第9話 困った!!

 ショウは結婚の前祝いだと宴会で、酒を勧められて酔っ払ってしまう。メッシーナ村の人達も宴会が好きなんだと、内心で愚痴る。


 次々と酒をつぎにくるので、少しずつ飲んでいたが顔も真っ赤になり、風に当たりたくなった。


 竜の通訳なしでも、酔っ払い同士お互いに違う言葉でも通じるのか、好きな事を言い合っている。歌ったり踊ったりと、宴会は盛り上がる。


 やはり見知らぬ人達を警戒していたのか、料理や酒を運ぶのに前よりは若い女性も少しはいるが、全体的に年寄りが多いのは確かだし、子供の姿は見かけない。


 ショウはこれだけ盛り上がっているなら、抜けても構わないだろうと、集会所からサンズの元へと向かう。


 爽やかな初夏の夜風が、酔った頬に気持ちが良い。サンズはルカとひっついて座っていた。


『ショウ、酔っ払っているの?』


 サンズが首をこちらに回した隙間から、ルカに寄り添うエスメラルダが見えた。


『少し飲み過ぎたみたいだ。エスメラルダ様、少しお話があるのですが……』


 酔った状態で、余り知らない女性と話すのは如何なものかとも思うが、ショウには確かめておきたい事があった。


 エスメラルダは若いのに責任者のショウが、祖父や父に酒を勧められて飲み過ぎたのだと察して、少し待ってと家から素焼きの壺に入った水を持ってきた。


『これを飲んで……』


 木のコップに注がれた冷たい水を一気に飲み干すと、ホッとして礼を言う。


『ありがとう、私はどうも宴会が苦手で……』


 二人でお互いの騎竜に寄り添って座り、何杯か水を飲んだショウは少し落ち着いてきた。


 エスメラルダは、サンズが口喧しくショウに飲み過ぎちゃ駄目だよ! と注意しているのを、微笑ましく見ていた。


 それと同時に若い男性と夜に二人きりだと意識もしていたが、村長の祖父から結婚するようにと言われていたので、どのような人なのか知りたいとも思っている。エスメラルダもルカの絆の竜騎士なので、サンズとこれほど仲の良いショウが悪い人間ではないと、信頼して近くに座る。


『済みません、本当は素面でお話しするべきなのですが……あのう……エスメラルダ様は巫女姫だと聞いてますが、結婚とかしても良いのでしょうか?』


 ショウが祖父から結婚の件を切り出した経緯をルカ越しに聞いているので、エスメラルダはポッと頬を染める。


『巫女姫と言っても、大地の神シェハラザードをお祀りするだけですから、結婚はしても良いのです。あのう……結婚しても、シェハラザード様をお祀りしても良いのでしょうか』


 ショウはエスメラルダがどのような信仰なのか、東南諸島の海の女神と風の神との信仰は緩いものだと説明しながら尋ねる。


『東南諸島は海洋国家だと聞いています。だから、海の女神と風の神を信仰されているのですね。この村に逃げて来た先祖達は、農耕民族ですから大地の神シェハラザードに年に四回収穫した野菜や穀物を捧げます。春には子山羊などを捧げるのですが、野蛮な風習だと思われますか』


 ショウはエスメラルダが子山羊の喉を掻き切る場面を想像して、少し身震いしたが、宗教の儀式なら仕方ないと思う。


『サンズが水牛を丸かじりするのを見ているのですよ、子山羊ぐらい平気です』


 お互いに竜の食事風景を思い出して笑う。


『その捧げた子山羊はどうするのですか?』


 何となく火に投げ入れるのかなぁと思ったが、エスメラルダは悪戯っぽく肩を竦める。


『本当は篝火に投げ入れていたのでしょうが、捧げた後は村人全員で食べてしまいます。開拓時代に、勿体ないと変化したのでしょう。ショウ様は捧げ物とかされますの?』


『航海に出る時や、新造船の進水式、人生の節目には捧げ物をしますね。酒や穀物や果物などですが……』


 ララとの結婚式を思い出して、ショウは口ごもる。


『エスメラルダ様、私は結婚しているのです』


 はっきりと告白しなくてはとの言葉に、エスメラルダは少しショックを受けて俯いたが、顔を上げて質問する。


『東南諸島は一夫多妻制だと聞きましたが……ショウ様には、何人の奥様がいらっしゃるのですか?』


 ショウは竜越しに聞いていたのだと、溜め息をつく。エスメラルダが嫌だと断ってくれるのを期待していたのだが、騎竜のルカに子竜を持たせたいのかなと考える。


『結婚しているのは二人ですが、許嫁が何人もいるのです』


 サンズ越しに意味は通じているが、ショウの口調から困っているニュアンスを感じとり、エスメラルダは笑ってしまう。


 可笑しな王子様だわ。一夫多妻制で、女好きの助平かもと思ったけど、可愛いと、胸キュンする。


 身内以外の若い男性と接する機会も無く成長したエスメラルダは、遠距離結婚になるけど、好意を持てる相手で良かったとホッとする。


 お互いに巨大な竜が側にいるが、気にならないし良い雰囲気になり、ショウはエスメラルダは好みの容姿であるし、さらさらの長い髪からは良い香りがするので、酔いも手伝いぐらぐらする。しかし、本当にこれ以上の妻は困ると理性を保つ。


 ショウが宴会を抜け出し、エスメラルダと話をしているのは、竜越しにバッカス外務大臣も村長達も気づいた。


「あらあら、嫌がってる割には、積極的じゃない」


 村長達はそれぞれの竜から、仲良く話していると報告を受け、うう~むと唸る。


 カリンとメルトは竜はいないが、何となく察していた。


「ショウは、天然のタラシだからなぁ。口説くつもりが無いのに、二人きりになるんだから。こんな気持ちの良い夜に、綺麗な姫巫女と話など無いだろうが、そこが彼奴のへなちょこな所だよな」


 カリンは弟のもてもてなのを迷惑に思う気持ちが、自分も帰宅拒否症になったので少しはわからなくは無かったが、でも男なので羨ましくも感じる。


 メルトは娘婿が他の女の人と親密に話しているのを、どう思うのだろうかと、カリンは横顔を眺めたが、全く表情が読めない。


「カリン、なんなら交代してやるが……レイテにいる妻が、懐かしくなったのではないか?」


 珍しく口を開いたと驚いたら、とんでもない事を言い出して、カリンはぶるんぶるんと首を横に振る。

 

 メルトは、チッと舌打ちしたい気持ちだ。カリンが綺麗な妻といちゃつきたいと里心ついてくれれば、グラナダ号で警戒態勢を取って遣れるのにと、近頃の若い男はどうも淡白だと腹を立てる。

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