第19話 ララとの結婚式
ショウの成人式は盛大に行われ、宴会は夜遅くまで続いた。
招待客達は、ショウと他の王子達が、本当に仲が良いのに驚いた。何人かは、末の王子が王太子に選ばれて、兄達は不満を抱いているのではと、策略を巡らす種があるかもしれないと考えていたのだ。しかし、宴会でも接待を手伝ったり、酒を勧めたりと、ショウの成人式を祝う気持ちが現れていた。
「東南諸島の宴会って、次々と料理が出てくるのね」
お腹いっぱいになったロザリモンドは、スチュワートにこれ以上は一口も食べないと宣言したにもかかわらず、一口大のデザートがフルーツや花と共に大皿で運び込まれると、ついつい手を伸ばして笑われた。
「このココナッツ団子は、是非とも味見して下さいね。とても美味しいのです」
許嫁達もそれぞれ接待を続け、特にララは控え目なリリアナが慣れない宴会で疲れないように気をつかった。
リリアナは、勧められた小さな器に入ったココナッツ団子を食べて、とても美味しいと微笑む。新婚のフィリップは、リリアナがララと仲良く話しているのに安心する。
「ショウ王太子は接待も上手ですね」
アレクセイは、ロジーナがミーシャに優しく接しているので、ホッとして義理の兄弟になるフィリップに話しかけた。
「ええ、とても行き届いてます。ショウ王太子の周りには、良い人材が集まってますね」
そう言うフィリップの学友達も優れていると、アレクセイは少し羨ましく思い、次代の皇太子には自分より楽な道を歩ませてやりたいと願った。
ララとリリアナは、二人で明日の結婚式について話していた。
「東南諸島では結婚式は地味なのですよ。花嫁が夕刻に花婿の屋敷に着いたら、海の女神と風の神に捧げ物をして祈るだけなのです。宴会もありませんが、花嫁衣装は着ますわ」
リリアナはどのような花嫁衣装かしらと聞き、ララは嬉しそうに耳元で教えてあげる。
宴会は自然解散になり、少しずつ人数は減っていった。外国の招待客が退席すると、許嫁達も宴会場を後にした。
やっとピップスやシーガルやワンダーなどの気楽な友達と話せたショウは、ホッとして一息ついた。彼等は、ショウが王位に就いた時の支えとなる人材でもあった。
重臣達も退席して、若い連中や、ショウと個人的に親しい人だけで集まってワイワイ騒ぐ。ショウは、カインズ船長に商船隊を組もうと思っていると切り出した。
「商船隊かぁ! そいつは豪儀だぜ!」
酒をかなり飲んだカインズ船長は、ばんばんとショウの背中を叩いて喜びを表す。
「カインズ船長! かなり酔っておられますね」
ピップスは、カインズ船長をショウから引き離した。
「今夜は話し合うのは無理みたいだなぁ。ピップス、悪いけど送ってくれないか?」
カインズ船長は酔ってなど無いと言い切ったが、ピップスに支えられて退出していった。
それを切っ掛けに、宴会はお開きになった。招待客が帰った王宮では、召使い達が後片付けを静かにしている。
ショウは少し酔いが残っていたので、風に当たろうと新しい離宮の竜舎へ向かった。
『サンズ? もう寝た?』
サンズにはショウが王太子になろうが、なるまいが興味は無かったが、絆の竜騎士のお祝い事だとは知っていた。
『ショウ、おめでとう』
ショウは本当にお目出度いのかは疑問だなと、肩を竦めた。
『父上の後継者だなんて……今でもこき使われているけど、一生暇とは縁の無い生活になりそうだよ』
そしてショウとサンズは、新婚旅行の打ち合わせをして別れた。
結婚式の朝、というより昼近くに、ショウは起きた。離宮には後宮部分が中庭を挟んで配置されていて、ララの新居になる部屋には既に家具や衣類などが運び込まれている。
ショウは何人かの女官と侍女達が床を磨き立てたり、花瓶に花を飾ったりと、花嫁がいつ到着しても良いように怠りなく準備しているのを見ると、ララと結婚するのだと実感が湧いてきた。
「そろそろ、ショウ王太子もお着替え下さい」
侍従に声をかけられて、ショウは離宮の浴室へと向かった。
花婿側はのんびりしていたが、カジムの屋敷では嫁にいった姉達も帰ってきて、あれこれと大騒ぎになっていた。
「ララ、嫁にいくんだな……もう、ミミしか残ってないのに、見習い竜騎士を目指すとかで、屋敷にはいないし」
カジムは、ララが嫁に行ってしまい寂しくなると、朝から涙ぐむ始末で、娘達に呆れられた。お別れ会を兼ねた昼食をゆっくり食べて、少しララは父上と庭を散歩して娘時代に別れを告げた。
「ショウ王子との縁談が舞い込んだ時には、王太子になるとは考えてなかった。息子がいない私の跡取りとして、この屋敷の離れで暮らして貰おうと思っていたのだ」
ララは海風を胸一杯吸い込むと、少し白髪が目立ちだした父上に微笑みかけた。
「父上、私はショウ様が大好きなの。後宮に入れば、気儘に里帰り出来ないけど、お身体に気をつけて下さい」
カジムはララを抱きしめて、元気で過ごすのだよと泣きながら言う。
「何時までも、そんな事をしている場合では無いわ。ララ、支度を始めますよ」
カリンの第一夫人になったラビータも帰ってきて、娘と父親の別れを見守っていたが、埒があかないと手を引いて屋敷へと連れ帰る。
薔薇の香油の入ったお風呂で念入りに身体を洗い清めて、足の爪先から頭のてっぺんまで磨き立てる。
「とても良く似合うわ」
ラビータは花嫁衣装を着付けると、娘が幸せになるように祈りを込めてキスをした。
「いつも白を着ているから、変な感じだわ」
「ララ、とても綺麗よ」
姉達や母の賞賛と祝福を浴びて、ララは恥ずかしそうに頬を染める。
東南諸島の花嫁衣装は赤色で、金糸で刺繍が施してあった。ベールも透き通る程薄い赤い絹で、縁に金の飾りが縫い付けてあり、風に揺られてチリチリと涼しげな音を立てる。
ミミは姉上の花嫁姿を綺麗だと心の底から思えてホッとした。
「姉上、お幸せに……」
ララはミミはショウの愛を争うライバルではあるが、やはり可愛い妹だと抱きしめてキスをした。
夕方、花嫁を乗せた輿が、ゆっくりと王宮へと向かった。昨日の豪華な成人式に比べて、花嫁と父親だけの簡単な嫁入りだ。
ショウの新しい離宮は、此処で生まれたカジムには見覚えがあった。
「ララ、とても綺麗だよ」
赤い薄い絹のベール越しにララの顔がうっすらと見えた時から、ショウは他のことが頭から消えてしまった。
「ショウ王太子、娘のララを宜しくお願いします」
ララをショウに手渡して、カジムは屋敷へと帰っていった。
二人はお互いに夢中だったが、女官に結婚の捧げ物を渡されて、離宮の海岸へと向かう。
夕日が沈んだ名残を見つめながら、ショウは飾られた葉っぱの船をララに手渡した。ララは女官の持っているお盆から、花、果物、米、お菓子を船に綺麗に乗せていく。
「ショウ様が海で食べ物に困らないように、海の女神様にこの船を捧げます。風の神様、ショウ様を私の元に連れて帰って下さい」
ララは風に花びらを捲き、海に葉っぱの船を浮かべた。
ショウは侍従から酒樽を受け取ると、勢いよく酒を捲き、残りを海に全部注いだ。
「海の女神、風の神よ。私はララを娶ります。末永く幸せに暮らせますように」
ショウはララを抱き寄せてキスをした。
王宮の海岸から様子を見ていたアスランとミヤは、どうやら無事に結婚の誓いが済んだようだと微笑んだ。
「兄上を慰めに行って来よう」
ミヤはショウがララと新婚旅行を計画しているのを察していたので、アスランを逃がす訳にはいかなかった。
「私もお供しますわ、娘のラビータも屋敷にいると聞きましたから」
アスランはミヤが絶対に自分から目を離さないつもりだと悟った。
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