第15話 同胞?

 グラナダ号に帰艦して、ざっとヘッジ王国側の話を説明したが、全員が勝手な言い分に呆れかえる。


「元々、ウォンビン島には住民がいるのだし、ヘッジ王国の支配下に入る必要は無い。その上、魔術で追い出されてしまったのだから、諦めて帰国するしか無いだろう。ヘッジ王国の役人は山羊を返せと主張している」


 どこまでケチなんだと全員が呆れかえったが、このまま居座られても迷惑なのだ。イズマル島の発見をヘッジ王国が知らない間に、ウォンビン島から撤収して貰いたい。


「乗組員達も何だか元気が無いので、もしかしたら病気ではないかと心配したが、船長と役人は恐ろしい魔術に怯えているだけだと言っていた。しかし、ウォンビン島に何か未知の風土病があるのかもしれないから、治療師を派遣して調査してくれ」


 急激な症状をもたらす伝染病でなくても、あの元気の無さに慢性的な風土病ではとショウは心配したのだ。まだイズマル島の発見を、ヘッジ王国に知らせたく無いので、ランドには気の毒だが帆布を上に掛けて隠す。


『夜になったら、ヘッジ王国の船から見えない海岸に行こう』


 サンズは夜の海水浴も気持ち良いよと慰める。


 今回はマクギャリー村長やメルト艦長、カリン艦長も連れて行く。あの穏やかそうな長老が自分達にも魔術で攻撃してくるとは考えられないが、用心は必要だ。先ずは砂浜に着陸して、前に見た高床式の家を目指す。


「それにしてもヘッジ王国が襲撃するとは考えないのかな?」


 砂浜の近くに建てられたヘッジ王国の小屋にも、海岸線にも誰も見張りは居ない。時々、見かける住民達はのんびりと日々の暮らしを送っているようで、ショウ達に手を振っては昼寝を続ける。


「ショウ王太子が言われた意味がわかりました」


 マクギャリー村長とパトリックは、自分達と昔に袂を別れた同胞はかなり違う生活だと呆れかえる。


「海の漁は朝が早いし、ウォンビン島は暑いから、今はお昼寝タイムなのでしょう。彼らには彼らの生活パターンがあるのですよ」


 それでも子ども達は、お客様だと興味を示し、前のヘッジ王国みたいじゃなければ良いなと木の陰から顔を覗かせる。マクギャリー村長はウォンビン島の方が子どもが多いのに気づいて、微笑みかえした。


「メッシーナ村の方が人数は多いし、先住民との混血もあったのに、何故こちらの方が子どもが多いのかな?」


 パトリックの疑問に、マクギャリー村長はのんびりとした暮らしが子づくりには良かったのだろうと笑う。



 集落に着くと、高床式の住居から長老が降りて出迎えてくれた。


「ショウ王太子、ようこそ。こちらは?」


 簡単な公用語を話せるようになっている長老に、マクギャリー村長とパトリックを紹介する。すると老人二人は、お互いの言葉で興奮して話し出す。


「バッカス外務大臣、何を話しているのかわかるか?」


 ショウはエスメラルダに少しずつ習ってはいたが、こうも早口では理解できない。


「お互いの言葉は変化してしまってますから、本人達もいい加減な話みたいですね。でも、同じ祖先を持つ同胞との再会を、喜んでいるみたいですねぇ。あっ、ウォンビン島にも竜が残ったけど、全滅したと泣いてます」


 老人二人が抱き合って、再会を喜んだり、苦労を語っているのを全員が辛抱強く待つ。


 パトリックは少し興奮が収まってきたので、マクギャリーの息子だと自己紹介して、二人の会話に割って入った。ウォンビン島の長老は、良い息子で羨ましいとマクギャリー村長を褒め、自分の子どもや孫達を呼び寄せる。


 お昼寝タイムだが、これほど大騒ぎしていては寝てられないので、二人の周りには沢山の島人が集まっていた。その中の十数人は長老の子孫らしく、にこにこ笑いながら挨拶を始める。


「ええっと、長老がヤナスで、子どもがケイン、ハナス、パラオ、ジェリー……」


 覚えきれないと、ショウは途中で放棄した。


「パトリックは竜騎士なのか?」


 孫まで紹介し終えると、長老は目を煌めかして質問する。マクギャリー村長はピンときた様子で、ヤナスが手招いた孫娘達をじっくりと観察する。


「ちょっと待って下さいよ~」


 パトリックは嫌な予感がして、二人を止めようとするが、独身なのか? とか、メッシーナ村は子どもが少ないとか、老人二人の話は盛り上がる。


 ショウは少しパトリックに同情したが、ヤナス長老の孫娘達は金髪や栗毛なのに小麦色の肌で、胸当てと腰巻き姿はかなり魅力的だから、まぁ悪い話じゃないなとスルーする。


「どうやらパトリックを婿に出して、ウォンビン島の何人かを婿に貰おうとしてるみたいですね。上手くいくかどうかわからないし、この話は私達には関係ありませんね。でも、これからは少し気を引き締めて下さいね~」


 ショウも何となく話を理解して、マクギャリー村長がメッシーナ村は東南諸島連合王国の傘下に入ったと説明しているのに気づく。


「竜越しに話したいと言ってます」


 パトリックが一番公用語が話せるようになっているので通訳する。 


「ヤナス長老は竜と話せるのですか?」


 魔術に秀でているからといって、全員が竜と話せる訳ではないと、アレックス教授は言ってた。大丈夫なのか? 疑問に思ったが、サンズとペリーを呼び寄せる。


『メッシーナ村は東南諸島連合王国の傘下に入っても、自治を許されると言ってましたが、本当でしょうか?』


 ヤナス長老の言葉をペリーから聞いて、ショウは簡単に東南諸島連合王国の成り立ちを説明する。


『東南諸島連合王国は、小さな島国が連合して成り立っている王国です。島国同士の争いや海賊の襲撃を防ぐと同時に、外国との交易で旧帝国三国の大国と同等に交渉する力を得る為に連合を重ねました。加盟したメッシーナ村も、自治を認めてますし、勿論ウォンビン島の自治も認めます』


 ヤナス長老は、マクギャリー村長の説明どおりだと頷くが、東南諸島連合王国の傘下に入った時の不利益もある筈だと考える。


『ヘッジ王国の役人は税金を納めろと言っていたが、東南諸島連合王国も同じではないか?』


『東南諸島連合王国にも税金はありますし、国税局はとてもキッチリと税金を取り立てます。しかし、それは収入に応じた額ですし、私の祖父の島もウォンビン島と同じような暮らしですが、魚の干した物で支払ってますよ』


 ヤナス長老は皆で話し合って決めますと伝えてきたが、その前に久し振りに再会できた同胞をもてなそうと宴会の準備を指示する。


 ショウ達は宴会に出される山羊はヘッジ王国がまだ所有権を主張している物だとは思ったが、前にウォンビン島の家畜を全て食べたのだから知るか! とスルーする。


 島民あげての大宴会は盛り上がり、縁談を嫌がっていたわりにパトリックは女の子に囲まれて、楽しそうに酒を飲んでいる。ショウ達も参加しているが、ウォンビン島が東南諸島の傘下に入るのか、沖に碇泊しているヘッジ王国の三隻の船が気になっていた。

 

「メッシーナ村の住民や、ウォンビン島の住民に、竜騎士の素質のある若者がいるかも。ウォンビン島の竜は全滅したみたいだけど、レイテにはパートナーがいない竜が何頭かいるはずですよね」


 ショウの言葉を聞くまでもなく、バッカス外務大臣はウォンビン島が傘下になったら調査しなくてはと考えていた。


「アスラン王は喜んで下さるかしら?」


 ショウは父上の気持ちなんかわからないと、酒を一口飲む。


 宴会がかなり盛り上がった直後、ヤナス長老が東南諸島連合王国の傘下に入ると宣言した。


 ショウはいつ相談したのだろう? と少し酔った頭で考えたが、宴会中に話し合ったようだとバッカス外務大臣に教えて貰う。


「ウォンビン島の東南諸島連合王国への加入を、レイテに知らせます」


 その後は、新しい君主になるショウに島民達が次々に酒をつぎに来て、少しずつ飲んで酔いつぶれないように苦労した。



 次の日の朝、少し二日酔い気味のショウに、バッカス外務大臣は、迎え酒を勧める。


「バッカス外務大臣、迎え酒は二日酔いにききませんよ。それより、あの山羊と三隻の大型船を買い取って欲しいんだ。ごちゃごちゃ文句を言われるのは飽き飽きしたし、どうせヘッジ王国には修理も出来ないだろう。商船隊を組もうと考えていたから、買い上げようと思う」


 ヘッジ王国のルートス国王から、レイテ産の新造船を取り上げた方が後腐れないとショウは考えたのだ。


「今、乗ってるヘッジ王国の人達を送って行くの? 面倒だわねぇ。暫く放置しておけば乗組員達は脱走してきそうだわよ」


 ショウはあんな元気のない陰鬱な乗組員は御免だと笑う。


「グラナダ号とパドマ号の士官と乗組員数人を派遣すれば、ヘッジ王国まで送って、レイテに帰港してくれるだろう。そうだなぁ、ヘッジ王国の山羊でも買って帰って貰おうかな」


 結構、商売熱心だとバッカス外務大臣は笑うが、士官達に商売が出来るかしら? と首をひねる。


 ケチなヘッジ王国の役人と、口八丁手八丁のバッカス外務大臣の交渉は、凄くエキサイティングな物になった。


 しかし、ヘッジ王国にはマストや帆の修理能力もないし、乗組員達は呪われた島から帰国したくて士気が激下がりしている。ケチな役人は失敗した探索航海だが、ルートス国王陛下に三隻の新造船代と、山羊代をお返しすれば、首は繋がるかもしれないと考えて手を打つ。


 手厳しいバッカス外務大臣は、帰りの船賃も請求したが、乗組員達も作業を手伝うということでチャラにした。


「甘いと父上に叱られるかな?」


 ウォンビン島の長老が傘下に入ると返事をしたのだから、叱られはしないでしょうとバッカス外務大臣は笑った。 

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