第23話 新たな挑戦

 どの軍艦が遠征に選ばれるのかはショウにはわからなかったが、自分にも出来る準備をしようと海図と睨めっこする。


「ヘッジ王国のルートス国王が、何か新しい島か大陸の存在に気づく物証が無ければ、新造船など買うわけがない。と言うことは、ヘッジ王国から近いのかな」


 それにしても2日や3日で着く辺りなら、これまでにも何らかの行き来が遭っただろうと、ショウはコンパスでヘッジ王国から円を描いて排除する。


「サラム王国でも、同じだろうな……」


 サラム王国からもコンパスで円を書き、やはりペナン島とサンズ島の間の北半球の空白部分が怪しそうだと海図を丸める。この件はドーソン軍務大臣や父上と遠征計画を考える時に話そうと、一旦ショウは海図をしまう。


「後は雨合羽のテストだなぁ。北半球の寒い地区まで航海するなら、絶対に必要だもの」


 側仕えに業者との間を何回も往復させて、ゴム引きの雨合羽を作らせていた。最初の試作品は重くて着心地が悪かったし、次のは薄くて軽いが水を通してしまった。


 ショウは黒い雨合羽を着て、噴水の中に立ってみる。


「おい、何をしているのだ」


 王宮の中庭の噴水の中にショウが立っているのを、ギャラリーが不審そうに眺めている。


「あっ、父上、雨合羽のテストをしているのです」


 相変わらず何をしでかすかわからないショウに、アスランは溜め息をつく。


「そんなことは他の奴にさせれば良い。兎に角、噴水から出ろ」


 ショウは噴水から出て、巻き上げていたズボンや長衣を下ろす。


「これなら嵐に遭っても、濡れませんね」


 雨合羽を脱いだ下は濡れてないとショウが確認しているのを、アスランは呆れて見る。


「そんな物をいつ作ったのだ」


 アスランも雨合羽を手に取って、綿の生地の上にゴム引きしたのかと感心する。


「前に嵐に遭って、体調を崩した時に考えたのです。東南諸島はゴムの樹液を生産してますからね。航海だけでなく、北の冬には良いかもしれませんね」


 アスランは雨合羽には感心したが、王宮の中庭で実験するのは格好悪いぞとショウに告げた。


「宣伝も兼ねたのです。ドーソン軍務大臣に、海軍で購入しないか掛け合わなくては。業者に無理を言って開発させたから、売り込んで遣らなきゃ」


 アスランは発想は良いが、何処か間抜けなショウに頭痛がしてくる。


「そんなのはお前がしなくても良い。その雨合羽をドーソンの机に置いておけば、奴ならテストさせて購入するだろう」


 王太子自ら雨合羽の宣伝や売り込みをする必要などないと父上に叱られて、ショウはなる程と肩を落とす。


「他にも何か考えているのだろ?」


 ショウは叱られるかもしれないと思いながら、竜心石で海水から真水を取り出せないか考えていると口にする。


「父上に魔力を使い過ぎるのは良くないと忠告されていますけど、竜心石を真名で活性化させると色々出来るのです」


 アスランは、真名? とショウを問い詰める。


「ええ? 父上はご存知無かったのですか? パロマ大学で、アレックス教授の授業で習ったのです。帝国前に栄えていた魔法王国シンで使われていた真名には、魔力が籠もっているのです」


 アスランは微妙な話を王宮の中庭でする気になれず、自分の執務室にショウを連れ込む。


「お前がパロマ大学で、アレックス教授の授業を受けて熱を出したとパシャムから報告を受けたが……」


 ショウは真名が読めるのを誤魔化しながら、竜心石の真名を教えて貰ったと説明する。


「アレックス教授は、竜心石の真名をイルバニア王国のユーリ王妃から教えて貰ったそうです。ユーリ王妃は、魔法王国シンの末裔ではないかと言ってましたよ」


 アスランは、若い日のユーリを思い出して苦笑する。


「ユーリは玩具箱のような女だ」


 ショウは父上の口調で何か若い頃にあったのかなと、疑問を持つ。


「それで竜心石の真名とは何だ」


 アスランに促されて、ショウは紙に『魂』と書く。


「この文字は『たましい』と読みます。意味は竜の心です」


 ショウは竜心石のネックレスを外すと、手に持って『魂』と唱えて活性化させる。アスランは竜心石が輝きを増したのに驚いた。


「ユーリの竜心石みたいだ! あの竜心石も青く輝いていた」


「活性化させると、魔力も増大します。土の中の水を取り出すこともできるので、海水から真水を取り出せないかと考えたのです」


 アスランは、ショウが他にも何かできるのを隠していると感じる。


「お前は他にもできるのではないか?」


 ショウは問い詰められて、治療の技や、宝石を活性化できると小声で答える。アスランは、何故もっと早く言わなかったのだ! と怒鳴りそうになった。


「そう言えばバルバロッサを討伐した時に、カリンは重傷を負った筈なのにケロッとしていたな。戦闘に参加した者に、戦死者も無かった。治療師の腕が良いのかと考えていたが……」


 ショウに竜心石で無くても宝石にはそれぞれ力が潜んでいると聞いて、アスランは治療に役立つ宝石も有るのか調べろと命令する。


「竜心石では数が少ないから実用化できないが、宝石を活用できたら治療師も有効に使える」


「それは確かにそうですが……」


 ショウの言葉に、何か別の考えが有るのかと、アスランは先を促す。


「私が数学を習ったバギンズ教授は、アレックス教授の奥様なのですが、魔法は便利だけど、殆どの人は使えないからもっと医術や科学の研究に力を注ぐべきだと言われたのですり治療師の技は、魔力を消耗します。他の道も研究するべきでは……」


 アスランは、ショウをパロマ大学に留学させた甲斐があったなと感じる。 


「お前は大学を作りたいと言っていたな。そこに研究施設も作れば良い。確か、ユングフラウ大学に変わった医術を研究している竜騎士がいた筈だが……血液を集めたりして気味悪がられていたそうだが……」


 アスランは、これもユーリ絡みの話だったと妙な気持ちになる。


「大学の創立や、医術の研究は、直ぐにはできない。先ずは医療に使える宝石を探せ。宝物庫には、あらゆる宝石がある筈だ」


 これで解放して貰えるかなとショウは考えたが、父上の竜心石を活性化させるのを指導させられたり、王宮の奥庭で土の中から水を湧かせたりと実際にやってみさされる。


「水の真名は『蒼』で『湧』が土から出てこさす真名なのか。なら、海水から真水を取り出す真名は?」


 父上にこれから調べようと思っている事を質問されて、ショウはふくれる。


「ピップスの村で、シン王国の書物を数冊貰いました。それを読んで調べようかと……」


 見る見るうちにアスランの眉が上がっていく、ショウは父上が怒っているのに気づいて、言葉を濁した。


「ピップスが来てから、1年以上経つのに、お前は……」


 怒りをぶつけようとしたアスランは、この1年は本当に忙しかったのを思い出し、深呼吸して我慢する。


「プロポーズの旅は、余計だったなぁ。サッサとしとけば、その間の時間で本を読めた筈だ」


 嫌味の一つですませて、やっとショウを解放してくれた。ヤレヤレと離宮へ向かうショウの背中に、アスランは小言を投げつけた。


「新婚呆けは仕方ないが、レティシィアやロジーナに顔を見せてやれよ。ララばかり寵愛するのは、問題だぞ」


 ショウはララを裏切るような気持ちになるので、レティシィアやロジーナの屋敷に訪問していなかった。振り返ったショウの困った顔を見て、やはり此奴はヘナチョコだとアスランは笑った。

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