第21話 ロジーナの逆襲
カジムの屋敷の方を眺めて、ロジーナは苛々していた。
「今頃、ショウ様はララと抱き合ってダンスの練習をしているのね。何故、ララだけカザリア王国の皇太子の結婚式に連れて行くの? このままじゃあ、ララに第二夫人の座を取られてしまうわ。父上からアスラン王にお願いして貰おうかしら」
ミミの策略に引っかかったロジーナだったが、そのくらいでは狙った獲物を諦めたりしない。
「未だ、奥手のララが手を出してないのは好都合だわ。ショウ様の初体験は私のものよ。肉食とバレたのは痛いけど、それを利用する手もあるわ。もうグイグイ押していくわ!」
ショウを手に入れる為に、天使のような顔を顰めて作戦を練る。
「そうだわ。メリッサとは、協力した方が良いわね。あのナイスボディは強敵だと思ったけど、侍女にスパイさせたら第一夫人を目指しているみたいだし、いずれは後宮を去るのですもの。メリッサはパロマ大学に興味を持っているから、二人で協力すればカザリア王国に行けるかもしれないわ」
ロジーナは先ずは自分に甘い父上を籠絡する事から始めた。
「父上~、ララだけカザリア王国の皇太子の結婚式に連れて行って貰えるのよ。私も結婚式に参列したいわ。とっても綺麗なウェディングドレスでしょうねぇ、見てみたいわ」
天使のようなロジーナが中身は王家の女だと知ってショックを受けたラズローだったが、こうして可愛らしく睫毛をぱちぱちされるとデレ~としてしまう。
「そうは言っても、カザリア王国は一夫一妻制だからなぁ。二人も連れて行けないだろう」
ロジーナは、悲しそうに目から涙を一粒零した。
「では、これから先ずっとララがショウ様と外交の場に出席するのね。ララが第二夫人になるんだわ、私は後宮の隅で寂しい人生を送るのね」
ラズローは自分の娘を蔑ろにさせないぞ! とロジーナを抱き寄せる。
「でも、ニューパロマまでは長旅だよ。可愛いお前に耐えられるだろうか? 船では毎日お風呂にも入れないぞ」
お風呂に毎日入れないと聞いて、ウッと思ったロジーナだが、そのくらい我慢しますわと訴える。
「お前のような可愛い姫が航海するのは心配だが、そこまで覚悟しているならアスラン王に言ってみよう。結婚式に参列はカザリア王国の都合も有るから無理かも知れないが、晩餐会とか、舞踏会とは分け合えば良い。第二夫人が決まるまでは、公平に夫人を扱うのが決まりなのだから。アスラン王は未だ第二夫人も決めていないから、ショウにもキチンと説明していないのだろう」
東南諸島連合王国の慣習を蔑ろにさせないぞと、息巻く父上に少し落ち着いて下さいとロジーナは宥めた。
「アスラン王は、傲慢な御方なのでしょう? 父上が年長者風を吹かせて慣習を持ち出しても、きっと反発なさるわ。姪を許嫁として公平に扱って欲しいと頼んで下されば、聞いて下さるかも」
ラズローは弟のアスランに頼むのは業腹だったが、ロジーナに甘えられると弱かった。
「そうだな、昔からアスランは強気な相手には反発したからな。可愛いお前のためだから、少し下手にでてやるか」
父上にアスラン王は任す事にして、ロジーナはメリッサにも協力を頼みに行った。
「ロジーナ、なんでカザリア王国の皇太子の結婚式になんか列席したいの? どうせララが列席すると思うわよ。航海の最中もララと二人にしたく無いのね? でも、ミミが二人っきりにさせないと思うわ」
ミミと言う名前でムカッとしたロジーナだが、平静を装ってメリッサの弱みをつく。
「スチュワート皇太子の結婚式って、六月なのよね。ニューパロマは初夏が一番良い季節なんですって。でも、パロマ大学生は春学期の期末試験でそれどころじゃ無いみたいだわ、兄上が留学されているから愚痴を聴いたことがあるの。パロマ大学って、夏休みもサマースクールがあるんですってよ。夏休みまで勉強するなんて、嫌だわねぇ」
メリッサは、ショウがパロマ大学に聴講生として通った事を聞いてから、自分も講義を聴いてみたいと望んでいたが、女の子を一人で留学させてくれるわけがないと諦めていた。
兄達がパロマ大学に留学した話をロジーナから聞いて、サマースクールなら、受講出来るかもしれないと、メリッサは期待する。厳しい父だって、許婚のショウが付き添うなら、文句を付けようも無い。
「そうねぇ、ロジーナが私のサマースクールの受講を後押ししてくれるなら、私も父上を説得して、アスラン王にカザリア王国に連れて行って貰えるように頼んで頂くわ。父上はサンズ島に航海出来るので機嫌が良いから、私の頼みを聞いて下さるわ」
二人の従姉妹は、キラリンと目を輝かせた。
アスランは、二人の苦手な兄達からカザリア王国の結婚式の件でうるさく言われて辟易とした。
「こんな事を考えたのは、ラズロー様では無いですわね。あの方は、娘をカザリア王国になぞ行かしたく無いでしょうから? ましてメルト様が、こんな事を言われるとは驚きましたわ。ロジーナとメリッサが、親をせっついたのでしょうけど、困りましたわね~」
ララの祖母としては拒否したいが、アスラン王の第一夫人としては許嫁として公平に扱って欲しいと言われると弱かった。
「カザリア王国は一夫一妻制だからと、突っぱねても良いのだぞ。私は少し王宮を留守にすれば良いだけだからな」
「もう! 逃げるおつもりですね。仕方ありませんわ。どうせ、ユングフラウでララだけドレスを作ったりしたら、他の二人も黙って無かったでしょうし」
ユングフラウのヌートン大使のカミラ夫人はファッション通で、結婚式や、晩餐会は東南諸島の礼服で良いけど、舞踏会では帝国風のドレスが良いと返事を返してきたのだ。
こうして、ショウには寝耳に水のような話で、スチュワート皇太子の結婚式に、ララ、ロジーナ、メリッサの三人の許嫁を連れて行く事になった。
「父上、冗談でしょ~? 三人を同伴するのですか」
半泣きになったショウに、アスランは追い打ちをかけた。
「三人も四人も一緒だなぁ、ミミも連れて行ってやれ。ダンスの練習に付き合って貰ったのだろ? 今更、留守番させるのは可哀想だ。そうだな、従姉妹を纏めて連れて行くか?」
ショウが何人従姉妹が居るのかと真っ青になったのを、アスランはケラケラ笑う。
「未婚の従姉妹は四人だけだ! 未婚の妹なら二人いるが、許婚がいるから兄とはいえカザリア王国にまで連れ出すのは拙いかもな」
ショウはゲッソリと父上の冗談には付いていけないと思った。
こうして、先ずはユングフラウにドレスを作る為に早めの出発が決定した。
ララは、ロジーナとメリッサも一緒だと聞いて驚きがっかりしたが、ショウの落ち込みように慰めにかかった。
「仕方ありませんわ、彼女達も許嫁ですもの」
「ララと一緒にニューパロマの本屋巡りをする約束は守るからね。なんで、こうなるのかなぁ」
二人でいちゃいちゃ慰め合っているのを嫉妬しながらも、ミミはロジーナの逆襲が始まったのに気づいた。
「流石に天使の顔をした悪魔だわ! でも、睫毛パチパチが効かない相手もいると、教えてやらなければ!」
長い戦いのゴングが鳴ったのに気づかないショウとララは、慰め合いからキスに発展していた。
ミミは、姉のララの邪魔もしなくてはいけない。鏡で無邪気な笑顔を作ると、キスしている二人の元へと走る。
「ショウ兄上~! 船旅には何が必要なのかしら?」
部屋にミミが侵入したので、キスしていたララとショウは、不自然なほど離れる。
「もう、そんなのは侍女に任せておけば良いのに……」
ミミが強力なストッパー役だとララは気づき、カザリア王国へ行くまでにどうにか追い払えないかと考える。
「そうだねぇ、着替えぐらいかな?」
ショウは、初めての船旅で不安なのかなと、ミミの下心には気づいていなかった。
ララは、ロジーナ、メリッサよりも、ミミが一番厄介なライバルかもしれないと、ショウに甘える態度に腹を立てる。
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