第4話 あれは島?

 探索隊の全員がヘッジ王国の遣り口に憤懣を抱いたが、負け犬の遠吠えになるのを恐れて、口にしないように努力する。ショウは探索隊の指揮官達に、バッカス外務大臣がルートス島の老人から聞き出した話を伝える。


「余分な出費にはなりましたが、ルートス島で食糧や水の補給もできましたし、乗組員達も半日ずつですが休養も取れました。ファイン島に残している乗組員達を迎えに行って、サンズ島に向かうまで、何日の余裕がありますか?」


 メルト艦長は出来れば補給に回りたくないと考えていたが、順番で補給をするのは、ドーソン軍務大臣から命令を受けていたので仕方がない。


「ファイン島に進路を変えるまで、5日はある。水はファイン島で汲めるだろう」


 ショウは水はともかく、ファイン島に残した乗組員達はギリギリの食糧になると、メルトの決定に難しい顔をする。


 キラー大尉は、ファイン島には果物も有りますし、魚も食べれますから、1週間は探索航海が出来るのにメルト艦長は優しいと口にした。穏やかなキラー大尉も、所詮は軍艦乗りだとショウは呆れたが、こういう決定は専門家に任せるしかない。


 ショウはルートス島の報告書を書いて、サンズ島でレイテに帰る船に託そうと思うが、ヘッジ王国に先をこされたと伝えるのが辛かった。


「父上に、ヘッポコと呼ばれるなぁ~。いや、父上が遠征隊を指揮されていたら、先に発見されたかなぁ」


 ショウはヘッジ王国の後塵を拝したが、せめてキチンとしたルートス島の報告書を作成しようと頑張った。後は、ララ達に手紙を書いて、一緒に纏める。


『サンズ、少し先行してみよう』


 報告書や手紙を何通も書いて、外の空気を吸いにきたショウは、5日しか探索航海に参加出来ないならと、少し無茶をしても平気かなと思う。


 レイテを出航してから1ヶ月が過ぎ、ルートス島もヘッジ王国に先取りされてショウはクサクサしていたのだ。それにサンズと飛行すると、アレコレの悩みが消えていく。


 ショウはヘッジ王国が自国からの山羊を降ろす前に、ルートス島の家畜を全て食べたのを、原住民を虐げる為だと憤っていたが、バッカス外務大臣に家畜の疫病を恐れたのでしょうと指摘されたのだ。


「まぁ、野生の水牛までは駆逐してませんが、いずれは全滅させるでしょうね~。山羊に変な病気を移されたく無いのでしょうけど、食べた家畜の賠償どころか山羊を売りつけそうね」


 まだ海岸沿いしか探索していないヘッジ王国とは数日の差だったのだと思うと、穏やかに記録を書いていた老人達がケチな役人達に受ける被害を避けれたのにと、居たたまれなくなった。


 老人が言った他の人達が、他の島にたどり着いたのかショウにも不確かだとは思ったが、ヘッジ王国の役人に有料の歓迎会を開いて貰うのは二度と御免だ。


『そろそろ帰らないと、日が暮れるな』


 ショウは真東に1日航海する距離には何も無いなと、サンズをグラナダ号に引き返させようとした。


『ちょっとサンズ、海面まで降りてくれ』


 今よりは船も未発達なら、海流の影響を受けたかもと考えたのだ。


 サンズは海水浴はいつでも歓迎なので、ショウの言いつけに熱心すぎる反応を示してダイブする。バシャーン! とサンズごと海にダイブしたショウは、海面に出た途端に叱りつける。


『サンズ! 海面に降りてくれと言ったんだ。ダイブしろなんて言ってないよ!』


 ぷかぷか海に浮かぶサンズの背中によじ登って、謝る声を聞いたが、海水に濡れたのなら同じだと海流を調べる。


『う~ん、これは南から暖かい潮が来ているね~』


 サンズは叱られた後なので、真面目に海流を調べる。


『なら、帰りは少し北を回って見よう』


 帰艦したショウはメルト艦長にも海流の件を伝える。


「少し北に進路を取ってみよう」


 このまま1日東に航海しても何も無いのなら、北を探索航海した方が良いとメルトは判断する。


 ショウはずぶ濡れになった服を脱ぐと、従卒からタオルを受け取って身体を拭いて、新しい服に着替えた。でも、海水に浸かったままだったので、何だか気持ちが悪い。


『しまった! 濡れたタオルで身体を拭けば良かった』


 水を節約しようと、従卒に要らないと言ったのを後悔する。デッキに出て夕日を眺めても、何だか身体をボリボリ掻きたくなる。


 甲板掃除をする時に海水を汲み上げるバケツがキチンと積み上げてあるのを見て、ショウは名案を思いつく。


「キラー大尉、海水で実験したいんだけど、甲板を濡らしても良いかな?」


 新造艦のグラナダ号は、厳しいメルト艦長でも文句の付けようが無いほど磨き上げられている。キラー大尉はショウが何の実験をするのかはわからないが、甲板を濡らしてもまた掃除するから大丈夫ですと応える。


「う~ん、何個かバケツを並べて置こうかな……」


 乗組員達はショウが何をするのか興味深く見学していたが、海水をバケツに汲み上げるのを手伝う。


 バケツ5杯もあれば十分だろうと、ショウは考える。


「ショウ王太子は、何をするつもりなのだ」


 メルト艦長は副官のキラー大尉に尋ねたが、さぁとしか返事がない。


 ショウは乗組員達に離れるようにいうと、着替えた服を脱ぐ。


「何をしているんだ!」


 グラナダ号には男しか乗ってないが、王太子が人前で裸になるとは何事だとメルトは止めようとする。


 ショウはズボンだけになって、竜心石を握ると『魂』で活性化させ、『蒼』よ『涌』け! と念じる。


 バケツの水が噴水のように噴き上がり、バシャーンと落ちる。


 ショウは頭から水を被ったが、周りに置いた桶の水を舐めて真水だ! と喜ぶ。止めようとしてショウに近づいたメルトも、頭から雫を垂らしている。


「伯父上、すみません。離れているように、言ったのですが……」


 メルトは海水から真水を得るのは重要だとは認めるが、どうも甥のショウの行動は理解できないし、アスラン王の王子、いや東南諸島の王太子として、格好がつかないと呆れる。


「周りのバケツの水は飲めるから、樽に入れたら良いかな」


 キラー大尉は呆然としていたが、バケツの水を舐めて大丈夫だと樽に入れさせる。ショウは頭から水を被って、すっきりしたと笑う。


「あっ、海水を汲んだバケツの底に塩が残ってる。これは調理に使えるかな?」


 キラー大尉は凄いのか抜けているのか、わからないショウに、早く身体を拭いた方が良いですよとタオルを渡す。


「海水を真水に変えれるなら、水の補給に困りませんね」


 タオルで頭を拭きながらキラー大尉の言葉に、メルト艦長は頷くが、凄い能力なのに褒めてやる気力がでない。


 メリッサはショウにベタぼれだが、甥ならまだしも義理の息子になるのかと、メルトは顔には出さないが、トホホな気分になる。


 しかし、乗組員達は海水から真水を作ったショウを、畏怖する。


「凄いよなぁ~、ショウ王太子は竜に火を噴かせたり、真水を作ったり、風の魔力も強いし」


「そりゃあ、アスラン王の王太子なんだから当たり前だよ」


「メルト艦長のお姫様もショウ王太子に嫁ぐんだろ。だったら……痛い!」


 後継者の話題はヤバいと甲板長は、噂話をしている乗組員の尻を蹴り上げる。


「お前ら! バケツをサッサと片付けろ!」 


 古参の乗組員が、この話題はタブーだと尻を撫でている乗組員に教える。


「後継者は王が決める。絶対に口に出してはいけない! 首を刎られるぞ!」


 へ~い! と返事をしてバケツを積み上げる乗組員を、キラー大尉は立太子式を挙げたばかりなのにと苦笑する。

 

 

 少し北向きに舵を切って、探索航海を続けるが、3日、4日と過ぎても島影一つ見えない。


「昔の航海技術では、限界かも知れないなぁ。ヘッジ王国への漂着物は、ルートス島からかなぁ。まぁ、人が住んでいない島の方が気が楽だけど……」


 グラナダ号は明日一日探索航海したらファイン島へと舵を切り、サンズ島で食糧や水を補給して、他の2艦をファイン島で待って合流する予定だ。


「ファイン島に井戸が掘れていたら、サンズ島から家畜を多目に連れて行って放牧しても良いなぁ」


 ショウは、サンズと明日一日探索航海する付近を、ざっと偵察することにした。ファイン島に置いてきた乗組員達がやはり心配で、何も無いのなら早めに迎えに行けば良いと考えたのだ。


『うわぁ~、360°何も無いね~』


 初夏の雲一つ無い青い空と、煌めく青い海。サンズにグルリとホバリングさせて、青いパノラマをショウは堪能する。


『ショウ! 北東に何か見えるよ!』


 一カ所でホバリングして、一回りしたサンズは島影を見つけ出した。


『え~! サンズって目が良いね! 私にはまだ見えないけど、サンズ島も見つけたんだよね』


 東北に飛んで行くと、ショウは望遠鏡で微かに水平線に黒い線を見つける。


『あれは島なのかな?』


 どんどん近づくにつれて、島と言うより大陸なのではとショウはドキドキする。


『島と大陸の違いって、何だろうね~』


 前世の地理の授業で習った、一番小さいオーストラリア大陸と一番大きいグリーランド島の違いを、ショウを思い出す。


『大陸プレートに乗っているのが、大陸だという説があったっけ。大陸プレートなんて、わからないや。後は大きさだよね~。グリーランド島は島としては大きいけど、オーストラリア大陸の3分1だったか2だったか? まぁ、探索すれば、わかるかな?』


 ショウは元々大陸と島の違いなど曖昧なのだから、人が住んで居なければ島と言い切って、東南諸島連合王国の一部にすれば良いと考える。

 

『あれだけ大きいと、先住民とか国家とか有るのかな……あっ! 手前に小さな島がある!』


 人が住んでいなそうだと確認して、島に降りる。ショウはサンズ島の時の偵察飛行で、位置がわからず困った経験から、袋に観測道具を入れている。


 太陽の角度を観測して、結構東北だなと思う。


「ルートス島から、かなり離れているなぁ。サンズ島の北西辺りだもの……この島はジャングルじゃないし、温暖な気候にあるなぁ」


 緑豊かな島には水がありそうだとショウは思うが、ジャングルで無くても草ぼうぼうの中には、ヘビが潜んでいそうなので足を踏み入れたく無い。


「かなり北だと思うけど、メーリング辺りかなぁ。ルートス島よりは、冬は寒いかも。あっ、赤道付近からの暖流があるから大丈夫かな?」


 一人で島を探索するのは危険だと、蛇嫌いを誤魔化す。海岸に咲く昼顔を一枝切り取ると、サンズに飛び乗ってグラナダ号に引き返す。

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