第九章 新しい発見
第1話 遠征航海の準備
ショウは海水から真水を取り出せないか、色々と実験したがなかなか上手くいかなかった。しかし、ドーソン軍務大臣や父上と探索海域を計画している時に、地図上に新しく書き込まれた小島が何個もあるのに気づいて、新しいアイデアを思いつく。
「これらの小島を、探索航海の補給基地にできませんか?」
「それはカリンが東航路の調査航海で見つけた小島だな。しかし、その小島では真水が確保できなかったと思うが」
ドーソン軍務大臣が居るので少し躊躇したが、ショウは小島でも土があれば水を涌かせる事ができる筈だと答える。
「筈だと! 筈では当てに出来ない。小さな島で、海水が湧いたら死活問題になる。今から確かめに行くぞ」
アスランのメリルと共にサンズとファミニーナ島の近くの小島に舞い降りる。
「父上~! これは小島と言うより、暗礁に近いのでは……」
竜が2頭できちきちの岩場に、ショウは文句を付けたが、サッサと実験しろと顎で指示される。
「確かに土の上ではあるけど、海水が湧き出しそう……」
ショウはカリンが地図に記入した小島はもう少し大きい筈だとぶつぶつ言いながら、服の下から竜心石を引っ張り出す。ショウは竜心石を活性化させると、岩場に手を置き、『蒼』よ『湧』けと念じる。
岩場の裂け目から水が吹き出すのを、持ってきた樽に汲む。
「やったぁ! 海水じゃない!」
しょっぱいかなと恐る恐る口にしたショウが喜んでいるうちに、水はちょろちょろになり止まる。
「樽に真水を効率よく汲まないといけないな。小さい島だと真水を涌かせる量も限界があるのだろうか?」
もう一度試したが、前より少ない水が湧き出す。
「もう少し大きな島で試すか」
初めからこの暗礁は小さ過ぎると言ってるのにと、ぶつぶつ言うショウは全く無視される。
「もっと効率の良い方法を見つけてから、文句を言え」
古文書もまだ全部は読めて無いので、グッと詰まったショウを促して、小さな無人島に移動する。ショウは此処なら小島と言えるかなと、試してみる。
前の暗礁より大量の水がドドドドドッと湧き出す。
「これなら樽をいっぱいに出来そうだが、お前は疲れないか?」
えっ? 父上が自分の心配をしたのか? とショウは驚く。
ゴツンと拳骨を貰い、探索航海の責任者としての自覚が足りないと叱られる。ショウは頭を撫でながら、自分の身体の具合を調べる。
「このくらいなら大丈夫です」
ふん! と顎をあげてアスランがメリルと飛び立つのを、慌てて追いかけながら、ショウは父上って傲慢な態度しか出来ない不器用な人なのかもと初めて思った。
しかし、王宮に帰って遠征航海に参加する艦長の名前をドーソン軍務大臣から聞いた時に、やはり見た目通りの酷い人だとショウは内心で毒づく。
「なんでメルト伯父上が旗艦のグラナダ号の艦長なのですか? 遠征航海には年齢が上ですし……」
ギロリと睨まれて口を閉じたが、遠征航海中にメルトとバッカス外務大臣との板挟みは困ると思い、負けずに抗議する。
「父上、メルト伯父上とバッカス外務大臣を同じ艦で航海させるのですか? メルト伯父上には、父上が決定したと話しますよ」
傲慢なアスランだが、苦手な物もある。兄上達の中でも、メルトは一番苦手な相手だ。
今回の遠征航海にもごり押しされて旗艦艦長を任せたのだが、あのバッカス外務大臣と同艦させたと誤解されるのは拙いと舌打ちをする。
「メルト伯父上が旗艦艦長なら、バッカス外務大臣は必要ないのでは」
強気に押してくるショウを睨んでいたが、アスランは名案を思いつく。
「バッカス外務大臣はマリオンを連れていくよなぁ。なぁ、ドーソン、遠征航海では食糧を節約しなければいけないよなぁ」
親子喧嘩に引き入れられたドーソン軍務大臣は、アスラン王の話の目的が理解できない。
「勿論、食糧は節約しなければなりません」
常識的な言葉を発するだけのドーソン軍務大臣を、あてにはできないと舌打ちする。
アスランは、フラナガンなら、私の意図を察してくれるのにと、ドーソンを睨む。
気がきかないドーソンをほって、アスランは自分でショウを丸め込むしかないと話し出す。
「ほら、ドーソンも言ってるではないか。食糧を節約しなくてはいけないのに、旗艦に二頭も乗せられるか。カドフェル号にはシリンがいるから、そうだなぁパドマ号にバッカス外務大臣を乗せるか」
シャアシャアと言い切る父上に、ショウは呆れる。
「パドマ号をカリン兄上にお与えになったのをお忘れですか? 父上、カリン兄上はバッカス外務大臣には我慢できませんよ」
ふふふんと鼻で笑う父上が、カリンが憤慨しようと気にしてないのは確かだし、バッカス外務大臣が旗艦に乗らないのはショウにとってもありがたい。
身内の話し合いが終わったみたいだと、ドーソン軍務大臣は遠征航海の計画を細かく詰めだす。気はきかないが、緻密な探索航海計画と入念な補給計画で、こういう事はドーソン軍務大臣に任せておいて大丈夫だと、会議は終わった。
「あっ、ドーソン。カリンとバッカスには、お前から伝えてくれ」
何処までも酷い父上に呆れたが、自分に振ってこなかったのでショウはスルーする。苦虫を噛み潰した顔のドーソン軍務大臣が何か口を開く前に、ショウも許嫁にお別れを告げに行かなくてはと執務室から出て行く。
残ったドーソン軍務大臣は、アスラン王とショウ王太子は雰囲気は違うが、根本は似ているのではと舌打ちした。
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