第4話 サリーム兄上とナッシュ兄上
ショウはフラナガン宰相にレイテから逃げ出さないと約束して、パロマ大学から招いたフォード教授一行に挨拶しに行った。埋め立て埠頭の工事を指揮するサリーム兄上の屋敷に滞在するのは、予め決めてあった。
「フォード教授、長旅お疲れ様です。それに助手の方々も、ようこそレイテに」
ショウ王子とフォード教授一行は挨拶を交わし、早速、埋め立て埠頭の予定地を見に行くことにする。フォード教授にパロマ大学に留学中に相談に乗って貰っていたシーガルも、出迎えに来ていたので、ショウは久しぶりだと挨拶をする。
ショウは、シーガルは17歳になったのを思い出し、ニューパロマで許嫁にお土産を買っていたけど、もう結婚したんだろうかと顔をまじまじと眺める。
パメラは確か9歳になったばかりだったから、シーガルの8歳年下になる。パメラが15歳になった時には、シーガルは23歳、もう子どもが何人か居ても不思議ではない。そこに嫁ぐパメラを兄として心配する。
ショウは自分も兄上達が独立した離宮で一人になった時に寂しく感じたので、パメラもエリカがリューデンハイムに入学して寂しいだろうなと溜め息をつく。
サリームを手伝うことになったナッシュも、教授一行の到着を聞いて駆けつける。
「ショウ、久しぶりだなぁ。カリン兄上と海賊討伐したんだってなぁ」
ショウは、カリンとナッシュはお互いの従姉妹を妻に持っているので、情報がツウツウだと苦笑する。
シーガルがテキパキとフォード教授一行の現地視察の手配をしているのを見て、ショウは後をサリーム達に任せようと考えた。
「フォード教授、サリーム兄上とナッシュ兄上とシーガルが埋め立て埠頭の予定地にご案内します」
サリームは、ショウが自分達に花を持たせようとしているのに気づいた。
「ショウ、フォード教授は上空からレイテ港を見たいと思われるかもしれないから、一緒に来てくれないか? それに、今夜は歓迎の宴会だから参加してくれ」
長兄のサリームからの言葉に、ショウは従う。実際にフォード教授一行は上空からの視察もしてみたいと言ったので、サンズと共にレイテ港の上を何度も飛んだ。
視察の後でフォード教授と助手達は、埋め立て埠頭の図面を眺めて、どの工法で埋め立て地を造るか話し合う。
サリームとナッシュとシーガルは、工法などは専門家に任せることにして、工事の期間や、莫大な費用に頭を悩ませる。
「サリーム兄上、レイテの埋め立て埠頭は、商人達に資金を出させようと考えているのです。勿論、国としても資金をだしますが、レイテ港の管理会社を半官半民で運営したいのです。サリーム兄上には、その管理をお願いしたいと思ってます」
シーガルは前からショウがこの案を口にしているのを知っていたので驚かなかったが、祖父のフラナガン宰相が許可したのか気になった。
「アスラン王とフラナガン宰相の許可は出たのですか?」
「遣ってみろと言われてます。サリーム兄上とナッシュ兄上にも、商人達への説明をお願いしたいと思ってます」
シーガルは最初の説明はショウがするべきだと思ったし、サリームもナッシュも半官半民の管理会社の概要が理解できていなかった。それに国家的な大事業を、父上は王太子になるショウにさせたいのではと考える。
「では、最初に出資してくれそうな大商人達への説明会は、私が開きます。それまでにキチンとした計画と必要な資金の概算をしなくてはね」
それはシーガルが文官に遣らせておくと、請け負った。
「後は、埋め立て埠頭に出資するメリットをどのくらいに設定するかですね。港湾使用料を余り上げたくは有りませんが、いちいち小船に荷物を積み替えるよりは便利になりますからね、その分は貰いたいなぁ。シーガル、メーリングの埠頭の使用料を調べてあるだろ? レイテ港は、それより安くしたいんだ」
ショウとシーガルが資料を見ながら話し合っているのを、サリームとナッシュは驚いて見る。
「ショウ、私よりお前がした方が良いのではないか?」
ナッシュの素直な意見に、ショウは苦笑する。
「それが、私は凄く忙しくて……サリーム兄上とナッシュ兄上に、お手伝いを頼んでいるのです。ローラン王国にも行かなくてはいけませんし、スーラ王国やサバナ王国にも訪問予定が組まれています。その上、サンズ島と、ハッサン兄上とラジック兄上が開発して下さっている貿易拠点の視察もしなきゃいけないのです」
溜め息をつくショウの聞いてるだけで目眩がする忙しさに、何年もかかる工事を監督するのは無理だと二人は納得する。
のんびりしている末っ子のショウが、父上から一番能力を引き継いでいるのを、少し羨ましく感じていたサリームとナッシュだったが、自分にはこんな激務をこなすのは無理だと、王太子に指名されないで良かったと思った。
「身体を壊すなよ」
そう言いつつも、宴会はパスさせてくれないサリームとナッシュだ。
フォード教授一行は、東南諸島の香辛料の入った異国情緒たっぷりの料理を堪能した。
「思ったより、辛くありませんね」
もてなし役のサリームが気をきかして、香辛料控え目の料理を並べていたからだ。
「王宮では、香辛料は風味付けにしか入れませんから。これから工事現場で昼食を食べる機会が増えたら、激辛料理もありますから気を付けて下さいね」
フォード教授は辛いのは平気ですと言いきったので、サリームは召使い達が普段食べているぐらいの香辛料の入った料理を作らせた。
運び込まれた海老の香辛料炒めや、ピリ辛焼きそばをショウも一口たべたが、やはり水をがぶ飲みしてしまう。
しかし、フォード教授は美味しいと、一口目は言い切ったが、二口、三口と食べるにつれて、汗が顔から流れ出す。
「これは後からきいてきますなぁ」
フォード教授も我慢できなくなって、水をがぶ飲みする。
「工事現場でも香辛料の控え目をつくらせますよ」
助手達もどれどれと食べてみたものの、全員が水をがぶ飲みする。
「辛いけど、美味しいですね~」
若い助手達は懲りずに食べては、水をがぶ飲みするのを繰り返す。
ショウはその様子を笑いながら見ていたが、ナッシュにちょっと話があると宴会場から連れ出される。
サリームの屋敷の中庭には、色とりどりの花が咲いていて、良い香りが夜風に運ばれていた。
「ショウ、さっき話していたハッサン兄上とラジックが開発している貿易拠点の件だが……」
離宮にいる時にカリン派だと思われていたナッシュは、ハッサンに辛く当たられたことがあったので、それを恨んで告げ口しているように思われないかと戸惑う。
「ナッシュ兄上、一大歓楽街になりそうなんでしょ。知ってますよ、少し風紀を引き締めに行くつもりです。気にかけて頂き、ありがとうございます」
ナッシュがこのままでは悪い評判が立つのを心配してくれたのだと、ショウはその心遣いに感謝する。
「そうか、知っていたのなら良かった。ラジックはハッサン兄上には逆らえないから、暴走を止められないのだろう」
自分にハッサンを止めれるかなぁと、ショウは溜め息をつく。
宴会は音楽や酒で盛り上がっていたが、朝からフラナガン宰相にこき使われたショウは、先に失礼すると断って離宮に帰った。
「明日は絶対に、パメラに会わなきゃ」
一人っきりの離宮で、ショウは明日はフラナガン宰相に捕まる前にパメラと話す時間を持とうと決心しながら眠りについた。
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