第22話 新しい任務

 ショウは細かい作戦を軍務大臣と話し合った。


「ヘッジ王国より先に発見しなくてはいけないのは勿論の事ですが、ある程度の人員を派遣しておきたいです。そうなると大規模な遠征となります」


 前のザハーン軍務大臣と違い細かい計算を得意とするドーソン軍務大臣に軍艦や人員の手配は任せて、ショウは離宮へ帰った。


「ごめん、遅くなったね」


 夕食を一緒に食べようと約束していたのに、話し合いが長引いた事を謝るショウをララは制した。


「ショウ様は公務をなさっていたのです。さぁ、夕食を食べましょう」


 離宮の料理は小さな島の簡単に焼いたり煮たりした物とは違い、手の込んだ物で美味しかったが、二人は新婚旅行は終わったのだと感じる。


 ショウは、ララを離宮に置いて航海に出なければならないのを気にした。


「何なら屋敷に里下がりしているかい?」


 何人かの侍女を連れて来てはいるが、慣れない離宮の後宮で一人で過ごすよりは、実家の方が良いだろうと、ショウは提案したが、ララは首を横に振る。


「私はショウ様の妻です。そして此処が私の居る場所なのです」


 真剣なララの瞳に吸い寄せられるように、ショウはキスをする。女官達はラブラブな二人を邪魔しないように、次の料理を運ぶのを止めさせた。



「ショウ、私も探索の航海に、連れて行ってくれ」


 早耳のカリンに驚いたが、父上や軍務大臣に言ってはみるとしかショウは返事出来なかった。


「私も参加できるか微妙なのです。父上に考え方が甘いとボロカスに言われましたので……」


 カリンはショウが発見した島に住民がいた場合、どのような関係を築けば良いのか悩んでいると聞いて、王太子は大変だなぁと笑う。


「ルートスはそんな事など悩みもしないだろうに。新しい領土を増やす事しか頭に無いだろう」


「だから悩んでいるのです。ヘッジ王国が狙っていないのなら、ゆっくりと内陸部を探索して有人かどうか調べられるのですが……沿岸部の状態だけで決断しなくてはいけないし、友好的な民族か、どの程度の文化が発展しているのかも解らないし……」


 カリンは色々と考え過ぎだと、背中をパシンと叩く。


「発見してから考えれば良いさ。何なら外交官でも連れて行けば良い。どんな言葉を話しているか知らないが、彼奴らなら此方に有利に持っていくだろう」


 カリンの言葉に、普通の航海では無いので文官は辛いのではと、ショウは考えた。


「こんな航海に参加したがる外交官などいませんよ」


「それはどうかな?」


 ショウの執務室に突然アスランが顔を出した。


「今回の航海は、ぎりぎりの食糧や水でなるべく長く探索しなければいけません。外交官など無理ですよ」


 アスランは、にやにや笑って鼻歌を歌いださんばかりの上機嫌だ。


「外交官でも、不必要なほど身体を鍛えている奴がいるではないか」


 ショウは外交官の全員を知っているわけではないが、文官なのに武術に長けている人物なんていたかな? と首を傾げる。


「お前は本当にボンヤリだなぁ。文武両道のバッカスがいるではないか」  


「バッカス外務大臣ですか!」


 ショウも新婚旅行から帰ってきて、新しくバッカス外務大臣が任命されたと聞いて驚いたのだ。


「新任の大使との引き継ぎがあったので、未だレイテには着いてないが、出航までには間に合うだろう」


「そんなぁ、外務大臣なんて……外務大臣は王宮でするべき職務があるのでは……」


 ショウの抗議など歯牙にもかけず、アスランは執務室から出て行く。カリンもバッカス大使には会った事があるので、遠征に同行するのかと渋い顔をしたが、旗艦に乗船するのだろうと、どこか他人ごとだ。


「カリン兄上、こんなの無茶苦茶です。外務大臣が遠征に同行するなんて、変でしょう。あっ、旗艦では無いから、大丈夫だと思ってるのですね、酷い~」


 渋るカリンをフラナガン宰相の執務室まで連れて行って、バッカス外務大臣を遠征に同行させるのを止めるよう一緒に説得して貰おうとする。


「ふ~む、バッカス外務大臣なら遠征でも大丈夫でしょう。彼は竜騎士として、武術も優れていますからね。それに、未だ私も外務大臣の不在をカバーぐらいできそうですし」


 ショウはバッカスを外務大臣になど父上が任命する訳がないと思っていたので、フラナガン宰相がベスメル内務大臣に嫌がらせ人事をしたのだと疑っていた。


「フラナガン宰相、今からでもまともな外務大臣を任命しなおしましょう。バッカス外務大臣が王宮にいたら、父上は寄り付きませんよ。遠征に同行させても、一時凌ぎにしかなりません」


 フラナガン宰相はマルタ公国へ赴任する前のバッカスしか知らなかった。元々、変な話し方だとは感じていたし、報告書からマルタ公国で趣味を隠さなくなったとは知っていたが、アスラン王が此処まで苦手だとは思っていなかった。


 確かに王宮にアスラン王が居着かなくなっては困るが、ベスメル内務大臣は軍事に弱く、ドーソン軍務大臣は外交センスが無い。バッカスを外務大臣に任命したのは、確かにベスメル内務大臣を牽制する意味もあったが、能力を買ったからでもある。


 フラナガン宰相は話をバッカス外務大臣の任命の件から一旦逸らす。

 

「アスラン王は本当は御自分で遠征に行きたい筈です。ショウ王太子に遠征を任せる為に、どれほど我慢されてることか」


 ショウも父上が自分に花を持たせようとしているのは感じている。ショウがその件では無くと言い出す前に、フラナガン宰相はバッカス外務大臣を同行させる理由を畳み掛ける。


「ですから、バッカス外務大臣を受け入れる気分になられるまで、少し距離を置いた方が宜しいのです。バッカスは外交官として優秀ですし、軍事にも明るい希有な人材なのですが、誤解を自ら招くような振る舞いをしています。マルタ公国ならそれで通用しますが、レイテではそんな気儘な態度では外務大臣としてやって行けません。彼にとっても遠征は気持ちを切り換える機会になりますよ」


 口でフラナガン宰相を言い負かすのはショウには無理だった。


「それにドーソン軍務大臣とベスメル内務大臣、二人とも細かい帳簿仕事は得意ですが、外交センスはありません。軍務大臣や内務大臣とはいえ、海洋国家の東南諸島の大臣が外交センスが無いのは困ったものです。今は私がいるのでフォローできますが、軍事や内務に優れた外務大臣を任命する必要があったのです」


「確かにバッカスは文武両道に秀でているけど……」


 遠征にバッカス外務大臣を同行させるのを止めさせて貰いに来たのに、逆に何故任命したのか説明されてしまっている。


「バッカス外務大臣が能力的に優れているのは認めますが、父上は王宮に居着かなくなりますよ」


 問題の根本は此処でしょうと、ショウは古狐のフラナガン宰相にもう一度考え直すようにと粘る。なかなかしぶといと、フラナガン宰相はにっこりと笑う。


「だから、ショウ王太子には遠征中にバッカス外務大臣の変な行動を注意して、アスラン王が我慢できるように指導して貰わなくては。彼はアスラン王を崇拝しておりますし、どうやらショウ王太子も好きなようですから、耳を傾けるでしょう」


 ショウはやはり古狐のフラナガン宰相が笑うとロクなことがないと実感する。


 

 フラナガン宰相にバッカス外務大臣を遠征から外すように説得しに行ったのに、反対にあの趣味を遠征中に上手く隠すように説得しろと命令されて、ショウはウンザリしながら執務室を後にした。


 カリンはフラナガン宰相に遠征に参加したいと希望を口にしたが、その件はドーソン軍務大臣にと簡単にいなされてしまった。


 二人でフラナガン宰相の古狐! と内心で罵りながら、その古狐が居ないと留守がちの父上ではまともに政府が機能しなかったのも事実なので悄々と撤退する。



 ショウの執務室で、カリンはドーソン軍務大臣に直談判してくると息巻いたが、チェンナイの造船所の件も進めてくれと宿題を出す。


「軍艦をレイテより安く製造できるし、チェンナイの発展にも繋がる。ハッサンとも話し合ってくれ」


 あまり仲が良いとは言えないカリンとハッサンが協力して、軍艦造船所を建設するのは良いとは思うが、二人で話し合いを持ってくれないと困る。


「この件はラジック兄上に調整して貰いたいですね。私は遠征の準備もありますし……」


「ラジックはチェンナイの総督なので、さっさと帰ったぞ。ハッサンはレイテにいる妻の何人かをチェンナイに連れて行くとかで、準備もあるので残っているのだ。第一、お前がアイデアを出したのだ。軍艦造船所だから国からの出資だけで建設するつもりなのか?」


 ショウはできれば一般からも出資を集めるつもりだった。


「なら、余計のことお前が出資の説明をしなくてはいけないじゃないか。私やハッサンでは商人達も出資すのを控えるかもしれない」


「そんなぁ……」


 頼んだぞ! と肩を叩いて、カリンはドーソン軍務大臣に遠征に参加させて貰おうと直談判しに行った。

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