第7話 アスラン王の帰国
「父上、そろそろ、帰ってきてくれないかなぁ……」
ショウはラシンドと、リンクのどちらから訪問しようかなぁと考えながら、ユングフラウに行ったきりの父上が帰国してくれるのを待ちわびる。
フラナガン宰相にはビシバシ鍛えられたし、武術の鍛錬に汗を流したりと充実した日々を過ごしていたが、サンズ島やチェンナイ貿易拠点に視察に行きたいと焦りを感じている。
「今日は、ラシンドの屋敷に行こう! どちらからでも良いけど、チェンナイ貿易拠点の問題点を、何か知っていると思うから」
ハッサンが娼館やカジノをチェンナイ貿易拠点に建設させて、一大歓楽街になりそうだという噂を、レイテ港の測量を視察に行った時にも耳にして、ショウは拙いなぁと感じていた。
「母上や、マルシェや、マリリンに、お土産も渡したいしね。ラシンドが屋敷にいるか、手紙で聞いておこう」
午前中はどうせフラナガン宰相に捕まるのだからと、昼からの訪問の手紙を侍従に届けさせたショウだったが、サンズからメリルが帰って来たと教えられた。
「父上、ミヤ! お帰りなさい!」
ショウの熱烈歓迎ぶりに、アスランとミヤは全く違った反応を示す。
「ショウ、留守番ありがとう。初めて外国に行ってきたわ。エリカとミミに会って、元気で頑張っている姿を見て、安心できたから感謝しているの」
ショウを労ってくれるミヤと違い、たかだか1ケ月そこらでと、冷たい対応のアスランだ。本当はもっとあちこち見せてやりたかったのに、真面目なミヤに帰国を促されて渋々諦めたのだ。
「パメラは、どうしてますか?」
メリルから降りた途端に、ミヤは心配していたパメラの様子を聞いた。
「ミヤ、少し落ち着いて話せ」
アスランに呆れられて、ミヤも立ち話でする話題ではないと自分の部屋に向かう。
「やはり、ミヤのいれてくれるお茶が一番美味しいなぁ」
アスランはミヤの部屋でクッションに寄りかかって、お茶を美味しそうに飲んで寛ぐ。ショウは改めて二人の絆に気づいて、パメラがミヤに反発したのは寂しかったからだと思う。
「パメラは落ち着いて勉強していますよ。シーガルの愛情を勝ち取る為に。それに、馬鹿では飽きられると言ってました」
ショウは、パメラがスローンと話せると報告するのを躊躇った。ミヤはパメラが落ち着いてくれたのを喜んだが、アスランはショウの態度に何か変だと感じる。
アスランは、ショウが一人前に隠し事をするのかと可笑しくなる。
パメラが、女官から父上とミヤの帰国を知らされて、挨拶に訪れた。
「父上、ミヤ、お帰りなさい」
ミヤは落ち着いたパメラの挨拶を受けて、エリカやミミと買ったお土産を渡す。素直にお土産の礼を言っているパメラを見て、アスランはショウがちゃんと世話をしたのは確認したが、何か引っかかる。
「パメラ、留守中はショウと何をして過ごしたのだ?」
ショウは、父上がスローンの件に気づかないかとヒヤヒヤする。
「ショウ兄上に、勉強を見て貰いましたわ。お陰でかなり進みました。父上、メリッサはパロマ大学に留学しているのでしょ。私も聴講生で良いから、パロマ大学に通ってみたいわ。ショウ兄上やシーガル様も、通われたのですもの」
アスランはこの件を黙っていたのかとショウを見たが、違うなと思う。
「聴講生か、考えておこう。シーガルの考えも、聞かなくてはいけないからな」
一言で拒否されなかったので、パメラはパッと喜びを顔に出したし、ショウもホッとした様子だ。
そんな様子を観察していたアスランは、顔に出過ぎると心配する。これで外交とかできるかと疑問を持つ。
アスランは、何を隠そうとしているのか探る。
「ショウ、シーガルとは埋め立て埠頭の件でよく会うのか?」
父上が自分の態度から、何か隠していると察したのだとショウは気づいて、遅まきながら笑顔を作る。
「ええ、パロマ大学からフォード教授一行が到着されたので、レイテ港の測量を始めています。私もちょくちょく顔を見せていますから、シーガルとも会ってますよ」
自分の留守中に、勝手に許婚のシーガルとデートでもさせたのかと勘ぐったが、違うなぁとアスランはお茶を飲む。フラナガン宰相と違い経験不足のショウの造り笑顔など、これは話しても大丈夫と書いてあるのも同然だ。
何を隠しているのかとアスランは考えていたが、帰国を知ったフラナガン宰相に捕まってしまい追求は後に回した。
ショウは切り抜けたとホッとしたが、スローンが親竜のメリルに話すことを忘れていた。まだ子竜のスローンはサンズに子守をして貰っていたが、帰ってきた親竜のメリルに甘えて、留守中に海水浴に行った事や、パメラと話せる事などを色々と喋ったのだ。
ショウはフラナガン宰相から解放されたので、空いた時間にララに会いに行くことにした。付き添いの侍女のを目を盗んで、二人でキスしたりして楽しい時間を過ごしたショウは、昼からはラシンドの屋敷へと向かう。
「ショウ王子、わざわざ手紙で都合を聞かれなくても、いつでもお越し下さい」
ラシンドは近頃は航海に出ることも稀になったと笑いながら、ショウを屋敷に招き入れる。ふと、ショウはラシンドは何歳になったのだろうと、白髪がチラホラ見えるのに気づいて考えてしまった。
まだマルシェは10歳、マリリンは7歳なんだから、身体には気をつけて貰わないと、ショウは心配する。
アスランが竜騎士で若々しいので、同じ世代のラシンドが年取ったように感じたショウだったが、話しているうちに心配は忘れていった。
「埋め立て埠頭の件は、レイテ中の話題ですよ。メーリングに行く度に、羨ましく思ってましたからね。ショウ王子、出資したいと考えている商人は多いですよ」
好感触な反応にショウはホッとしたが、細かい条件でラシンドは懸念を感じたようだ。
「う~ん、出資した商人に優先使用権ですか……」
「えっ? そこですか、問題なのは? むしろ、それは喜ばれると考えていたのですが……」
出資した商人の持ち船の埠頭の使用を優先するのは、少しぐらい優位な事があっても良いだろうと、ショウが考えたものだ。
「いや、それは嬉しいですよ。ただ、優位使用権を持つ商人の保護になるのではと、心配しているのです。私としては有り難いですが、悪用すれば小商人や、商売を始めようとする若者のやる気を削ぐ結果になるかも。う~ん、この持ち船っていうのが抜け穴になりそうですね。小商人から金を取って、自分の持ち船として優位使用権を濫用したり、そのまま騙し取る詐欺も出そうですよ」
なるほど! と、生き馬の目を抜くレイテの商人なら、優位使用権を悪用しそうだとショウも考える。
「なら、1隻だけ登録した船の優位使用権ならどうでしょう?」
「1隻ですか……なんだかケチくさいですね」
完全に商談モードになったラシンドに、ショウは苦笑する。
「つい、本音が出てしまいましたね。一定の資金を一単位にして、それにつき1隻ではどうですか? 一人あたりの上限を決めれば、中規模の商人も一単位ぐらい出資できますよ」
「そんなに出資者が集まりますかねぇ。僕はそちらを心配しているのですが……」
ラシンドは、レイテの商人は儲け話には目敏いと笑う。
「この件は一度皆さんを集めて説明会を開こうと思ってます。その時までに、もう少し具体的に考えてみます」
本題は終わったのに母親のルビィに会いに行こうとしないショウ王子に、ラシンドは何か他にも聞きたいことがあるのだと察した。
「何か他にも?」
「え~っと……ラシンドさんはチェンナイの貿易拠点について何か噂を聞いておられませんか?」
ラシンドは、ショウ王子も苦労しているなぁと笑う。
「ハッサン王子は、祖父のアリの血を引いて遣り手ですね。少しやり過ぎですが、目覚ましい発展振りですよ。
ゴルチェ大陸の北部から、わざわざチェンナイに遊びに来る客も多いそうですし、船乗り達は行き先がチェンナイだと喜びますねぇ」
褒めて貰っても、全く嬉しく無いショウだ。
「ハッサン兄上は、伯父のリンクと手を組んでいるのでしょうか?」
ラシンドは、それを自分に聞きますかと爆笑する。
「ライバルのリンクを蹴落としたいと思っている、私の言葉など信じてはいけませんよ。実際にご覧になって、判断された方が良いです」
ラシンドの忠告に感謝して、あと一つの懸案も商人として投資したくなるかと聞いてみる。
「ええ~っ! ローラン王国のダガット金貨の改鋳費用の国債ですか? 何だか胡散臭くて、食指が動きませんねぇ」
やっぱりなぁと、アレクセイ皇太子に国債の発行を勧めたものの、ローラン王国の信用はがた落ちだもんなぁと溜め息をつく。
「ええっと、おまけを付けたら買う気になりますか? 例えば、ローラン王国に造船所を造るのに出資する権利とか……」
ラシンドの目が、キラリンと光る。
ショウは、船好きのラシンドにこの話題は禁物だったと遅まきながら気づく。
ラシンドは根掘り葉掘り造船所について質問しだし、日は傾いてゆく。
「それなら、私も出資しますよ。まぁ、でも正直なところは、造船所だけの方が有り難いですけどね」
どこまでローラン王国は信用されて無いのかと、ショウは上手く話を持っていかないと、侮辱と取られると溜め息をついた。
「せっかくですから、夕食を一緒に……」
今日は、ロジーナと会うつもりだったが、こんな遅い時間から訪問するのも失礼だ。
気づかない内に夕日に照らされた屋敷には燭台が置いてあり、マルシェとマリリンは待ちくたびれている。
「ショウ兄上、お久しぶりです」
しっかりと挨拶するマルシェにショウは驚いたが、マリリンがおしゃまな美少女になっているのにもビックリした。ユングフラウのお土産を二人に渡し、母上にも綺麗な香水瓶に入ったコロンを渡した。
「ユングフラウは、バラが満開なのです。このコロンもバラの匂いなのですよ」
マリリンがお土産のレースの髪飾りをルビィに付けて貰ったり、コロンを少しつけとねだったりしているのを、ショウは微笑ましく眺めながら夕食を楽しんだ。
しかし、王宮から至急帰って来るようにと侍従がやってきて、ショウはスローンの件がバレたのだと悟った。
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