第11話 プロポーズ大作戦 part2?

 自室で地図を広げて、ショウはメーリングまでの飛行ルートを考えていた。


「でも、ユングフラウからニューパロマまでは、ひとっ飛びとはいかないなぁ。途中で一泊するのかぁ」


 帰りのニューパロマからはどうしようかと悩んでいたら、父上が顔を覗かせた。机の上の地図を見て、やれやれと溜め息をつく。


 アスランは、本当にショウはザル頭だ! と呆れる。何度、軍艦を使えと言えばいいのかと溜め息をつきたくなる。


「まさか、一人でサンズと飛んで行こうと、思ってるんじゃあないだろうな?」


 ショウは父上は何時もそうされているのに、どこが問題なのかわからない。


「馬鹿か! お前みたいなヘナチョコが、一人で外国に行くなんて許可できるか」


 ショウはプライベートな旅なのに、軍艦で行くのに抵抗を感じている。


「ちょこっと行って来るだけですよ。大使館付きの竜騎士も、島伝いにレイテへ報告書を届けているでしょ」


 ふ~と、深い溜め息をついて、アスランは竜騎士を誘拐しても何も利益はないが、お前は王子だとの自覚が無いのかと怒鳴りつける。


「それに大使館付きの竜騎士は、剣の腕も一流だ。お前が王宮にいる竜騎士に勝てれば、サンズと行くのを認めても良いがなぁ」


 ウッと、ショウは痛いところを突かれて黙る。ショウもかなり腕をあげてはきていたが、武官の竜騎士に勝てるかと聞かれると、ちょっと自信がない。


 軍艦でプロポーズに行くのはちょっと違う気がして、ぐずぐずしているショウをアスランは呆れる。


「父上は、若い時からメリルで勝手にあちこち行っていたのに……」


 まだ諦めてない愚痴を聞き咎めて、お前みたいにヘナチョコじゃなかったからなと、拳骨が落ちてきた。


「それに私が王子だと、顔も知られていなかった。お前は王太子として顔が売れているし、今ほど東南諸島に興味が持たれてなかったからな。あっ、ダリア号で行っても良いが、護衛艦を付けるから一緒だぞ。マルタ公国に、身の代金など支払いたくないぞ」


 ショウは良い機会なので、父上にマルタ公国について考えを聞く。


「父上、ジャリース公はあのままで良いのですか?」


 アスランは、プロポーズもしてないくせに生意気だと、ゴツンと拳骨を落とした。


「お前みたいなヘナチョコに言われなくても、ジャリースが調子に乗っているのはわかっている。我が国の商船を襲わなければ、此方が何もしないと勘違いしている。イルバニア王国の一部のアホどもは、海戦を仕掛けようとしているが、グレゴリウスは戦争の悲惨が身に染みているから必死で抑えようとしているがな。若い世代や、前の戦争に参戦していない馬鹿は、ローラン王国に勝利した事しか覚えて無いのだろう」


 ショウは歴史で習っただけだが、ローラン王国との戦争での死傷者の数を知っていたので、グレゴリウス国王が戦争を回避したがる気持ちは理解できた。


「ではイルバニア王国も商船隊に護衛艦を付き添わすのですか?」


 アスランはその護衛艦が海賊に勝てるかわからないがなぁと、溜め息をつく。


「足の遅い商船を護衛するのは、軍艦で海賊討伐するより難しいぞ。マルタ公国の海賊の中にも、数名は風の魔力持ちがいる。全部の商船を襲わなくても、1、2隻分捕って風の魔力で逃げれば良いのだからな」


 ショウは、イルバニア王国の竜騎士を護衛艦に乗せれば良いのではと口に出した。


「海賊船の追跡もできますし、火矢を使えば足止めもできるかもしれません」


 アスランはイルバニア王国の竜騎士の能力は買っていたが、どうかなぁと首を捻った。


「常に竜騎士を護衛船に乗せておくのは無理ではないか? 海岸線のパトロールも強化しているし、商船より領地を襲われる方が被害が大きいだろうからな。言っておくが、余計な知恵をイルバニア王国に付けるなよ。あの国と海の覇者の地位を争うことになりたくないぞ」


 大きな領地を持つイルバニア王国は、第一に領地の安全を護る事を考えるので、ヘッジ王国との沿岸部や、アルジエ海に面している海岸線は竜騎士隊が定期的にパトロールしなくてはいけない。


 カザリア王国の貧しい北西部と違い、収穫量の多い地区なので、各領主が物見櫓を造り、竜騎士隊に危険を知らせるシステムを作り上げていた。


 イルバニア王国の海軍を強くしたいわけではないので、ショウも余計な事は言わないと父上に約束する。


「ところでエリカは……」


 ジロリと睨まれて、前は任せると言ったくせにと内心で愚痴る。ウィリアム王子に好意をもっているのか、ミミにプロポーズした後に会えたら聞いてみようと考えた。


「本当はメリッサに先にプロポーズするのが、本筋だけどなぁ」


 レイテから東航路でニューパロマに向かって帰りにユングフラウに向かう方がスンナリ行くとショウはブツブツ言う。


「中型艦のマスカレード号で、東航路は航行するなよ」


 メルトは中型艦のエルトリア号で東航路を航行しているじゃないですか、というショウの抗議はスルーされた。


「カドフェル号が出航できるなら東航路を航行しても良いぞ。それに、順番が気になるならニューパロマに行ってから、ユングフラウへ行けばいいだろう」


 何だか変だと抗議するショウに面倒臭そうに、どちらからでも同じだろうと言い残して、アスランは部屋から出て行った。 


 ショウは結局マスカレード号で、メーリングに向かうことになった。カドフェル号のレッサ艦長は例によってドーソン軍務大臣に報告書を提出したり、もろもろの事務仕事をさせられていたのだ。


 マスカレード号のヤング艦長とは、ゴルチェ大陸の測量の時に何度か顔を合わせていたので、ショウは久しぶりだと挨拶を交わす。


「ショウ王子、ご立派になられましたなぁ」


 ヤング艦長は潮焼けした顔を、クシャとして挨拶を受ける。


「メーリングに向かった後は、レキシントンですな」


 あれこれ悩んだショウは、長居したくないユングフラウを先にすることにした。


「自分がユングフラウに滞在していることを知られたくないから、ミミが大使館で休暇を取る週末に着くようにしよう」


 ショウは父上に東航路を禁止されたが、中型艦なので久しぶりにプリウス運河を通行できるなと楽しみにする。


「プリウス運河の二次工事は、進んでいるかな?」


 ヤング艦長は少し眉をしかめた。


「なかなか大型船は通行できそうにありませんなぁ。それに近頃は船の調査が厳しくて、通行手続きが時間がかかるのです」


 ショウはマリーゴールド号がペィシェンス号と偽装してプリウス運河を通行したので、チェックが厳しくなったのだなぁと溜め息をつく。


 こうしてプロポーズ大作戦part2がやっとこさ始まった。

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