第11話 救出

 ゾルダス港の視察から帰ったショウは、アレクセイと造船所建設について話をしてから大使館へ帰った。先にロジーナはアリエナとお茶を済ませて帰っており、寒かったでしょうと出迎えてくれる。


 王宮も前よりは廊下にも暖房がしてあったが、やはり大使館の暖かさにショウはホッとする。リリック大使は気をきかして、二人っきりにしてくれたので、暖炉の前で暖かいチャイを飲む。


「アリエナ妃と何を話したの?」


「アレクセイ皇太子との出会いをお聞きしたの。とっても、ドラマチックだったわ。アリエナ妃は本当はカザリア王国のスチュワート皇太子との縁談で、ニューパロマに行かれたのだそうよ。でも、亡命中のアレクセイ皇太子に一目惚れしてしまって、とても困られたみたい」 


 ショウはロジーナと寛ぎながら、今日の出来事を聞く。


「困るどころの話じゃないんじゃない?」


 イルバニア王国とカザリア王国は同盟国なのに、そのスチュワート皇太子と第一王女のアリエナ王女とのお見合いの席で、アレクセイ皇太子に一目惚れだなんて、大騒動だったろうなとショウは苦笑する。


「凄く揉めたみたいだけど、スチュワート皇太子は妹のロザリモンド王女とお互いに一目惚れだったし、どうにか丸くおさまったみたいね」


 ロジーナがその後の遠距離恋愛のエピソードを話しているのを、ショウはあの憂愁のアレクセイがそんなロマンチックなことをされたのかと笑いながら聞く。


 帝国風のドレスも、ロジーナは似合うとショウは微笑むが、此方ではドレスアップしたら、髪の毛も結い上げてしまうのが、ちょっと残念に思う。髪フェチのショウとしては、たまにはアップも良いけど、下ろしてある方が好きだ。


「ねぇ、髪の毛をほどいて良い?」


 パチパチと薪のはぜる音を聞きながら、ショウはロジーナの綺麗にアップした髪の毛を解きだす。今日のロジーナの髪をセットしてあるヘアピンには小さな真珠が付いていて、ショウは無くさないように気をつけながら一本ずつ髪の毛から抜いていく。


 ロジーナはパラリと落ちる髪の毛に、変な格好になっていないか少し不安だったが、髪フェチのショウの好きにさせて、肩に寄りかかる。


「何本のピンでセットしてあったの? 髪の毛をアップするのって、頭が重くないの? こんなに長くて綺麗な髪なのに、纏めるの勿体ないよ」


 ショウはやっとピンを全部抜いて、腰まである髪の毛を指ですき下ろして、滑らかな手触りにうっとりする。ロジーナとクスクス笑いながらキスを繰り返して、夕食まで二人っきりの時間を楽しんだ。


「あのまま夕食だと呼びに、侍女が来なかったら……」


 大使夫妻と夕食のテーブルについて、ロジーナはせっかくの楽しい時間だったのにと内心で愚痴る。ショウもあのまま侍女が呼びに来なかったら、抜き差しならない関係になったのかなぁと思いながら苦笑する。


 リリック大使は今までの世話焼きの大使より、放任主義だなぁとショウは感じていたが、自分が少しずつ大人として扱われているのに気づいてなかった。


 ロジーナは何時もショウの側にピッタリくっついているピップスがいないのはチャンスだと、夜這いをかけてみようかしらと、天使のような笑顔を浮かべる。


 しかし、そうはロジーナの都合の良い展開にならなかった。


 カドフェル号に連絡係として置いてきたピップスが、夕食の席に飛び込んで来たのだ。


「ショウ様、少しお話が……」


 ショウとリリック大使が書斎に籠もってしまって、ロジーナは大使夫人とつまんないなぁと愚痴りながら、デザートを食べることになった。


「う~ん、海賊が難民達を匿っているアジトに、僕達が乗り込むのは拙いよね」


 当たり前ですとリリック大使は、さぁどうされますか? と、ショウ王子に対応策を任せる。東南諸島にとって海賊船は問題だったが、難民達を騙すパターンの海賊はさほど重大な被害をもたらさなかったので、若い王子に任せても大丈夫だとリリック大使は考えたのだ。


「ゾルダス港のアジトの取り締まりは、ローラン王国に任せた方が良いと思う。港に碇泊中の船舶への乗り込み調査も、僕達がするのは筋違いだ。アレクセイ皇太子にアジトの場所を教えて、僕達は港を出ようとする船を止める手伝いぐらいで良いんじゃない?」


 一歩引いた立場での協力を口にしたショウに、リリック大使は満足そうに頷く。


「アレクセイ皇太子に、至急に知らせて下さい。僕もカドフェル号に行きます。何か手伝える事があるかもしれないので」


 リリック大使は王子自ら海賊船の足止めに参加しなくてもとは考えたが、寒いので風邪など引かないで下さいよと送り出す。




 アレクセイ皇太子が海賊達のアジトに刑吏達を向かわせていた頃、カドフェル号でショウはピップスと港を出航する船がいないか見張っていた。


 港に碇泊している船舶をローラン王国の港湾管理人達がもたもたと調べているのを、非効率だなぁと眺めていると、レッサ艦長が気になる事を報告する。


「夕方、一隻出航した船があったのです。ペイシェンス号というイルバニア王国の商船なのですが、普通は商船は夕方に出航しないものなので気になっているのです。今日、何頭もの竜がゾルダス港に来たので、後ろ暗い所があるから慌てて出航したのか、単に港が凍り付くのを恐れて夕方でも出航したのか、判断に迷うところですなぁ」


 東南諸島連合王国の海軍としては、ゾルダス港の中では海賊行為が目の前で行われていない限り、何も手を出せないのを苛ついていた。


「レッサ艦長、ローラン王国の港湾管理人達の臨検が見てられないのだろう。あれでは、書類上に不備がなければ、難民達が船倉に詰め込まれていても気がつきそうに無いからなぁ。あっ、アレクセイ皇太子達が海賊のアジトの摘発を終えて、臨検に乗り出したぞ! 竜騎士や武官を連れての船内調査なら、難民達も見つかるかな?」


 レッサ艦長は、陸軍や竜騎士に船の構造の何がわかるのでしょうねと肩を竦める。しかし、かなり本格的に船内調査をしているみたいで、船長や乗組員達と揉めているのがカドフェル号からも見て取れた。


「レッサ艦長、東南諸島の商船ベルガ号から、信号が届いてますよ。援助を求めてますが、どうされます?」


 副官のクレイショー大尉の報告に、レッサ艦長もショウも顔を見合わせる。自国の金儲けが大好きな商人なら、マルタ公国に売り飛ばすような非道なまねはしなくても、小金を稼ぐ為にメーリングまで密航させるぐらいはやりそうだと思った。


「自国の商船からの援助要求を、無視するのは駄目だよねぇ。あの慌て方は、密航させていた難民が見つかったのだろう」


 やれやれとショウとレッサ艦長はサンズとベルガ号に向かう。


 甲板にはアレクセイ皇太子達が、船長や乗組員達を並ばせて厳しく尋問していたし、隅の方には十数人の難民が小さく固まって震えている。ベルガ号のバーニー船長は、レッサ艦長に自分は全く身に覚えがないと言い張ったが、一人や二人なら乗組員が船倉に隠していたとの弁解も通るかもしれないが、二十人ちかくの密航者に気づかないわけがないとショウも呆れる。


「アレクセイ皇太子、バーニー船長が関与していないとは思えませんね。ただ、私としては小金欲しさに、メーリングまで乗せただけだと信じたいです」


 アレクセイも、ベルガ号がマルタ公国に難民達を売り飛ばすとは思ってない。何故なら、甲板の隅で震えている密航者の中に若い娘などいなかったからだ。


 女が何人かいたが、中年と年寄りでマルタ公国で売り飛ばすには難がありそうだと眺めていたのだが、その中に難民とは思えない身なりの一団を見つけ出す。


 ショウも、あれっ? と変に思いアレクセイと顔を見合わせる。


「そこの男を、連れて来なさい」


 アレクセイは、刑吏に難民達の中に身を潜めている身なりの良い一団の男を連れて来させる。


 無精髭を生やし、コートはヨレヨレになってはいるが物は良さそうだったし、風呂に入っていないので薄汚れてはいたが手も労働者の手ではない。卑屈なまでに小さくなっている男に、アレクセイは不審を覚えて、名前や住んでいた場所を尋ねたが、ブルブル震えるばかりで黙秘を続ける。


 ショウはその男の家族らしい一団に近づいて、寒さに震えている一番小さな男の子を抱き上げて名前を聞いた。


「ジェシー・フォン・ヘンダーソン」


 暖かな外套に包み込まれて、ホッとしたのか小さな声で答えた男の子に、兄らしい少年が怒鳴りつけた。


「馬鹿! 答えるんじゃない!」


 アレクセイはヘンダーソンと聞いた途端、目の前の男がマルコイ卿だと悟った。仮にも下級とはいえ官僚だったとは思えない惨めな姿に驚いたが、そんな事よりミーシャの消息を聞きたかった。


「ミーシャは何処にいるのだ!」


 ビクンと身を縮めた父親を見てられなくて、先ほど弟を怒鳴りつけた少年が庇う。


「ミーシャは修道院だよ」


 アレクセイは修道院にはいないのは確認済みだったが、子ども達の前での尋問は中止して、港湾管理の事務所へと移動する。


 ショウはあの惨めな一団がヘンダーソン家なのかと驚いたが、ミーシャの消息が気になった。


 ベルガ号の船長も港湾管理の事務所に引っ張られて行ってしまい、残された難民達も小船でゾルダス港へと移動させられた。


「俺達はどうなるんでしょう」


 今頃になってすがりついている乗組員達をレッサ艦長は、ローラン王国の法で裁かれるだろうと厳しく突き放す。


「裁判官の心証を良くしたいのなら、難民達から受け取った金を返すことだな」


 ショウ王子の言葉に不満そうな乗組員達に、レッサ艦長は手の付けようのない馬鹿者だ! と怒鳴る。


「ショウ王子の命令に従えないなら、勝手にするが良い。冬中、ローラン王国の牢屋に入れば、お前達の頭も冷えるだろう」


 ショウ王子と聞いて乗組員達は、ひぇ~と頭を下げる。


「金は返します! どうか、お許し下さい。ショウ王子とは知らなかったのです」


 後はローラン王国の刑吏に任せて、ショウとレッサ艦長はカドフェル号に帰った。


「僕って、評判悪いのかなぁ~? あんなに怖がらなくても……父上が怖いから、僕も怖がられているのかな?」


 レッサ艦長は、ショウ王子が王太子として名前が知られてきているからですよと笑う。


「それにしても、ミーシャ姫は何処なのかなぁ? マルコイ卿が本当に修道院に預けたのなら良いのだけど……」


 ルドルフ国王が修道院にミーシャを閉じ込めて無いのは確かだが、自分達が夜逃げをする前にマルコイ卿が修道院に預けたとも思えなかった。


「年老いた母親を置き去りにしたぐらいだから、真剣に夜逃げしなくてはいけない理由があったんだ。借金だけじゃなく、まさかミーシャ姫を借金の形に売り飛ばしたのか?」


 ルドルフ国王の庶子を売り飛ばしたとすれば、あの卑屈な態度や名乗りもしなかったのが理解できる。


「レッサ艦長! 夕方、ゾルダス港を出航した商船を追って下さい! ミーシャ姫をマルタ公国で売り飛ばすつもりかもしれません。ピップス、アレクセイ皇太子に怪しい船を追跡すると伝えてくれないか」


 ペイシェンス号にミーシャが乗せられているかどうかはショウにはわからなかったが、慌てて出航した様子が気に掛かる。レッサ艦長も怪しいと思っていたので、出航準備を急がせる。


「夕方に出航したのに、追いつけるかな? メーリングまではイルバニア王国の沿岸添いに航行しますよね」


 レッサ艦長は、商船に追いつけない軍艦はないと笑う。


 ゾルダス港をカドフェル号が出航しようとした時、ピップスがぎりぎり帰って来た。


「ショウ王子、アレクセイ皇太子からの伝言です」


 差し出された走り書きには、マルコイ卿を締め上げて白状させた内容が書いてあった。


「ミーシャ姫は、ゲノンという男が拉致したみたいだ。男のくせに毛皮のコートを着ているそうだ。アレクセイ皇太子はアジトで捕まえた手下達に、ゲノンのことを聞き出すと書いてある」


 ペイシェンス号にミーシャ姫が乗せられているのか確信が持てない現状では、まだ国内に監禁されているのか、それよりもっと前にマルタ公国に向かった船に乗せられているのか、アレクセイ皇太子は調査をしなくてはいけない。

 

「レッサ艦長、ペイシェンス号にミーシャ姫が乗ってなかったら……」


 怪しいと思うだけで、イルバニア王国の商船を足止めして乗り込んだりしたら、国際問題になるかもとショウは一瞬躊躇する。


「ショウ王子、兎に角ペイシェンス号に追いついて相手の出方を見ましょう。本当に商船なら、夜は航行しないで碇泊してますよ。それに軍艦の臨検を拒んだりしません。拒んだ時は武力行使になりますが、後ろめたくないなら抵抗はしないでしょう」


 海賊討伐はお手の物のレッサ艦長にノウハウを教えて貰って、成る程ねぇとショウは安心して帆に風を送り込む。


 ピップスはシリンとカドフェル号の周りを飛行して、ペイシェンス号を見失って追い越さないように見張る。


 ローラン王国の領海を抜ける辺りで、ペイシェンス号に追いついた。


「当直! ペイシェンス号に停船命令を送れ!」


 レッサ艦長とショウは、夜でも帆を全部張って航行しているペイシェンス号を怪し過ぎると感じたが、案の定、停船命令に従う様子はなかった。


「全員配置につけ! ペイシェンス号に乗り込むぞ!」


 亀が兎から逃れられるわけもなく、カドフェル号はペイシェンス号に体当たりして接艦する。士官達には抵抗しない者には危害を加えないようにとレッサ艦長から厳命が下っていたが、ペイシェンス号は徹底交戦する最後の悪足掻きをした。


「これは海賊の偽装船だったみたいですな! 海賊は死刑ですから、死に物狂いで抵抗してくるぞ!」


 レッサ艦長は、海賊は皆殺しだ! と激を飛ばす。


 武闘派ではない海賊など、カドフェル号の士官や乗組員達の敵ではない。


 ショウもサンズでペイシェンス号に乗り込んで、海賊達と刀を交わしたが、それより船倉に閉じ込められている難民達の救出を急ぐ。


「ワンダー、バージョン、付いて来い! 難民達を救出するぞ!」


 やけっぱちになった海賊達が難民達に危害を加えたり、人質にするのを恐れたのだと、ワンダー達も気づいて船内調査を開始する。


 船内にも海賊は何名かいたので、斬り捨てながら進んでいくと、外から鍵が掛けられた部屋を見つけた。窓の格子戸から中を覗くと、突然の戦闘に怯えて抱き合って泣いている娘達が見える。


 ワンダーが手斧で鍵を破壊して、ショウ達は難民の娘達を保護する。


「心配しなくていい、私達は救出に来たのだ。何も危害は加えないから」


 泣いている娘達のいる部屋を、数名の乗組員達に護衛させて、ショウは奥へと進む。ワンダー達は何を探しているのですかと尋ねる。


「毛皮を着た男とミーシャ姫だ!」


 後を追いながら、ワンダー達は、ミーシャ姫? と疑問を持ったが、狭い船内の通路で突然、ショウ王子が止まったので背中にぶつかりそうになる。


「お前がゲノンか? ミーシャ姫は何処にいる!」


 ゲノンは東南諸島の海軍がお出ましなら、自分の命運も此処までだと腹を括ったが、最後に一泡喰わせてやろうとミーシャを殺しに船倉へと向かっていたのだ。


「チッ、ツイてない時は、こんなもんだな! 仕方がない、そこの小僧の命でも道ずれにするか!」


 ワンダーとバージョンは、ショウをゲノンから庇おうとしたが、通路が狭くて果たせない。


 ゲノンとの闘いを見るしかないのかと焦ったが、ショウはかなり腕をあげていたので、ゲノンをどうにか斬り捨てる。


 バルバロッサ討伐の時は弓だったので、あまり戦闘した実感が無かったが、ゲノンを斬り捨てた刃の重みがズッシリとショウには感じた。


 しかし、呆然としている場合ではないと、ゲノンの遺体を跨いで奥へと進む。通路の突き当たりに鍵の掛かった部屋があり、ワンダーに鍵を壊させて中に入る。


 そこには喪服を着た少女が戦闘に怯えながらも、気丈に泣くのを我慢して椅子に座っていた。小柄で華奢な身体の少女は、突然鍵を壊して入って来た異国の人達を、暗灰色の目に恐怖を浮かべて見つめる。


 ショウは、怯えている少女の目がアレクセイ皇太子達に似ているので、ミーシャだと思い、少しでも安心してくれるように微笑む。


「ミーシャ姫ですか? 私は東南諸島のショウです。兄上のアレクセイ皇太子と、貴女を探していたのですよ」


 ミーシャは、兄上のアレクセイ皇太子の名前を出されたので、ホッとして差し出されたショウの手を取る。


「海賊討伐が終わるまで、船長室にいらして下さい。戦闘が終わり次第、貴女をアレクセイ皇太子の元にお連れします」


 途中で毛皮を着たゲノンの遺体に顔を背けたミーシャを、ショウは目を瞑っていなさいと命じると、軽々と抱き上げて船長室へと連れて行く。


「ワンダー、バージョン、ミーシャ姫の護衛を頼んだぞ。私はレッサ艦長を連れて来る」


 ワンダーは戦闘が終わりかけているのはわかっていたが、ショウがレッサ艦長を探しに甲板へ行くのを止めて、自分がお連れしますと飛び出す。ミーシャは船長室に来て、やっと救出されたのだと思った途端に緊張の糸が切れて、泣き出していたのだ。


 ショウは自分の外套を脱いで、震えながら泣いているミーシャに掛けてやる。


「何か暖かい物でも飲めば、落ち着くのだろうが……」


 オロオロしているショウに、バージョンは船長室には酒があるはずだと探し出す。小さなガラスコップに酒をついで、泣きじゃくっているミーシャに飲むように勧めたが、薄茶色の髪を振って嫌だと拒否される。


「マルコイ伯父様みたいな酒飲みは嫌いなの! 賭け事も大嫌いだわ!」


 ショウも酒飲みのギャンブル依存症のマルコイ卿に、借金の形に売り飛ばされかけたのだから、仕方ないと、コップをバージョンに返す。何も口にしていないのだろうから、暖かいお茶かスープを飲めば落ち着くとは思うが、生憎、何も無い。


 シクシク泣きじゃくるミーシャに、ショウはハンカチを差し出す。差し出されたハンカチに顔を埋めて、ミーシャは泣き続ける。


 困り切ったショウ達はレッサ艦長が来てくれてホッとしたが、海賊討伐は平気な艦長も、泣きじゃくるミーシャにはお手上げだ。


「アレクセイ皇太子に、お任せしたら宜しいのでは……」


 その提案に、ショウは飛びつく。


「ミーシャ姫、竜でアレクセイ皇太子の元までお送りしますよ」


 これで解決だとショウは安心したのに、ミーシャは泣きながら首を横に振る。


「駄目ですわ、私はアレクセイ皇太子に会えません。祖父から、分をわきまえて振る舞うようにと言い聞かされていましたもの。まして、このような有り様なのに合わす顔がありませんわ」


 ショウは庶子だからと、卑屈な言葉を口に出したミーシャを叱りつける。


「アレクセイ皇太子は、貴女のことを心配なさっていますよ。それに病気のお祖母様を放置して、伯父一家は夜逃げしてしまったのです。お祖母様は、きっと心細く思っておられますよ。さぁ、ケイロンへ帰りましょう」


 伯父一家が病気の祖母を置き去りにしたと聞かされて、大人しいミーシャも怒りを感じる。


「まぁ、なんてことでしょう! ケイロンへ帰って、お祖母様のお世話をしなくては」


 やっと泣き止んでくれたミーシャをサンズに乗せて、アレクセイ皇太子の待つゾルダス港を目指す。


 途中で、その伯父一家がゾルダス港の港湾管理の事務所にいるのを思い出したが、これ以上関わらないでおこうと、ショウは引き止めるアレクセイにミーシャを渡すとカドフェル号へと引き返した。   

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