第14話 貿易拠点チェンナイ?

 ハッサンはしまった! と思ったが、そんな時こそ強気にでてしまう性格だ。


「なんだ、言ってくれれば出迎えてやったのに」


 全くさっきの事は無かった事にしようというハッサンの態度に、ショウはくらくらしてしまう。


 ショウは、こんなことが父上に知られたら、大事だと内心で焦っていた。チェンナイを歓楽街にしたのも怒っておられるのに、カジノのオーナーだなんてとんでもない。


 ショウは周りからハッサンの実情を調べていくことにする。


「ハッサン兄上? このカジノは立派な建物ですねぇ。向こうのハッサン兄上の屋敷より、こちらに住んでおられるのかと思いましたよ」


 どうも、あちらの屋敷はこじんまりし過ぎていると、ショウは一目見た時から違和感を感じていたのだ。


「そうかぁ、此処はカジノだ。私が住んでいるわけが無いだろう。それより、何か食べたのか?」


 あからさまに話題を変えたハッサンに、これはシラをきるつもりだと溜め息をつきそうになる。


「いえ、夕方にチェンナイに着きましたから。良かったらハッサン兄上の屋敷に泊めて頂きたいのです」


 ハッサンとラジックは勿論だ! と、口々に歓迎振りをアピールする。レッサ艦長とワンダーも同行することになり、ハッサンが命じて3万マークが部屋に運び込まれた。


「それにしても、お前が賭事をするとは知らなかったなぁ」


 100マーク金貨が100枚入った皮袋を3個、ワゴンに乗せて恭しく運んで来た支配人はショウ王子とは知りませんでしたと、ゲームを途中で止めた非礼を詫びる。


 レッサ艦長とワンダーは、ハッサンとラジックがついているなら、強盗も出ないのだろうと安心した。ショウは金貨を持ち歩くのは物騒だと言うラジックに、サンズを呼び寄せますからと笑う。


「まぁ、竜で移動すれば大丈夫だろう」


 今夜はカジノの儲けは無さそうだと渋い顔を一瞬浮かべたハッサンだった。リンクからもショウがチェンナイの視察にくるから、少し真面目にするようにと忠告を受けていたが、こんなに早く来るとは思って無かったと内心で愚痴る。


「レイテ港の埋め立て埠頭はどうなっているんだ?」


 レイテ港の埋め立て埠頭という巨大プロジェクトにショウは足止めされるだろうと、ハッサンとラジックは考えていたので、不意を突かれてしまったのだ。


「お陰様で出資者が沢山集まりましたので、サリーム兄上とナッシュ兄上に後を任せる事にしました」


 にこやかなショウに喰えない奴だとハッサンは内心で毒づいたが、カドフェル号を遣わせたのは父上だと判断する冷静さは持っていた。




 屋敷に行こうと、外へ出た一行の前にサンズが舞い降りる。


「屋敷に泊めて下さるなら、荷物を取って来ます。すぐに屋敷にお邪魔しますから、兄上達は先に帰っておいて下さい」


 そんなことは従卒にさせれば良いだろうと、止める暇もなくショウはレッサ艦長とワンダーとカドフェル号に一旦帰艦する。


「この金貨はチェンナイを貿易拠点として開発する為の資金にしたいですね。ラジック兄上をハッサン兄上から離しても良いけど……できれば、二人で協力して貿易拠点の方に力を入れて欲しいです」


 金貨をカドフェル号の金庫にしまい、それぞれ着替えを持ってハッサンの屋敷へと向かった。




 ハッサンとラジックは屋敷に帰って、召使い達に部屋と宴会の用意をさせて、ショウ達を迎え入れた。


 内装も平凡で、贅沢好きなハッサンの屋敷らしくないとショウは、此処が表向きの仕事の事務所だと察した。召使い達の人数も少ないのか、料理が出てくるスピードが遅いのにハッサン兄上が苛立っている様子で、此処に住んでいないのをショウは確信する。


 ハッサンの召使いなら、こんなにノロノロしない。クビにされるのは目に見えている。


 でも、出てきた料理は航海中に口にしていたのとは比べ物にならないのは確かだったので、ショウがぱくぱく食べるのを見てハッサンは笑う。


「お前は、よく食べるよなぁ。チビだった頃から大食いだったが、背が伸びてもっと食べるようになった」


 ショウはハッサンには色々とパシリをさせられたり、意地悪された事もあったが、やはり兄弟なので穏便に済ませたいと思う。


「ハッサン兄上にはケーレブ島のフレッシュチーズをよくご馳走になりましたね。このフレッシュチーズも、凄く美味しいですね」


 前のチェンナイでは口に出来なかったと、ショウが褒めるのをハッサンは嬉しそうに郊外の農場で牛を飼わせてチーズを造らせているのだと自慢する。ショウはハッサンが自慢が大好きなのを熟知していたので、凄いですねと褒めて、チーズをおかわりして食べたので、上機嫌になって表の商売をあれこれと自慢しだす。


「凄いですねぇ、流石はハッサン兄上です」


 昼間に貿易拠点の方の視察をしなくてはいけないが、歓楽街の儲けで開発も進めているのは確かだろうと思った。


 寝室に通されて、チェンナイの明るい繁華街を眺めながら、ショウはどうするべきか考える。


「あとは、この歓楽街の風紀と衛生と治安だよね。ハッサン兄上とラジック兄上が、すんなりカジノから手を引いてくれたら良いけどなぁ。シラを切り通せるとは考えて無いとは思うけど……」


 チェンナイの夜の視察はざっと終えたので、明日は貿易拠点としてのチェンナイを見て回ろうとショウは考える。    

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