第12話 ミミへのプロポーズ
中型のマスカレード号は、ショウの風の魔力もあり、順調にメーリングに寄港した。ショウは立派なメーリングの港湾施設を眺めて、何年か後のレイテの埋め立て埠頭が完成した風景を頭に描く。
「月曜日には出航できるように、準備しておいてくれ」
ヤング艦長は承知しましたと、副官に水や食糧の補給を監督しておけと命令して、ショウと共にサンズと領事館へ向かう。
「ショウ王子~!」
階段を転げ落ちそうなタジン領事に熱烈歓迎されて、今夜は宴会だなぁと溜め息をショウはついた。
「突然の訪問ですが、何か……」
イルバニア王国がマルタ公国と海戦になるのではと、タジン領事が心配そうな顔をしたので、慌ててニューパロマに行く途中でエリカとミミの様子を見に来たのだと言い繕う。
丁度、金曜日にメーリングに着いたので、ショウは領事館でミミに手紙を書いて届けて貰った。リューデンハイムの学友達との予定もあるかな? と心配していたが、土曜の午前中には大使館へ外出で行くと、弾んだ文字で返事が返ってくる。
宴会好きのタジン領事に、ヤング艦長達ともてなされながら、ミミになんて言おうかと悩む。
「さぁさ、お酒でも飲んでパァッといきましょう」
ショウが浮かない顔をしているので、タジン領事は酒を勧める。ショウは何と言ってプロポーズするか、全く思いつかずモヤモヤしていたので、何時もはセーブして飲んでいたのに、勧め上手なタジン領事が注ぐ酒をつい調子に乗って飲んでしまった。
「ちょっとタジン領事、拙いですよ。ショウ王子は、完全に酔っ払っています」
真っ赤になったショウは、ふらふらと身体を支える事もできず、ヤング艦長にもたれかかって眠ってしまう。
「お酒にこれほど弱いとは……」
タジン領事は体格の良い護衛に、ショウを部屋まで抱いていかせる。
「あいたたた……」
二日酔いで目覚めたショウは、全くプロポーズの言葉も考えてないのにと困惑した。兎に角、酒臭いままでは拙いだろうと、召使い達に熱い風呂を用意して貰う。
熱い風呂に浸かって、酒臭さを抜きながら、ショウはミミへのプロポーズの言葉を考えたが……全く思い浮かばない。ミミへのプロポーズが考えられないのは、まだ自分がララの妹を娶る決意ができていないからだと、ショウは気づいた。
「ララはミミが僕の許嫁になったのを嫌だとは言ったけど、妹を泣かさないで欲しいとも言ったんだよなぁ……」
自分よりララの方が複雑な心境なのは、ショウにも理解できた。ララが許嫁になった時は10歳だったし、本当に食べさせていけないから無理だと思っていたけど、パロマ大学に留学したり、ゴルチェ大陸の測量の間ずっと手紙のやりとりをして、ララと結婚するんだと決心がついた。
あの頃はララとだけ結婚するつもりだったし、落ち着いたほんわかした家庭がつくれるかなぁと思っていた。ミミは妹として接していた時期が長いから、どうも気持ちが切り換えられない。
活発で話しやすいミミのことは好きだったが、ララの妹としてずっと見ていたので、何だかいけないことをしているような気分になる。うだうだ悩んでいても仕方ないと、ショウはお風呂から上がって、ミミに会いに行こうと決意した。
「会って、まだプロポーズの言葉が浮かばなければ、時期が早いということなんだ。ミミには悪いけど、嘘のプロポーズをするより良いと思う」
アスランが聞いたら、馬鹿か! と怒鳴りそうな結論を出して、ショウはサンズとユングフラウへ向かった。
「ショウ様、お久しぶりです」
ユングフラウの大使館で出迎えてくれたミミが、大人びて見えてショウは驚いた。13歳になるミミはカミラ大使夫人にお願いして、裾の長いドレスにして貰っていたのだ。
リューデンハイムの予科生の制服は灰色のあっさりとしたワンピースだったが、これもカミラ大使夫人に足首まで長くして貰っていた。グッと女らしくなったミミにショウは驚いた。
「ミミ、綺麗になったね」
先日、ローラン王国に訪問する前に寄った時は、宿敵のロジーナがいるせいかチクチクしたところが目についたが、エリカが午前中はウィリアム王子と竜で遠乗りに出かけて、独り占めできるチャンスを最大限に生かそうとしていたのだ。
新しい大人っぽいドレスだが、ショウが結い上げた髪型が好きではないので、一部をアップして髪をカールして下におろしている。
「ショウ様に綺麗だと言われたの、初めてだわ」
ミミは本当に7歳の時に初めて見た時から、ショウが大好きだったのに相手にされてこなかった。だから、ほんの一言の褒め言葉に、キュンと胸が締めつけられる。
「ミミ……」
ショウは自分がどれほどミミの気持ちを蔑ろにしていたのか気づいた。ポケットから指輪を取り出して、ミミの指に嵌めて『紅玉』と唱えた。
ミミは指に嵌められた指輪が輝きよりも、婚約者としてやっと認めて貰えたのが嬉しくて涙を零す。
「ミミ、ごめんね、不安にさせて。僕にはミミを幸せにできるか、よくわからなかったんだ。でも、頑張ってみるから、結婚しよう」
めためたなプロポーズだったが、ミミには最高の言葉だった。
「嬉しい!」
お淑やかな大人っぽい猫の皮を脱ぎ捨てて、ショウにぎゅっと抱き付いたミミにかなわないなぁと溜め息をついて、そっとキスをして黙らせる。
お茶の時間には、エリカもウィリアムと帰って来て、四人で和やかに会話を楽しむ。
エリカとウィリアムはショウが見てもラブラブで、相変わらず竜馬鹿気味の会話にも楽しそうに話を合わせているのがわかった。
ウィリアムが外泊を許されていない予科生のエリカをリューデンハイムの寮に送って行くのを見送って、ミミともう少し大使館の庭を散策する。
「エリカとウィリアム王子は、何時の間にあんなに仲が良くなったんだ?」
ミミは、エリカが竜の乗り方が下手なのを見かねて、ウィリアムが教えているうちに仲良くなったのと笑いながら答える。
「エリカは運動神経が良い方だと思うけど……」
ミミは、やはりショウ様はこの方面は駄目だなぁと溜め息をつく。でも、こういう所も大好き! だと胸がキュンとする。
「エリカ様はウィリアム王子が気に入ったから、わざと下手に乗ったのよ。ウィリアム王子は竜馬鹿だから、そんな下手な騎竜をしてはヴェスタが可哀想だと怒られて、教えることになったの。後は、エリカ様の手の内だわ」
ショウは、王家の女の恐ろしさの一端を見た気分になる。
「まぁ、お互いに気に入ってるなら、僕は良いけどね……」
確かに顔は端正だけど竜と武術にしか興味のないウィリアムには、エリカがとったアプローチの仕方しかなかったかもと肩を竦める。
そんなことよりと、ミミにお別れのキスをせがまれて、自分も手の平で躍らされているのかもと溜め息をつく。
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