第11話 サンズ島を温泉リゾートに?

 次の朝、サンズ島の素っ気ない部屋で目覚めたショウは、離宮と違い侍従達が飛んで来ないのを良いことに二度寝しようとした。朝の気持ちの良い風が小さな窓からそよそよと吹き込んでくるので、いくらでも寝れそうだとベッドの上でごろごろしていたが、無粋なドラの音に飛び起きる。


「何事なんだ! まさか敵襲?」


 ゴォ~ン! ゴォ~ン! ゴォ~ン!


 ドラの音は三回鳴って止み、窓から外を見たショウは沖にエルトリア号がサンズ島に帰って来るのに気づいた。


「メルト伯父上が帰港されたのを知らすドラだったのか……ある意味で敵襲より、怖いのかもね」


 ドラの音が鳴った途端に、のんびりとしたサンズ島の雰囲気が一変して、全員がキビキビと動き出す。昨夜の海岸のバーベキューの後の炭かすを埋めたり、ショウの部屋にも早く着替えて下さいと従卒が洗面器を持ってやってくる。二度寝を諦めてザッと顔を洗ったショウは、寝間着を着替えて食堂へと向かう。 


「レッサ艦長、キラー大尉、おはようございます」


 少しベッドでごろごろしていたので、他の人達は朝食を食べ終えていた。


「ドラで目覚めたのですか?」


 レッサ艦長に笑われて、少し格好悪いなとショウは思ったが、手早く朝食を詰め込む。


「メルト艦長がお着きです、私は出迎えに行きます」


 副官のキラー大尉にショウとレッサ艦長も同行して、港でメルトが小船で上陸するのを出迎える。 


「メルト伯父上!」


 メルトは港にカドフェル号が碇泊しているのを見た瞬間から、ショウが視察に来たのだと察していた。  


「ショウ王子、サンズ島への視察、お疲れ様です」


 海岸に組まれた石造りの埠頭にメルトは年を感じさせない軽やかさで飛び移って、ショウの出迎えを労う。副官のキラー大尉にチェンナイから運んできた物資や資材の荷降ろしの監督を命じると、ショウやレッサ艦長と建物に向かう。


「メルト伯父上、サンズ島には温泉が出るのですね。昨日、温泉を運んで来て貰いました」


 メルトは温泉は沸かす手間が省けるのは良いが、運んで来さすのが面倒だとしか考えてない。


「温泉の源泉を見学したいのです。そこから港に金属の管で温泉を引けば、宿屋で温泉に入れます。宿屋に泊まらない乗組員達にも、大浴場を用意したら喜ばれますよ」


 メルトは骨の髄まで武人だったので、乗組員達に休養は与えるが、温泉に浸からせてやる必要を考えていない。自身でも従卒達が湯を沸かすのか、温泉を運ぶのかは好きにしたら良いと考えていたので、温泉に浸かっても何の有り難みを感じていなかったのだ。


「温泉が必要ですか?」


「え~? 温泉があったら、絶対に良いですよ。航海で疲れた身体を、温泉でリフレッシュできるんですよ。その上、温泉上がりに高床式の食堂で、夕日が海に沈むのを眺めながら、食事や酒を飲めたら最高でしょう! 源泉近くに大浴場を作っても良いですよね。怪我とかの温泉治療もできるけど、家族で遊びに来るには遠いかなぁ~」


 メルトは甥のショウのドリームについていけなかったが、サンズ島の島主なのだからと我慢して聞く。


「わかりました、宿屋と大浴場、食べ物屋に、酒場が必要だとショウ王子は仰るのですね」


 軟弱な施設など要らないと思っているのが見え見えのメルト艦長に、ショウ王子がズケズケと要求しているのを、レッサ艦長は冷や汗をかきながら聞く。


 しかし、メルト艦長が、くだらん! と、一言で拒否をしなかったのに驚いたレッサ艦長は、レイテの海軍施設で地位は高くても書類仕事ばかりさせられていたので、絶対にサンズ島の開発から外されたくないと我慢したのだと察して苦笑する。


 レッサ艦長も根っからの軍艦乗りで、地位が上がって書類仕事させられるより、大海原を航海している方が性にあっていたので、メルト艦長が多少自分の考えを曲げてもエルトリア号で資材や人材を運ぶ仕事を手放さないだろうと思った。


「これはショウ王子の思い通りになりそうだなぁ」


 なるべく民間人をサンズ島に住ませたくないメルトだったが、武官に宿屋や酒場の主人は無理でしょうとショウに言いくるめられているのを、レッサ艦長は外交交渉の場数が違うと首を振って眺める。



 温泉の源泉を見学して、ショウはすらすらと配管の図案を書いて、港までの距離を測って、必要な管の長さを概算する。


 メルトは、あれよあれよと話を進められていくのを、唖然として聞いた。


 メルトは、ショウはやはりアスランの息子だと内心で腹を立てていた。ショウの態度は傲慢では無いが、強引なのはアスランに似ていると思う。自分の考えた通りに人を動かそうとするのも、そっくりだ!


 メルトは弟にそっくりなショウ王子に内心で毒づきながらも、これなら東南諸島連合王国の次代の王としてやっていけるだろうと考える。


 自由と言えば聞こえが良いが、勝手気儘で、自分の利益追求に余念が無い東南諸島連合王国の国民を束ねていくには、少々の強引さは必要だとメルトは考えていたので、王太子に選ばれたショウのおっとりした雰囲気にやっていけるのかと懸念を抱いていたのだ。


 しかし、自分を言いくるめて、どんどん話を進めていくショウを眺めているうちに、アスラン王より人使いが荒いと溜め息をつくのだった。


「レイテで宿屋と、酒場、食堂、風呂屋を経営したがっている人を見つけて、サンズ島での営業権を入札させても良いですよね。あっ、宿屋と、酒場は、高級なのと、リーズナブルなのとニ軒あっても良いですよね~。いずれは温泉治療の長期滞在型のホテルを建てたいですねぇ」


 レッサ艦長は孤島の宿屋や酒場に入札させるのかと呆れたが、確かにボロ儲けできそうなので、レイテの欲を突っ張らした人間が大勢ふるって参加するだろうと笑う。


「メルト伯父上、彼等が暴利を貪らないようにチェックして下さいね。他にライバルがいないからと、高値にしたり、酒を水で薄めたりさせないで下さい。船乗り達と悶着を起こしたくありませんから。あと、宿屋と、風呂屋の衛生面も抜き打ち検査して下さい。基準を下回るようなら、営業権を取り上げても良いなぁ」


 メルトは衛生局の役人みたいな仕事をさせられるのかと憮然としたが、デスクワークよりマシだし、航海に出ている間はキラー大尉に任せようと引き受ける。


 ショウは折角の景色が眺められないと窓の小ささにも文句をつけたが、嵐の凄さを知らないからだと却下される。


「そんなに嵐の暴風雨は凄いのですか……では、窓は小さくても仕方ないですが、テラスから海を眺めれるようにしてはどうですか? 酒場とかはもともと壁はバーカウンターの後ろだけにして、酒やグラスは嵐の前に壁に収納できるようにしたらどうでしょう。椅子や机も折りたたみ式にして片付けておけば良いのかも。嵐は年に数回でしょ? 他の日に風通しが良くて、景色が良い方が良いのでは?」


 ザッとスケッチを書いて、メルト艦長に見せているのを、荷降ろしを終えて一緒に聞いていたキラー大尉は驚いて見る。次から次へと、スケッチに温泉浴場の施設や、宿屋への温泉の配管とかも書いていくのを、キラー大尉はドキドキしながら眺める。


「ショウ王子、これらの施設が全部できたら、サンズ島は航海の補給地としてのみでなく、温泉リゾートになりますよ」


 ショウはそうなると良いなぁと笑ったが、メルトはそれまで我慢の緒が切れなければ良いがと苦笑する。

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