第2話 アイスクリームパーラー
「予約しておかないと、いけなかったんだね」
せっかく帝国風のドレスを着たララ達を、ユングフラウで評判のパーラーに連れて来たショウだったが、生憎な事に満席だった。可愛いアイスブルーの制服姿の従業員は、名前を書いておいて前のセントラルガーデンを散策して来られたら、席に案内出来ると教えてくれた。
「天気も良いし、皆で公園を散歩しようよ」
確かにセントラルガーデンには色とりどりの薔薇が満開で、紳士、淑女があちこちに散策している。だが、店まではララ、店に入る時はロジーナをエスコートすると決めていたショウだったが、セントラルガーデンを誰をエスコートするのかという難問を解決しなくてはいけなかった。
「ショウ兄上、私とセントラルガーデンを散歩しましょう! そうすれば、姉上達は喧嘩しなくて良いもの」
「あっ、そうだね」
ミミがショウの腕にちゃっかりつかまって、ルンルンとセントラルガーデンを散歩するのを、ララ、ロジーナ、メリッサは三人でシラ~としながら眺める。
「ねぇ、ララ、妹のミミにショウ様を取られてしまうわよ。あの子は侮れないわ」
ロジーナはミミに痛い目に遭わさせた事があるので、姉のララに排除させようとする。
「父上があの子を甘やかすから、図に乗っているのよ。でも、ショウ様をミミに渡したりしないわ」
メリッサはショウがミミをララの妹としてしか見ていないのは確かだが、このままでは気の良いカジムなら姉妹共と言い出しかねないと思った。
「ユングフラウは、薔薇が綺麗だね」
後ろから付いて来る三人の視線を少し気にしているショウだったが、春のセントラルガーデンは薔薇が本当に満開できれいだ。ミミも初めての異国の地を、大好きなショウと散歩できて嬉しい。
「ショウ兄上、ユングフラウは花の都と呼ばれているのよね。薔薇が満開なのは、そのせいかしら? メーリングの方が南で暖かいのに、セントラルガーデンの方が薔薇がよく咲いているわ」
ショウはそういえばと、旧帝国三国の歴史を思い出した。
「ミミ、イルバニア王国の建国の祖アルフレッド王は、緑の魔力を持っていたんだよ。多分、イルバニア王家には緑の魔力持ちが現れ易いのかもね」
ミミは歴史は余り好きでは無かったが、言われてみれば聞き覚えがあるような気がした。
「東南諸島連合王国の王家に、風の魔力持ちが現れるのと似ているわ。ショウ兄上も、風の魔力を持っていらっしゃるのでしょ?」
ミミがショウと楽しそうに会話しているのを、他の許嫁達が黙っているわけが無い。
「東南諸島連合王国をまとめ上げたイズマル王も風の魔力持ちだったから、王家にはその血が流れているのよ」
読書好きのララに、メリッサも会話に加わって、各国の始祖とその特性について話し合いだした。
「ローラン王国、イルバニア王国、カザリア王国は旧帝国の皇子が建国しているから、何らかの能力に優れた皇子達だったのだろうね。カザリア王国のアレクサンダー王は、動物の扱いが上手かったそうだ。今のエドアルド王も魔力を持ったターシュを獲得しているよ」
「ローラン王国のアルザッカー王は、魔力に秀でた方だったみたいですね。だから、亡きゲオルク王も魔力を駆使されていたのかしら。ユーリ王妃が独身の頃にバロア城に結界を張って捕らえて、ルドルフ皇太子と結婚させようとした、茨姫のバラッドを読んだ事がありますわ」
「ユーリ王妃の母上を、ゲオルク王は妃にしたかったとも聞きましたわ。母上はゲオルク王を嫌われて、見習い竜騎士のフォレスト卿と駆け落ちされたとか。でも、ユーリ王妃の母上は本当に駆け落ちされたのかしら? ただ、駆け落ちしたとして、別荘とかで暮らされていたのでは無いかしら?」
ララとメリッサは、ショウにイルバニア王国のユーリ王妃とゲオルク王の因縁めいた伝説は真実かしらと質問した。
「何? 茨姫の伝説?」
「ゲオルク王はユーリ王妃の母上に振られて、息子のルドルフ皇太子にユーリ王妃を結婚させようとしたの? しつこい男ね」
固い歴史の話には興味の無かったロジーナとミミは、急に身を乗りだした。スキャンダラスな話にヒートアップしそうな雰囲気に、ショウは慌てる。
「シー、ここはイルバニア王国なんだよ。まして、こんな公園で王妃の話なんか駄目だよ。ロジーナ、ミミ、大使館に帰ってから教えてあげるよ。でも、ユーリ王妃は茨姫のバラッドは大嫌いだと言われているから、口にしてはいけないよ」
ララとメリッサも迂闊だったとシュンとしたが、幸い周りには誰も居なかったから大丈夫だと、ショウに慰められた。
「ショウ様、私達は外国に来たのも初めてで、浮かれ過ぎていたの。大使館で、注意するべき点を教えてね」
ロジーナも他国の王妃のスキャンダルを、公の場所で口にしたのを反省していた。
「そうだね、ヌートン大使や、カミラ大使夫人に色々教えて貰おう。僕もイルバニア王国の人達の復習になるから一緒に聞くよ」
全員がショウとならイルバニア王国の王家のレクチャーも楽しそうだと話し合いなから、ぐるりと公園を一周してパーラーへ帰った。
今度はすんなりと席に案内されて、当然のごとくロジーナがショウにエスコートされた。ショウに椅子を引いて貰ったりと、うきうきしているロジーナを、ララとメリッサは少しいい気になりすぎだと思う。
「ショウ兄上、とても可愛いお店ね」
ミミもロジーナがショウに甘えているのにカチンときて、注意をそらした。
「そうだね、女の子が好きそうな店内だね。さぁ、どのアイスクリームを食べようかな~。皆、どれにするか決めた?」
わいわいメニューを見ながら、それぞれ別のものを注文することにした。
「アイスクリームって、美味しい~」
初めてアイスクリームを食べて喜ぶ女の子達を見ながら、ショウは転生してからは初めてだとアイスクリームを堪能する。
「そう言えば、前に竜で南端の島から氷を運んで、かき氷屋をしようと思ったんだ。多分、このアイスクリームを作る氷も、竜で運んでいるんだろうな」
ショウのことは何でも知りたい四人は、何歳の頃ですか? かき氷屋? と次々と質問する。
「う~ん、八歳の頃かな? 船が欲しくて、かき氷屋で資金を貯めようと考えたんだ。でも、父上にバレて出来なかったけどね」
王子がかき氷屋! 全員が驚いたが、変わった考えをするから、新航路も発見出来たのだと思う。
「かき氷屋って、アイスクリームと似ているのですか?」
メリッサは『かき氷』に興味を持った。
「アイスクリームは、牛乳に卵や砂糖を加えた液を撹拌しながら冷やした物だよね。かき氷は氷を細かく砕いて、甘いシロップをかけるだけの物だよ。暑いレイテのバザールで売れば儲かるかなと思ったけど、今から思えば氷を切り出したり、人手がいるから無理だったよね」
ララは出会う前のショウの話を興味津々で聞いた。
「ショウ様は八歳の時に、船を手に入れようとされていたのね。私と初めて会った時は、もうメーリングへの航海をされていましたわ。どうやって、船を手に入れたのですか」
ロジーナは自分より早くから許嫁のララに嫉妬したが、ショウが困った顔をしたのに好奇心がいっぱいになる。
「う~ん、かき氷屋の計画の前の前の段階で、父上とミヤにバレたんだよね。ケーレブ島のフレッシュチーズを運んで、かき氷屋の資金を貯めようとしたけど、フレッシュチーズを買うお金が無くて……八歳まで、お金を持った事が無かったからね。で、王宮の女官や侍従達のお使いをして、駄賃を貯めていたらバレて凄く怒られんだ。船を手に入れた遣り方は、秘密だよ。知ったら、皆に呆れられるもの」
ショウは、離宮の備品を売り飛ばしたなんて言えないので、秘密だと誤魔化す。
「まぁ、私達にも秘密だなんて」
「何かしら?」
口々に責められたが、ショウは口を割らなかった。
「こんな事を口外したら、父上とミヤに叱られるよ。あの時も、凄く怒られたんだ」
ララ達は、アスラン王やミヤに八歳のショウが厳しく叱られたと聞いて同情した。
「まぁ、小船でゴルチェ大陸に行くと言ったから、余計に叱られたんだけどね。あの頃は海の嵐なんか知らなかったから、昼はサンズで飛んで、夜は引っ張ってきた小船で寝れば良いかなと、馬鹿な計画を立てていたんだ。本当に無茶だったよね~」
メリッサは、ショウが八歳の頃から、そんな事を考えていたのかと驚いた。
「だから、パロマ大学に留学されたのですね。九歳で聴講生だなんて、いくら王子でも幼すぎますもの。叔父上はショウ様の考えが正しいかパロマ大学で検証してから、新航路発見の航海にだされたのね」
ショウは、メリッサがパロマ大学で学びたいのではと感じた。何故なら、隠しきれない憧れがアーモンド型の瞳を輝かせていたからだ。
「メリッサ、パロマ大学に留学したいなら、すれば良いよ。メルト伯父上に、僕からも口添えするから。今なら、サンズ島の開発で忙しくされているから、機嫌も良さそうだしね」
メリッサは、パロマ大学に留学! と喜んだが、ショウとの結婚はどうなるのかと不安になった。
「結婚まで一年あるし、その時は又考えたら良いと思うよ。メリッサなら、試験も合格できる」
「ショウ様、本当にパロマ大学へ留学しても良いの? 父上を説得して下さるの? 私、勉強をし直さなくてはいけないわ」
一瞬、他のメンバーはメリッサがパロマ大学に留学すれば、ライバルが減ると内心で喜んだが、大使館に帰るなりショウに家庭教師になってと頼み込むのを見て、油断も隙もないと怒った。
「あんなナイスボディのメリッサと何を勉強するか、わかったものじゃないわ」
ロジーナの腹立ちに、ララも不安になった。
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