第3話 新島発見!
「北回帰線より南は、探索し終えましたね。何個かの小さな島は見つけましたが……」
グラナダ号とカドフェル号はペナン島の北に位置するA島で、パドマ号から補給物資を受け取る。ショウの魔法のお陰で、各艦はA島で真水も樽一杯に汲んでいた。
メルト艦長、レッサ艦長、カリン艦長、バッカス外務大臣をグラナダ号の艦長室に集めて、海図に書き込まれた新しく発見した何個かの小島を確認しながら、これからの探索航海の計画を練り直す。
「北回帰線より北部の探索航海には、このA島より北に位置するF島の方を拠点基地にした方が良いですね。F島には植物が自生してますから、家畜も放牧できますし」
新しく見つかった北回帰線より少し南のF島は、A島よりも大きくて緑も見えたが、真水は見つからなかった。
「ショウ、このF島に植物があるのなら、井戸を掘れないかな」
カリンはパドマ号がペナン島に補給物資を取りに行った間に発見されたF島を、少し悔しく思いながら指差す。
「どうかな……島の中央辺りなら、塩水ではないかも……」
井戸が出来て真水が常に補給出来れば、航海するのに便利な補給島になると全員が考える。ショウの魔法でA島でも真水は確保出来ているが、常にショウが航海に参加している訳では無いのだ。
ショウが難しい顔をしたのは、ジャングルには蛇がいるからだ。
「ショウ、もしかしてF島はジャングルなのか?」
実際にF島を見ていないカリンは、蛇嫌いの弟に疑惑の目を向ける。
「カリン兄上、別にジャングルだから、探索を切り上げたのではありませんよ。真水が無いのは確認しましたし、食糧の補給にA島に寄港しなくては……」
水の確保はF島で出来たが、パドマ号との合流予定もあるので、探索を切り上げたのだとショウは説明する。
「F島に井戸が掘れたら、良い補給島になる」
メルトの後押しもあり、今後の補給基地はF島になる。メルトの部下はサンズ島の開発で、井戸を掘った経験があるので、何人かをF島に派遣する事を決定した。
「補給島になるならF島だなんて、野暮な名前は駄目よね」
探索航海の計画には口を出さないバッカス外務大臣だったが、記号のような名前は味気ないとクレームをつける。確かに不毛なA島とは違うと、全員がショウの顔を見る。
「えっ? 私が名前を付けるのですか?」
探索航海の責任者なのだから当然だろうと、全員の目が言っている。
「う~ん、そうだ! Fだから、ファイン島は?」
あまりピンとこない名前だと全員が思ったが、サンズ島と違い本当に補給島でしか無いので、ショウの言うままに海図に書き込む。
「ええ~、それで良いのですか?」
ショウもあまりパッとしない名前だと、思い付きなのにとぐずぐず言う。他のメンバーは次の探索航海の航路の確認作業に没頭して、ショウの躊躇いなどスルーする。
「早く新島発見したいのは、わかるけど……」
バッカス外務大臣とショウは、軍艦乗りには付いていけないと首を振った。
「今度の食糧補給は、サンズ島でしましょう。ファイン島はペナン島とサンズ島の中間ですし、ペナン島の北はかなり探索しましたから」
全員の意見を聞いて、ショウは決定を下す。次の補給はグラナダ号の番だったので、久しぶりにサンズ島に行けるのも楽しみだ。
しかし、グラナダ号はサンズ島に、補給に帰る必要は無くなった。ファイン島に十名ほどの井戸掘り要員と水を置いて、北上した探索隊は念願の新島を発見したのだ。
「10時の方向に島影が見えます」
見張りからの声で、望遠鏡で確認する。
「サンズと見てきます!」
前の東航路の発見の航海の時と違い、長い探索航海になるので竜での飛行探索は控え目にしていたが、島影が見えるなら話は別だ。メルト艦長も日頃の竜嫌いを返上して、ショウの後ろに乗り込む。各艦からシリンやマリオンも飛び立って微かに見える島へと向かう。
「あちゃ~! ヘッジ王国に遣られたぁ~」
島に近づくにつれて、船が小さく見えた。どう見ても原住民の船では無く、遠目からもレイテ産の船に思える。
「先に見つけられましたねぇ」
ショウは残念な気持ちになったが、この新島はヘッジ王国から南東に降りた位置なので、仕方ないかと溜め息を押し殺す。バッカス外務大臣と顔を見合わせて、この新島で食糧と水を補給して先に進む事を確認する。
「あら? かなり嵐で被害に遭ったみたいですわね」
レイテで新造船を買った筈なのに、ダメージを受けているのが遠目からも確認できた。シリンに乗せて貰っているレッサ艦長は、これだから素人は困ると船ラブなので怒り出す。
「新造船なのに手入れがなってない! ヘッジ王国の素人が遠洋航海などするからだ! 山羊でも育てていれば良いんだ」
レイテ産の新造船だったから嵐に負けず、どうにか新島発見したのだと全員がヘッジ王国に船を売った船屋に怒りを覚えた。
「まぁ、東南諸島の商人に規制をかけても無意味だわよね~」
確かに自国の国民性では規制など歯牙にも掛けないだろうと全員が納得する。抜け道を考え出すのに決まっていると、船屋に責任転換するのを止めて、潔くこの新島発見に出遅れたのを認める。
バッサバッサとヘッジ王国が開発拠点にしている浜辺に三頭が舞い降りる。
「ようこそ、ルートス島へ」
ゲッ! 国王の名前かと、全員が所有者意識満々なのに呆れかえる。
開発拠点というかテントを建てた浜辺には、先住民の姿がチラホラ見えた。
でも、上空から数軒の高床式の家が確認できただけで、国家が形成されている様子は無いのでショウは口出しを控える。サンズ島と同じぐらいの大きさかなぁとざっと考えるが、熱帯地方よりは北なのでジャングルでは無い。
ショウはルートス島の責任者に水と食糧補給を交渉する。それと三頭の竜には食事をさせておきたかった。
ルートス島の住民は海で魚を捕り、焼き畑農業で芋を栽培していた。家畜も飼っていたが、先に到着したヘッジ王国の乗組員達が食べたようだ。
「やりたい放題だなぁ……」
ショウは言葉の通じない先住民に我が物顔で指図する態度に苛つくが、バッカス外務大臣に目で制される。
「ショウ王太子、島の奥に野生の動物がいるとシリンが言ってます。竜が勝手に狩りをするのは、違法でしょうか?」
ヘッジ王国に気づかれないなら平気だろうと、竜達に勝手に狩りをさせる事にした。ヘッジ王国にも少ないが竜騎士はいたが、ルートス島には派遣されていないので、気づかれないと三人の竜騎士はほくそ笑む。
ケチな国民性のヘッジ王国の責任者との水や食糧の値段交渉は、こちらも商売では負けていないバッカス外務大臣に任せて、ショウは島を他のメンバーと島を探索する。
先住民の家の近くには小川がちろちろ流れていて、真水のあるルートス島の発見に出遅れたのを全員が悔しく思う。
「あれッ? これは……」
上空からは高床式の家しか見えなかったが、どうやら村には高床式住居の他にも小さな家が数軒ある。
その高床式住居で老人が何やら文字を筆で木の板に書いているのをショウは見つけた。
東南諸島も昔は他の言語を話していたが、交易に便利な帝国語が公用語になっている。ショウは身振りで、老人にその木を見せて欲しいと伝える。
薄い木には端に穴が開けられていて、革紐で綴じていくみたいだ。
「これは……竜って読めるよね? 三って……三頭の竜が島に来たと言う意味だよなぁ」
ピップスに読めるか? と尋ねたが、真名も読めなくなっていた村の出身なので首を横に振る。真名は漢字に似ているが、ルートス島のは漢字とそれを崩した仮名に近いとショウは考える。
「筆談出来るかな?」
身振りで老人から新しい木の板と筆を借りて、ショウは前世の漢文を思い出しながら東南諸島から来た事を伝える。
老人は文字を考えながら見つめて、ハッとわかったと額を叩く。
「名前……だよね……」
差し出された木にショウは『翔』と書いた途端に、風が高床式の住居を通り抜ける。
「何なのだ!」
メルトはその風が自然の物では無いと気づいた。
老人は興奮して大声で話しかけるが、ショウには理解できない。自分の言葉が理解されない苛立ちを抑えて、老人は『翔』という文字を押さえてから、ショウを指差して、『人』『本質』と読める文字を書いて差し出す。
「ああ! 『翔』が私の本質を示す真名だと言っているんだね」
言葉は通じないが、ショウが自分の言いたい事を理解したのを満足そうに老人は頷く。
そして『風』と書いて渡す。
「風の魔力持ちだと言いたいんだ」
ショウが老人と筆談しているのを、メルトやカリンは相変わらず得体が知れない所があると眺めている。
ピップスとレッサ艦長はどうやらルートス島の住民の先祖は帝国から逃げて来たのでは無いかと推察する。ショウもピップスの先祖も帝国から逃れたので、他にいても不思議では無いと思った。
ショウは筆談で他に人が住んでいる島は無いかと尋ねたが、文法も曖昧だし文字も長年の間に崩されているので意味が理解出来ないのか老人は首を横に振る。
「酷いわ~私をあんな暑い浜辺で値段交渉させておいて、こんなに気持ちの良い風に当たってるだなんて」
バッカスの登場で、苦手なメルトとカリンは逃げ出した。
「そろそろカドフェル号も着くだろう」
見知らぬ老人とショウ王太子を二人きりには出来ないと、ピップスを残してレッサ艦長も逃げ出す。
「あら? この文字は……」
ショウから木の板を取り上げて、バッカスは真名ねぇと呟く。
「読めるのですか?」
ショウは少し期待して尋ねたが、ほんの少しの文字しか知らないと答える。
「パロマ大学で、ライシャワー教授というダンディーな小父様に習ったのよ」
アレックス教授の先生だとショウは笑ったが、バッカスは眉を顰める。
「アレックス教授? あの変人が教授になったの?」
どちらが変人かは、ショウはコメントを控えた。
「どうやら帝国から逃げてきた子孫っぽいですね。他の島に逃げた人は居ないか筆談したのですが、文法は苦手だし、文字も時間と共に変化していて通じません」
外交官のバッカスは基本は帝国語が公用語として通じるが、現地の言葉も何個も習得しているので、ルートス島の言語に近い言葉で試してみると話し出す。
「長くかかりそうだから、ショウ王太子は身体を洗ったりして過ごして下さい」
有能で親切なのだが、長い航海で臭いと言われた気持ちがして、何故かショウは身体を洗いたく無い気分になる。
「さぁ、行きましょう!」
ピップスに促されて浜辺に出ると、三艘の軍艦からボートが降ろされて水を汲む為の樽が載せられていた。それぞれの艦長は、ケチなヘッジ王国の責任者に金貨を支払っている。
ケチなヘッジ王国の責任者だが、一応はショウ王太子の歓迎の宴は開いてくれるようだ。
『サンズ、満足したかい?』
『水牛に似ているが、野生だから脂肪がのってなかった。でも2頭食べたから満腹だよ』
他の竜も満腹になり浜辺で眠っているのを確認して、ショウはピップスと小川で身体を洗った。
こざっぱりしてヘッジ王国の歓迎の宴にショウは向かう。自慢のヘッジ王国の山羊を海岸で焼いている香りに、ショウは期待したが、料金を請求されて唖然とする。
「歓迎の宴では無いのですか?」
ショウは長い航海で疲れている乗組員達を思い、腹立ちを抑えて料金を支払う。
「自国から山羊を運んでいるなら、ルートス島の家畜を食べなくても良いのに……」
塩気のある山羊を腹立ち紛れにガブリと噛みちぎって、ショウはむしゃむしゃ食べる。
「この調子じゃあルートス島の住民は搾取されるのではないかな……」
ショウは先に発見出来なかったのを改めて悔やむ。
「うう~ん、良い香り!」
ショウの横に座り込んだバッカス外務大臣が、山羊の香りを嗅いだ感想を口にしたのだと信じたいと身震いする。
バッカスは山羊を優雅な手つきなのに手早く食べると、ショウに目配せして宴会から連れ出す。人気の無い海岸に連れ出されたが、ショウはバッカス外務大臣が老人から何か情報を得たのだと感じていた。
「あやふやな情報なのですが、ルートス島よりも遠くへ逃げた一団がいると老人は言ってます。しかし、その後は音信不通で無事に何処かに到着したのか、海の藻屑になったのかは不明なのよ。でも、東に向かったのは確かみたいよ」
歓迎の宴も料金を要求するようなルートス島に長居は無用だと、探索隊は東を目指す。
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