていた方が良い問題とに分ける。


「先住民であるメッシーナ村の自治が、移民達によって不利益を被らないようにする。商人達はプランテーションを経営したいと考えるだろうが、絶対に奴隷だけは許さない。商品価値の高い綿などのプランテーションでも、低賃金の季節労働は仕方ないが、基本は農民達が自立した生活が送れるようにしたい。税金は公平にして、独立戦争などが勃発する不満を持たせないようにする」


 ショウは指を折ながら、最重要問題だけを先ずは考えようと思った。


 後は三人の大臣達が、どのような開発プランを考えて提出してくるかを見定めて、重要な会議を開かなくてはいけないとショウは溜め息をつく。


「父上! ほっつき歩いてる場合じゃないですよ!」


 イズマル島は東南諸島連合王国のほぼ半分近くの面積になるのではないか? と測量が終わってないが感じていた。


 しかし、父上への不満や、真面目な考えは横に置いて、真珠の養殖をひとまずは他の人に任せて、後宮に来るようにとレティシィアを説得しに行くという緊急な要件を思い出す。


「会議どころじゃないよ~! 本当に第一夫人を探さなきゃ!」


 ショウはミヤのように信頼できる第一夫人を見つけなければ、仕事に集中できないや! と、サンズとレティシィアの屋敷に向かいながら溜め息をついた。

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