第17話 カジノ制圧

 海の覇者は、陸地でも強かった。カジノの用心棒など、峰打ちで一瞬で気絶させて制圧した。


 突入前に、客には怪我をさせないことと、できるだけ殺さないようにと注意を受けていたので、用心棒も縛られて喝を入れられるとハッと目覚める。


「カジノは閉鎖します!」


 レッサ艦長の怒鳴り声に、突入のショックで固まっていた客が文句を付け出す。


「おい! 勝手な事を言うな!」


「チップはどうするんだ!」


 レッサ艦長は、チップを金と交換すると告げる。不埒な客がディーラーの前のチップをくすねようとしたが、それは目ざとく阻止されて、チップを精算した客達から外へと誘導する。


「レッサ艦長、バージョン士官候補生と、ベルトとランクを無事に保護しました」


 副官のクレイショー大尉が、奥の倉庫に縛られて転がされていたバージョン士官候補生と、ベルトとランクを連れて、レッサ艦長の前に連れてくる。


 バージョン士官候補生は手を縄で縛られたのを、解こうともがいたのか、手首を赤く擦りむいている以外は無傷だ。


「バージョン士官候補生! 勝手な判断による行動は慎みなさい。処分は追って通告するが、傷を軍医に見せろ」


 バージョン士官候補生はレッサ艦長に怒鳴りつけられて、ビクンと飛び上がったが、他の士官達に無事でよかったと頭を小突かれたり手荒い出迎えを受けて、士官候補生達に連れられてカジノを後にする。


 客が殆ど居なくなったカジノに残ったレッサ艦長に、ベルトは殴られた頭を撫でながら恐縮しながら遅刻を詫びたが、イカサマ賭博を言い立てる。


「帰艦時間を守れなかったのは、俺がイカサマ賽子に気づいて、それを言い立てた瞬間に後ろから頭を殴られたからです。俺は遅刻の罰は受けますが、ラルクは気絶した俺を庇っただけですんで、許してやって下さい」


 レッサ艦長は賭けに負けて、イカサマ賭博といちゃもんを付けたのかと怒鳴る。カドフェル号では神様みたいなレッサ艦長に怒鳴られて、ビクンと小さくなったが、ベルトはそこのテーブルの賽子はイカサマなんだと言い立てるのを止めようとはしない。


 レッサ艦長は賽子を2つ投げて合計の大小を賭けるテーブルに近づいて、賽子を投げるお盆の上に数回投げる。


「別にイカサマ賽子とは思えないが……。乗組員達は外の警備をしろ! 用心棒が他にも居ないとは限らないからな。ベルトとランク! お前達の処分は後で通知する。怪我を軍医に見てもらえ!」


 ショウは本気でイカサマ賭博なんだと言い張ったベルトが、負けていちゃもんを付けたように思えなかった。大小のテーブルを上から下まで念入りに調査して、賽子を振る盆の下に磁石が隠されているのを見つけ出す。


「テーブルの下に磁石があります」


 ショウも何回か賽子を転がしたが、骨を削った賽子は磁石の影響を受けるわけもない。


「う~ん? ここの担当のディーラーの持ち物検査をして下さい。裸にしてもかまいません」


 逃げ出そうとしたディーラーは、カジノに残った士官達に上着を脱がされて、裏地の隠しポケットから賽子が出てきた。ショウは賽子を受け取ると何回か投げたが、全て1の目が出るのに驚き、不審に思って短剣で賽子を半分に切る。


「これは金属を埋め込んで1が出るようにしてありますね」


 レッサ艦長はショウに耳打ちされ、イカサマ賽子を見せられると、士官達をカジノの従業員達を倉庫に押し込めて見張らせ、残りの士官に屋敷を探索させる。ハッサンがイカサマ賭博を主催していたかもしれないなど、士官達にも知らせたく無かったからだ。


 屋敷の二階部分を探索した士官達は、キャ~という絹を裂くような声に驚いて、レッサ艦長にお伺いをたてる。


「どう致しましょう?」


 王子の現地妻など、一介の艦長には扱いに困ってしまい、ショウに判断を任せる。


「さぁ、彼女達がカジノの経営にタッチしていたとは考えられませんから、何か帳簿とか持ち出さないように扉を見張るだけで良いでしょう。兄上達の愛人を怯えさせる趣味はありませんから」


 レッサ艦長は真っ当な判断だと頷いて、士官に扉を守れと命令する。


「こら! 何をやっている! 私のカジノに殴り込みを仕掛けるとは何事だ!」


 間の悪いハッサンの乱入に、ショウは頭が痛くなる。

 

 たまたまカドフェル号の乗組員達がカジノを制圧した時に、外で油を売っていた従業員が驚いて、殴り込みだとハッサンの屋敷にとびこんだのだ。


 ハッサンは自分がショウの視察で留守をしている隙にと腹を立てた。ショウ達がカドフェル号に帰っている間に、屋敷の召使い達を動員して駆けつけて来たのだ。


「ハッサン兄上! ラジック兄上! 支配人室で話があります」


 王族の不祥事を士官達の前で暴けないと、ショウは支配人室に二人を連れて行く。何時もは穏やかなショウの厳しい顔に、居合わせた士官達はアスラン王に似ているとブルブルと身を震わす。




 ショウは支配人室で帳簿をパラパラと捲り、考えていたよりも巨大な利益に頭が痛くなる。


 ハッサンはショウだけなら言いくるめると口を開きかけたが、帳簿から目をあげた視線の強さに、父上を思い出して口を閉じた。


「ハッサン兄上、貴方はカジノを経営し莫大な利益をあげながら、一度も納税義務を果たしていませんね。脱税は重罪です。まして、これほど巨額の脱税を見逃しては貰えませんよ」


 小狡い商人達が一番恐れているのは、海賊と徴税人だと言われている東南諸島で、脱税がバレるのは身の破滅だ。ハッサンとラジックは真っ青になって、忙しくて忘れていただけだと必死に言い訳を始める。


 ショウはうるさそうに手で制したが、その仕草が父上にそっくりだと、二人は改めて、可愛い系のショウの顔が怒ると綺麗系の父上に似ているのに気づいて小さくなる。

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